2005.07.19

非小細胞肺癌に対するエルロチニブの生存利益はEGFRステータスとは無関係、3相臨床試験結果の分析から

 カナダToronto大学のMing-Sound Tsao氏らは、エルロチニブ第3相臨床試験の被験者となった非小細胞肺癌患者の生検標本を対象に上皮成長因子受容体(EGFR)の発現、増幅、突然変異を調べた。得られた結果は、エルロチニブ治療に適した患者を選出するためには、変異解析は必須ではないことを示した。詳細は、3相結果をまとめた論文(関連トピックスを参照)と並んでNew England Journal of Medicine(NEJM)誌2005年7月14日号に報告された。

 多くの研究が、肺がん患者の一部にEGFR遺伝子の変異が存在することを示し、それらがEGFRを標的とする治療に対する奏功率の予測に利用できる可能性が想定されてきた。EGFR 遺伝子の変異は、腺腫、女性、アジア系、非喫煙者に、より高率に見つかる。今回のエルロチニブ3相は、主要エンドポイントが全生存率、2次エンドポイントが奏功率におかれたが、女性、アジア系、腺腫、喫煙歴無し患者の奏功率は実際に高かった。生存利益が有意だったのは喫煙歴なしのグループだ。研究者たちは、やはりEGFR阻害剤であるゲフィチニブのように、エルロチニブもまた、EGFR遺伝子の変異の有無と有効性に関係があるかどうかを調べることにした。

 3相では、731人の患者のうち、488人がエルロチニブ群、243人が偽薬群に割り付けられた。生検組織が利用できたのが532人、うち1種類以上の検査に適用したのは治療群212人、対照群116人に由来する標本だった。

 まず、免疫組織化学(IHC)染色によりEGFR蛋白質の発現を調べた。325人分(44%)の標本が分析可能だった。10%以上の細胞が染色された場合に発現陽性とすると、184人(57%)が陽性となった。偽薬投与群と比較した場合に、陽性者の生存利益は有意だった(ハザード比0.68、P=0.02)。EGFR陰性ではハザード比0.93(P=0.70)で利益は有意でなかった。

 次に、蛍光in situハイブリダイゼーション(FISH)を行って遺伝子のコピー数を調べた。FISH分析が可能だったのは125人(57%)。うち56人(45%)に高度のポリソミーまたは増幅が見られた。これらの患者には有意な生存利益が認められた(ハザード比0.44、P=0.008)。ポリソミー/増幅が見られない患者のハザード比は0.85(P=0.59)で生存利益は有意ではなかった。

 EGFR遺伝子の変異解析が可能だったのは177人に由来する標本。40人の患者から45通りの変異が検出された。結果は、変異を持つ患者群で奏功率はより高い(変異有り群で16%、変異無し群では7%、P=0.37で非有意)傾向が見られた。が、EGFR遺伝子の変異の有無は、生存率とは無関係だった。ハザード比は、いずれも有意でなく、変異なしの場合0.73(P=0.13)、変異ありが0.77(P=0.45)だった。

 生存利益に関する多変量解析では、EGFR蛋白質の発現、コピー数、突然変異の有無は、生存期間に影響しないことが示された。したがって、EGFRの分析は患者選出には不要と考えられた。多変量Cox解析により生存利益が有意だったのは、エルロチニブ治療(P=0.001)、アジア人(P=0.01)、喫煙歴無し(P<0.001)、体重減少が5%未満(P=0.03)、全身状態(PS)が0-1(P<0.001)、シスプラチン治療歴なし(P=0.04)、診断後12カ月以上たってから試験に参加(P<0.001)などの要因だった。

 エルロチニブは2004年11月にFDAの承認を得た。単剤での適応は、特定の患者サブセットに限定されておらず、EGFR の発現や変異の検査は必要ない。

 本論文の原題は「Erlotinib in Lung Cancer−Molecular and Clinical Predictors of Outcome」、概要は、こちらで閲覧できる。 

 なお、論文に添えられた論説で、James H. Doroshow氏は、EGFRステータスにかかわらず生存利益が得られることは、エルロチニブは、EGFR単独でなく、癌細胞の増殖に必須の別の系路を介した作用も併せ持つ可能性を示唆するという。今後さらに、 エルロチニブの作用機序を明らかにする研究が必要で、その過程で、奏功性や生存利益の予測に有用な複数のマーカーが見つかり、いずれは個の癌治療の開発に結びつくだろう、と述べている。(大西淳子、医学ジャーナリスト)


◆ 2005.7.19 EGFR阻害剤エルロチニブ、非小細胞肺癌を対象とする臨床試験で生存期間を2カ月延長



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