2005.06.28

【裁かれたカルテ】 異型狭心症で入院歴のある患者が死亡  硝酸薬点滴の実施で再発作を回避できた(続き)

 裁判では、(1)緊急搬入で入院した際、被告医師が硝酸薬の点滴をしなかった点に過失があるのか、(2)患者による点滴拒絶はあったのか、(3)硝酸薬の点滴に関連して、被告医師の説明義務違反があったのか−−などが争点となった。

 判決ではまず、異型狭心症に関する医学的知見について、以下の通りまとめている。

◆表−異型狭心症に関する医学的知見(判決文から抜粋)

 ・異型狭心症とは、冠攣縮性狭心症の一種であり、その発作が安静時に出現し、通常労作によっては誘発されない点で労作性狭心症と異なる。心電図のST上昇を伴うのを特徴とし、その原因は、1本の太い冠動脈の攣縮であり、冠動脈の器質的狭窄の有無とは必ずしも関係がないとされている。

 ・狭心症の既往のない患者、または半年以上発作のない狭心症患者に胸痛が出現した場合、狭心症発作の回数や頻度が増加した場合、あるいは発作のパターンが変わった場合、不安定狭心症として、安定狭心症と区別される。不安定狭心症は、急性心筋梗塞や突然死に移行しやすく、早期に確実な治療が必要であるとされている。

 ・異型狭心症の治療には、(1)硝酸薬が著効を示し、その他、(2)カルシウム拮抗薬、(3)β遮断薬、(4)その他の冠拡張薬が用いられる。(1)硝酸薬には、ニトロペン、ミリスロール、ミリステープ、ミオコールスプレー、フランドルテープなどが、(2)カルシウム拮抗薬には、ヘルベッサー、アダラート、ノルバスクなどがある。

 ・異型狭心症の予防としては、カルシウム拮抗薬が第一選択となり、硝酸薬、あるいはニコランジル(シグマート)を併用すれば、一層効果的であるとされている。

 ・不安定狭心症の治療ないし発作の予防としては、通常、硝酸薬とカルシウム拮抗薬、あるいはニコランジル(シグマート)を併用し、心機能が良好で血圧の上昇や心拍数の増加が発作の誘因と考えられる症例には、β遮断薬も併用する。

 ・以上の併用でも無効な場合、あるいはすでに薬物治療を受けていた症例で症状が増悪した場合は、経口薬から注射薬に変更するとされている。

■ 硝酸薬の点滴をしなかった点に過失があった

 裁判では、K鑑定、L鑑定、M鑑定の3つの鑑定が提出された。それぞれのポイントは以下の通りだった。

◆K鑑定のポイント

・本件患者は、狭心症発作が頻発及び増悪したために入院したものであり、不安定狭心症の治療を目的としている。狭心症予防薬としてカルシウム拮抗薬の内服と硝酸薬貼付がすでに施行されており、この状態で不安定化した狭心症の治療としては、硝酸薬あるいはこれと同様の効果が期待される薬剤の持続静注が必要と考える。

・入院初期の治療として、ミリスロール等の硝酸薬点滴を行わなかったのは不適切であったと考える。

・不安定狭心症患者は、急性心筋梗塞に移行する可能性が高い。主治医は、この病態を患者に十分説明し、硝酸薬点滴を使用すべきであったと考える。

・仮に、本件患者がミリスロール等の点滴に拒否的であった場合であっても、その必要性を十分説明して、本件患者の初期治療として、ミリスロールなどの硝酸薬あるいは同等の効果が期待できる薬剤の点滴を行うべきであった。

◆L鑑定のポイント

・症例では、ミリステープとカルシウム拮抗剤が投与されており、ミリスロール等の硝酸薬点滴を行わなかったことだけをもって、不適切な治療と判断することは難しい。

・仮に、本件患者がミリスロール等の点滴に拒否的であった場合についても、ミリスロール等の点滴を行わなければならない状態であったかどうかについては、判断が難しい。

・基本的に患者の了承のもとに治療を行うわけであるから、了承を得られない限りはその治療を行うことはできないのであって、拒否する場合において点滴を強制的に行うことが妥当であるかどうかは疑問である。

◆M鑑定のポイント

・本症例は、失神発作を繰り返していることからハイリスク群に該当する。本件では、十分な量の抗狭心症薬が投与されており、慢性期の発作予防の治療としては適切であったといえるが、ハイリスク群に対する活動期の治療としては、硝酸薬点滴を行わなかった点は不適切であったといえる。
 
・発作の活動期における治療の基本は、冠拡張薬の持続点滴であり、純粋医学的には、本件の場合、必要性を十分に説明して行うべきであり、仮に、本件患者がミリスロール等の点滴に拒否的であった場合であっても、その必要性を十分説明して、ミリスロール等の硝酸薬点滴を行うべき状態であったといえる。

・必要性を十分に説明したにもかかわらず、患者側が点滴を拒否したのであれば、医師側には非は認められないこととなるが、どの程度の必要性をもって説明したかが問題となろう。

 以上をまとめれば、硝酸薬の点滴をしなかった点に着目すると、K鑑定とM鑑定は、「ミリスロール等の硝酸薬点滴を行うべき状態であり、硝酸薬点滴を行わなかったことは不適切であった」と判断していた。その一方で、L鑑定は、「硝酸薬点滴を行わなかったことだけをもって不適切な治療と判断するのは難しい」と結論付けている。

 最終的に判決は、K鑑定とM鑑定の判断を受け入れ、「前回の入院時にミリスロールの点滴を行って、症状が軽快しているという治療実績もあり、しかも、被告医師も、本件入院時のEさんの病状は、前回より決して軽くないとみていたのであるから、本件入院時において、Eさんは、硝酸薬点滴を必要とする状態であったといえる」と判断した。

 その上で、第2回入院の退院後も発作を繰り返して、第3回目の入院となった経緯からすれば、「患者がミリスロール等の点滴に拒否的であった場合であっても、その必要性を十分説明して、ミリスロール等の硝酸薬点滴を行うべき状態であったといわなければならない」と結論付けたのである(詳しくは有料ネット講座「まさかの時の医事紛争予防学」で提供しています)。

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