2005.07.15

【Q&A】説明内容に対する理解の程度が充分かどうか曖昧な場合 家族の意見はどこまで尊重されるべきか (その2)

 読者からの投稿を機に、「治療の選択・決定権」について、アンケートを実施しました。引き続き、その結果を報告します。

 ご意見、ご感想は、編集部( medken@nikkeibp.co.jp )までお願いいたします。

 アンケートでは、提示された以下の事例で、「手術しない場合の死亡の可能性>手術した場合の死亡の可能性」と医師が判断した場合、本人が承諾すれば家族が反対しても手術するべきかどうかを尋ねました。

 結果は、「手術するべきだと思う」は40.5%で、「手術するべきでないと思う」も40.5%となり拮抗していました。「分からない」は18.9%でした。
*グラフは以下をご覧ください。


 今回はその理由を紹介します。

事例】

 80歳代の方が急性大動脈解離(Stanford A型)で救急搬送された場合。

 患者は日常生活において、特に痴呆の様な症状はなく、コミュニケーション
も問題なく、食事などの摂取に関しても完全に自律している方でした。しか
し、御高齢であるため、医学的な事はいかに分かり易く説明したつもりでも、
充分理解できているかどうか曖昧な印象を医療従事者が持っています。患者は
急病とはいえ、話を聞き、自らの意思を伝えることは充分可能な状態としま
す。手術しなければ、間違いなく死んでしまうであろうことや、手術そのもの
にもリスクがあることは説明し、本人からは手術して欲しいという意思が述べ
られました。しかし、医療従事者は患者の理解度に不安があることから、家族
にも説明します。そこで家族は「手術して欲しくない」と言い出しました。

 治療の選択・決定権は患者本人にのみあると思われるのですが、患者が果た
して「充分理解している」といえるかどうか不安であるという理由で、医療従
事者は家族の意見を尊重しようとしました。それが、本人の意思とは異なる場
合はどうすればいいのでしょうか。


アンケート結果】

<手術するべきだと思う>

■ 治療の選択は、患者が正常な判断能力を有すると考えられる場合、患者にのみ存在するのであり、たとえ家族でもそれを侵害することはできないと考える。

■ 患者の意思表示がはっきりしているから。家族が患者を説得しない限り、手術をすべき。逆に、家族だからといって、患者の治療権を奪えない。

■ 本人の希望を優先させるべき。

■ 手術をするべきと解答しました。しかし、本人と家族の治療選択が異なる時はこのように医療者側は困るので、話し合える時間があれば本人と家族で意見を一致してもらえるよう話をすすめます。それでも一致しないのであれば本人の理解力に程度はあっても意志の表現はできるので、本人の決定権を尊重しなくてはいけない旨を家族に理解してもらって手術をすると思います。

■ 治療の選択・決定権は一番に患者本人にあり、その権利が行使できないときなどに親権者(家族親族)の決定件が初めて浮上してくる。この症例のようにそのいずれかが不明瞭な場合、治療する医師の良心、自分の施設の力量などを加味して治療者が決定すべきである。ただしこの際その結果責任については、医師が負わなければならない。

■ 患者の状態の前提条件では、あくまでも自己決定能力があると判断されます。とすれば患者の理解度がどのようなものであろうと、医療者と患者が十分に話し合いをしてお互いに了解したと判断するのであれば治療を受ける本人が決定すべきです。家族の判断は、時に家族自身の利益をもとにされることがあり、患者の利益に反することがあると思います。医療者が勝手に理解力がないものと判断して、患者本人の自己決定権を侵害するのは許されないと思います。

■ 本人に判断能力ある以上、それを尊重すべき。家族の意見が必ずしも本人の利益を代弁しないこともある。もちろんトラブルはできるだけ回避すべきであり、本人・家族同席の元に十分に話し合いを持ち両者が納得をする結論が得られるように努力は必要。

■ 患者と家族のコミニュケーション不足であると考えます。同じ部屋で、患者と家族同時に説明し、また最終的な返事も、同じ部屋で聞くべきです。そこで、意見の食い違いがあるようなら、患者本人の意志を尊重すべきです。

■ 最終決定は本人にあり、痴呆症状がないと家族が認めているのであれば、家族を説得して手術を勧めます。

■ 本人が明らかに禁治産者のごとくであるという印象がある場合には家族の意見を尊重するべきと考えるが当該家族が、必ずしも本人の利害に一致するかどうかを確認することはさらに困難であるため、ある程度の自立性があると判断される場合には、本人の意見を尊重するべきであると思います。

■ 原則として本人に生存を追求する意志がある限りそれを最大限に尊重すべきである。この事例の場合は説明に対する理解の程度云々という問題ではなく、生存の可能性の高い方を本人が選んでいるのであり、たとえ家族といえども本人の意志に反して生存の可能性の低い方の選択を強いることはできないと考える。反対する家族にもこの点を充分に話し納得が得られるようにすべきである。

■ 自立した本人の意思だから。

■ 本人に判断能力があると考えられれば、あくまでも自己決定権に基づくべきであるから。もちろん、判断能力がないと判断される場合には別である。

■ 本人の意思を尊重すべきであるが、家族の意思もあり、病院全体として、倫理委員会などの組織に判断をゆだねる必要があると思う。

■ 家族の意向も無視できないが、本人の意志が最も重要だと考える。


<手術するべきでないと思う>

■ 患者が手術を望んだのに理解度に不安があるので家族にも説明したというのは、手術がハイリスクだから治療の限界を事前に納得してもらうことが目的である。あるいは手術自体が成功しても最終的予後は危ぶまれるであろう。そのようなハイリスクを伴う濃密治療を平均寿命を超えた人に積極的に行うべきではない。それが死を意味しようとも。保存的治療でできるだけ頑張るということで主治医は免責されるであろう。

■ 日本では本人の自己決定権についての認識が低い。高齢者であり、後でトラブルとなった際に、本人の理解度を証明することが難しい。

■ 死亡した場合、もめるのは家族との間だから。

■ 死者は訴えないから。

■ 残念ながら、その後の医療者側の責任を追及してくるのは家族でありご本人ではない。そのためご本人の医師より後に残るご家族の意思を尊重しなければ紛争に巻き込まれる可能性がかなり大きくなることもありうると思います。ただし、ご家族の意思も統一されているとは限らないので、説明とその回答をさりげなく書き添え、さりげなくご家族の署名をもらい、もし争いになったとしても家族内の争いで医療側が当事者とならない工夫をすることはあります。

■ 本人が十分な経済的・精神的負担を担保できる保証がない場合、すべての家族の同意があれば手術を取りやめるべきである。

■ 手術して患者が死亡した場合、家族が医師を訴える可能性が高いと思われます。その逆の場合(手術をせずに患者が死亡した場合)には患者は死亡しているため、家族は手術をしない時のリスクを受容しており、トラブルは起きないと思います。ただ、本来は裁判等で、高齢の患者の後見人が指定されていない場合には患者の意見を尊重すべきとは思いますが、医師の自己防衛のために上記のように判断します。

■ 手術に関する同意書を取る際に、患者本人以外に家族の記載を求めることが多い。このケースでは、家族の同意が得られていないと判断し、手術はさけるべき。倫理的な問題は残るが・・・。

■ 家族を含めたインフォームドコンセントが得られなかったら、強行すべきでないから。

■ 本人と家族の意見の調整を医師が行わざるを得ない。一致してから手術に踏み切るなり、やめるなりを決定したい。

■ 理論上は本人の意思を尊重すべきだが、例えば患者さんが亡くなった場合、「手術をしないでくれと言ったのに!」と訴えるのは家族です。簡単にそうですか、とは言えませんが、本人が希望しているのに手術しないのですが本当に良いのですか?と確認すべきです。


<分からない>

■ 家族はどうして「手術して欲しくない」とおっしゃったのでしょうか。(1)手術後の管理や介護に不安を感じ、家族として責任がもてないから、(2)家族として本人の理解度を把握され、体力面、精神面でしない方がいいと判断されたから、(3)家族関係が良好でなく、むしろ死期を早める選択をされているのか(相続がらみ)――。いずれにしても、家族が反対される理由、背景を許される時間内で把握する必要があると思います。

■ 医事訴訟が頻発するまでは、ほとんど医学的根拠のみに基づき患者の治療にあたってきた。医学的に正しければ訴訟に負けることもなく、医学的正当性のみが真実だと(真実に近いと)判断してきたからであるが、医学的に最善をとっても不幸な転機をとればこの時代、世間からどう判断されるか分からない。今では、医療の正しさは医師の主観だけではなく、裁判所や一般の人々の考えも反映されるようになってきている。世間一般の考え方と医者の考え方のずれがどの程度あるのか、そこが分からない事例だから。

■ ER等の米国の医療番組を見ていると、だれに決定権があるかが一義的に明確に決められているようで、場合によっては理不尽と思われるときもあるが、非常に分かりやすい。この場合、米国では、家族がなんと言おうと本人の意思が尊重されるのであろうが、日本の場合は、その辺が曖昧で、結果が悪ければ訴えられかねない。日本でも法的に明確に決めて欲しい。個人的には本人の意思が最も尊重されるべきで、自分が米国の医師であれば、迷うことなく、手術をすると思うし、すべきである。

■ 家族と本人を含めてじっくり話し合うべきだ。リスクとベネフィットを両者に十分説明する。それでも本人の意思が変わらないのであれば、手術をしなければ間違いなく死んでしまうという状態の場合、手術をする方向に家族にも医師から話をした方がよいと思う。手術をしなければ間違いなく死んでしまうと分かっていて、本人の意思を無視して手術をしなかった場合、家族の責任にはできず、医師に責任が及ぶのではないか。

■ とにかく家族と本人との話し合いをさせ最終的に統一した見解を持たせるべき。

■ 医学的には手術するべきと思うが、法的または社会的判断は異なるかもしれない。怖いのはその家族に「そのお年寄りにはもう死んで欲しい」という考えがないとは言えない点。また、手術すればどのような結果になったとしても(たとえ回復しても)家族とトラブルになりそう。退院拒否とか、希望しない治療だったとして支払い拒否とか・・・。

■ これは全くケースバイケースであります。家庭環境など様々の要因が入ってきます。大事なのは、本人・家族が相談して決めることでしょう。医師がするのは、医学的状況とそれに取りうる対応策、リスクのみしかできないでしょう。本人に判断能力があるのならば、家族と相談して決め手もらうべきでしょう罪になるか否かは、医療側の説明とあちら側の判断の問題次第でしょう。

(まとめ;三和護、医療局編集委員)

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