2005.08.12

【裁かれたカルテ】 HIV感染者であることを理由に手術を回避 「医学的根拠のない差別的扱い」と慰謝料の支払い命じる

 腰椎骨折の患者が入院。医師らは、手術的治療が最善であると認識しながら、患者がHIV感染者であったため手術的治療を回避した。手術的治療を実施すると、看護師らに二次感染への不安などから動揺が広がるのではないかと危惧したというのが、回避の理由だった。

 裁判所は、仮に手術的治療を実施していたとしても、その治療が功を奏して症状が改善した高度の蓋然性があるとまでは認められないとし、逸失利益などの賠償請求は棄却した。しかし、HIV感染者であることのみを理由にした手術回避は、「医学的根拠のない差別的取扱い」と認定。患者の適切な治療を受ける期待権および人格権を侵害したとして、慰謝料100万円の支払いを命じた。

■ 2000万円余の賠償を請求

 患者は、タイ王国国籍を有するDさん。1992年12月16日、Z県下のスナックでホステスとして働いていた時、男性客から暴行を受け、これから逃れるためにスナックの店舗2階から飛び降り、腰椎骨折の傷害を負った。

 Dさんは直ちに、救急車で被告C病院に搬送された。同月17日午前零時ころ、C病院に入院。その4日後、被告Y市が設置し運営する市立Y病院に転院した。しかし、下半身運動麻痺及び神経因性膀胱(膀胱麻痺)などの後遺障害が残った。

 Dさんは訴えを提起した後の1997年、タイにおいて、後天性免疫不全症候群(エイズ)により死亡した。このため、遺族らが、1999年9月20日、裁判の受継の申立てをして、今回の訴訟を承継していた。

 訴えの柱は、「被告C病院及び市立病院の医師らは、Dさんの腰椎骨折に対して手術的治療(脊髄の除圧手術及び脊椎の固定手術)を実施すべきだったのにこれを怠った。仮にDさんに対して手術的治療が実施されていれば、Dさんは完治したか、後遺障害を負ったとしても、さらに軽症だったはずである」などとというもの。

 また、「仮に手術的治療を実施していても、その治療が功を奏してDさんの後遺障害がより軽症となったかは不明であるとしても、すなわち、手術的治療を実施しなかったという不作為とDさんの後遺障害との間に因果関係が認められないとしても、患者は、手術的治療という適切な治療を受ける期待権を侵害された」などと主張し、慰謝料の支払を求めた。賠償請求額は、合計で2000万円余だった。

 訴えで最も注目すべきは、「市立病院の医師らは、Dさんに対して手術的治療を実施する必要があると認識しつつ、患者がHIVに感染していることが判明したことから、同病院の看護師や患者らに二次感染への不安などの動揺が広がることを避けるため、これを回避した」との主張だった(詳しくは有料ネット講座「まさかの時の医事紛争予防学」で提供しています)。

(三和護、医療局編集委員)

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