2005.08.15

私のがん体験 「僕たちはこれからだ」

 病気の体験をただ「辛く、悲しいもの」と考えるのではなく、貴重な体験として人生にプラスに生かしていけるようにしたい−−。そんな願いをもとに、患者さんに交流の場を提供しているNPO法人「楽患ねっと」から、人気コラム「私のがん体験」を紹介します。今回は、叔母さんを癌で亡くした汲田真帆さんの体験記です。

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『僕たちはこれからだ』  汲田 真帆

 私は3年前の秋、48歳の叔母を癌で亡くしました。叔母は姉である私の母ととても仲がよく、お互いの家を行き来していたので、私は従姉妹たちと姉妹のようにして育ちました。両家は家族のように生活していました。叔母には小さい頃からずいぶんと可愛がってもらいました。もうひとりの母のような存在であったと思います。

 そんな叔母は、生を終える最期の二十日間を、住み慣れた自宅で過ごし、家族に見守られる中、逝きました。私は、その間、夜間の見守り役としてその最期のときを叔母と共に過ごすことができました。その体験は私の中で大切な思い出として今も強く残っています。

 4年前の夏、叔母は腹水でぱんぱんになったお腹を抱えて病院にかけこみました。診断の結果は卵巣癌。他の臓器にも転移が見られ、すぐに手術、抗がん剤治療、受けましたが再発してしましました。通院で闘病を続けるつもりだったのですが、腎不全を併発してしまい、病院での生活に引き戻されてしまいました。

 「家に帰りたい、家で家族と一緒にいたい」叔母は在宅での治療を強く希望していました。しかし一口に家で過ごすと言っても、いろいろな準備が必要です。電動ベッドなど必要な物品を揃え、医師や訪問看護師、ヘルパーの派遣を頼みました。しかし、ただ一つ問題がありました。それは、叔母が「夜は身内でない知らない人が家の中にいるのは気が張るから、どうしても家には帰れない」と言ったことです。夜間付き添える家族がいない現状を知りながら、敢えてそんな希望を言った叔母は、このまま病院で療養していくというあきらめ、覚悟もあったのだろうと思います。

 私自身、その後、自分が夜間の付き添いをすることになるとは夢にも思っていませんでした。しかし、病院にいる叔母に会いにいったとき、白い壁に四方を囲まれ、その真ん中でぐったりとしている叔母を見て、はっとしました。もう食べ物を口からとることができず、ただ横たわっているだけの叔母でした。体の横からのびている点滴は、まるで叔母の体を縛っているように見えました。

 水を少し口に入れただけで苦しそうにもどし始める叔母の姿を見て、私はやるせない気持ちでいっぱいになりました。ふっくらとした優しい笑顔は面影もなく、やせ細ってしまった手を握るたび驚きを隠せませんでした。「これが本当に叔母なのだろうか?」胸がしめつけられるような思いでした。

 その頃私は実家をでて、ヘルパーとして働いていました。就職した先は、私が本当に心から願っていた場所でした。これから仕事を続けていきたい気持ちがあった私が退職して家に戻るという決断を下すまでは、正直だいぶ葛藤がありました。けれど「私が手伝うことで叔母の願いが少しでも叶うなら…叔母との時間は今しか過ごせない気がする、このまま叔母を失いたくない」という思いが強く、気持ちは固まりました。

 夜間の付き添いが見付かったため、叔母は退院しました。家に帰ってきたときの嬉しそうな叔母の表情は忘れられません。その日の空はとても澄みきった青で日の光がさんさんとしていました。病院から戻る車の中で叔母は始終にこにこしていました。

 叔母は家で毎日を一生懸命生きようとしていました。病院では出来なかったのに、歩いたり、何かを「食べたい」と言うようになりました。摘んできたハーブの香りを楽しみ、愛犬の頭をなでる…私のよく知っている叔母の姿がそこにはありました。そんな叔母の姿を見ることはとても幸せでした。

 しかし、それでも夜間の付き添いは気をはりつめるため、体がついていかず、正直辛い時もありました。しかし叔母は退院した時、冬まで生きられるかどうか…と言われていました。いつか終わる時がくる、という思いがあったからこそ、辛くても続けていくことが出来たのかもしれません。

 でも…一緒に過ごした時の叔母の笑顔が今もまぶたの裏に浮かんできます。だから今、心からよかったと思っていますし、この選択に後悔もありません。

*続きはこちらからどうぞ。


(まとめ:三和護、医療局編集委員)


■ 関連トピックス ■
◆2005.8.8 私のがん体験 「がんになって良かった」
◆2005.8.2 私のがん体験 「乳がんと宣告されて」
◆2005.7.29 NPO法人楽患ねっと、患者ニーズを病院運営に反映させる調査事業を展開へ
◆2005.1.7 NPO法人楽患ねっと、「患者の目から見た医療を知る」をテーマにシンポジウム
◆2004.6.18 楽患ねっと】 「いのちの授業」で伝えたいもの
「患者も大変だけど先生(医師)も大変だネ」

◆2004.5.6 楽患な人々】内田スミス あゆみさん(女性、30代) 
「私を支えてくれたのは、いろいろな人の闘病記でした」

◆2004.3.5 話題】 患者さんに交流の場を提供する「楽患ねっと」
患者さんが自ら語る「いのちの授業」を新たに展開

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