2005.08.05

ナタリズマブ臨床試験でCMLを発症した多発性硬化症とクローン病の3例、2人死亡、1人はシタラビンにより症状改善

 米Biogen Idec社と米Elan社が共同で開発、2004年11月に多発性硬化症(MS)治療薬として米国で市販許可を得たナタリズマブ(米国での商品名はTysabri)の販売は、2005年3月1日から中止されている。発売後も継続されていた臨床試験で2人の患者が進行性多巣性白質脳症(PML)を発症、1人が死亡したためだ。New England Journal of Medicine(NEJM)誌2005年7月28日では、これら2例と、クローン病を対象とするナタリズマブ臨床試験の被験者で死亡後、慢性骨髄性白血病(CML)だったことが判明した1例に関する症例報告を掲載した。

 ナタリズマブは、アルファ4インテグリンに特異的なヒト化モノクローナル抗体製剤だ。細胞接着因子であるインテグリンにこの抗体が結合すると、リンパ球の移動が妨げられる。

 PMLは、不顕性感染していたポリオーマウイルス属のJC ウイルス (JCV) の再活性化により起こる。JCVは中枢神経系のオリゴデンドロサイトに感染、これを破壊する。進行と共に神経機能が損なわれる。健康な成人の50〜70%はJCVに感染しているが、CML を発症するのは、細胞性免疫不全の状態が深刻な、エイズや白血病、臓器移植を受けた患者などに限られる。

 米Colorado大学のBette.K. Kleinschmidt-DeMasters氏らの報告は、46歳の女性の再発寛解型MS患者に関するもの。この患者は、2002年4月、ナタリズマブの臨床試験に登録された。インターフェロン・ベータ-1aの投与は2000年2月から継続。2002年4月12日から2004年7月9日までナタリズマブ300mgを4週ごとに静注。MRI画像にMS再発は認められず、その後さらにオープンラベルの延長試験の被験者となり、2005年1月18日まで追加投与を受けた。投与回数は37回。2004年11月、視覚と手の協調関係、および言語に異常が生じた。

 2004年12月15日、MRIでPMLの病巣が確認されたが、当時はMSの増悪と見られていた。その後、症状が悪化、ステロイドを投与。2005年2月12日に入院、MRIによる病巣は劇的に拡大、新病巣も出現。2月14日脳脊髄液と血清を採取。PMLを疑ったためMayo Medical Laboratoriesに送付、PCRによりJCV陽性が判明。患者は2月24日に死亡。剖検によりPMLを確認。この症例はナタリズマブの市販および治験中止のきっかけとなった。

 本論文の原題は「Progressive Multifocal Leukoencephalopathy Complicating Treatment with Natalizumab and Interferon Beta-1a for Multiple Sclerosis」、概要は、こちらで閲覧できる。

 ベルギーLeuven大学のGert Van Assche氏らは、星状細胞腫と診断され、死亡した60歳男性のクローン病患者について、死後、残された標本を調べたところ、PMLであることが明らかになったと報告している。クローン病患者にナタリズマブを単剤投与する治験に参加したこの患者は、2002年3月から300mgのナタリズマブ投与を4週おきに3カ月間うけた。その後、偽薬が9カ月間投与されたが、クローン病再発により2003年2月にナタリズマブ治療を再開。5回投与後の2003年7月3日、深刻な意識混濁と失見当識で救急部門を訪れた。

 入院後のCTとMRIは右前頭葉に大きな病巣、左前頭葉に小さな病巣の存在を示した。外科的切除後、グレードIIIの星状細胞腫と診断。術後も精神症状は悪化し、MRIによる病巣拡大も見られた。ステロイド投与を開始、放射線治療も計画されたが、症状は急速に悪化、2003年12月に死亡。剖検は行われなかった。

 2005年3月、ナタリズマブとPMLの関係が示されたため、この症例の再検討を開始。1998年9月以降の末梢血標本と、摘出した脳組織が保存されていた。免疫組織化学的分析により、脳病変にポリオーマウイルスを検出。次に血清と脳組織からJCVのDNAを検出した。ナタリズマブ単剤投与開始から3カ月後で、PMLの症状発現の2カ月前となる2003年5月に、血清JCV陽性になり、入院時の7月には血清JCV量は12倍に増加。脳標本からも非常に高レベルのJCVが検出された。

 本論文の原題は「Progressive Multifocal Leukoencephalopathy after Natalizumab Therapy for Crohn's Disease」、概要は、こちらで閲覧できる。

 3本目の報告は、米Stanford大学のAnnette Langer-Gould氏らによるもの。現在45歳の患者は、1983年にMSを発症。インターフェロン・ベータ-1aは1998年から投与されていた。2002年10月に被験者登録、ナタリズマブ併用を開始。その後2年間は再発なし。2003年10月のMRIでMSに典型的な病巣を検出。2004年10月になると新病変が出現。2004年11月、行動に異常が現れた。12月半ば、注意と集中が難しいと訴えた。MRIで非炎症性PMLと見られる病変が認められた。ナタリズマブ投与を中止。投与回数は28回。臨床的に明らかな免疫不全なし。2005年2月、脳脊髄液を分析。血清と末梢血単核球、脳脊髄液からJCV DNAを検出。右前頭葉の生検を実施、JCV陽性を確認。ステロイド治療にもかかわらず3週間は症状が急速に悪化。シドフォビル5mg/kgを2週ごとに投与。8日後、末梢血単核球と血清のJCV DNAは陰性、脳脊髄液は陽性となったが、MRIによる病変はその後さらに拡大。四肢の麻痺、失語が進み、反応性が低下。免疫グロブリンを投与。ナタリズマブ投与を中止して3カ月後、免疫再構築症候群と見られる症状が現れた。炎症性の反応が脳に見られ、病巣拡大、臨床症状の悪化がおこり、寝たきりとなった。2005年4月初旬、シタラビン2mg/kg/日を5日間静注。それから2週間後、会話を再開。最初の治療から4週後、再度シタラビン治療を実施。それ以降、持続的に症状改善が見られている。

 本論文の原題は「Progressive Multifocal Leukoencephalopathy in a Patient Treated with Natalizumab」、概要は、こちらで閲覧できる。

 ナタリズマブがなぜCMLを引き起こすのかについては、2報目の著者たちは以下のような機序を推定している。まず、アルファ4インテグリンは、腸と脳への白血球の移動に選択的に関与する。したがって、これを阻害するとCD4+細胞とCD8+細胞の中枢神経系への移動が妨げられ、中枢神経系の免疫機能が低下する可能性がある。また、アルファ4インテグリンは、血液脳関門を構成する内皮細胞にも高レベルに発現されているため、ナタリズマブ投与により血液脳関門の機能が損なわれ、JCVの脳内への進入が容易になる可能性がある。3報目の著者たちは、血液脳関門の機能が衰えたために、通常は中枢神経系に侵入しにくいシタラビンの効果が予想以上に得られたのではないかと推測している。

 また、ナタリズマブの作用は、投与中止後3カ月持続することが示されている。今回の症例においても、JCV血症は投与中止から3カ月程度持続した。神経症状も進行した。このため、CMLの早期発見は必須だ。MRIでは初期のCMLをMSと区別することは難しい。ただ、より頻繁にMRIを行い、血清のJCV DNAを定期的に調べることにより、より早く診断できる可能性はある。実際に2例目には、症状が現れる2カ月前からJCV血症が認められている。

 治療については、HIV患者のCML管理に使用されているシドフォビルは、in vitro でその効果が確認されておらず、今回の3例目にも無効だった。一方、シタラビンはin vitro でJCウイルスを殺せるが、通常は、中枢神経系にはわずかしか侵入できない。が、ナタリズマブ投与後には、その効果が高まる可能性が示唆された。3例目が回復を示している理由については、著者たちも不明と述べるに留まっているが、部分的な回復が可能であることは示された。(大西淳子、医学ジャーナリスト)

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