2005.06.23

抗酸化サプリメントによる老化防止説、介入試験結果は必ずしも裏付けず

 以前このコラムで「『○○革命』というタイトルの本を見ると、胡散臭く思ってしまうのは私の悪い癖だ」と書いたことがある。今まで読んだ2冊の「革命」医学本は、巷のいろいろな健康問題を自分の仮説により説明するものであって、自説を臨床研究により証明するものではなかった。そして、今回新たに「革命」医学本が出版された。今度の「不老革命」はフリーラジカル研究の第一人者でもある臨床医学系の大学教授によって書かれたものである。

 この本は、ハーマン博士の「フリーラジカル老化仮説」に基づいて書かれている。簡単にいえば、「ミトコンドリアでエネルギーを産生する際に発生するフリーラジカルが細胞膜やDNAを傷害する。加齢に伴い、このフリーラジカルを除去する機能が低下するために老化するのだから、抗酸化作用を持つサプリメントを摂取して老化を防止しよう」ということが本書の主張である。

 著者は抗酸化サプリメントを推奨する理由として、不規則な食事、ファーストフードやインスタント食品の過剰摂取による抗酸化物質の不足、過食による活性酸素の産生過剰、野菜などの抗酸化ビタミン含有量の不足などをあげている。はたして抗酸化サプリメントの摂取でこれらの問題が帳消しになるというのだろうか。

 最近の抗酸化サプリメントによる介入試験の結果は必ずしも著者の仮説を裏付けるものではない。βカロテンは総死亡率(参考文献の1)や消化器癌の発症率を上昇させる(2)。ビタミンEは総死亡率に影響しないか(1,3)、場合によっては長期摂取にて心不全発症率が上昇するし(4)、高用量のビタミンE摂取は総死亡率を上げる(5)。ビタミンEやβカロテンは高齢者の肺炎の発症率も抑制しない(6,7)。ビタミンEは認知症の進行も抑制することができなかった(8)、などである。

 最近では唯一、今年の米国心臓学会で発表されたWoman's health studyのビタミンEの投与により心血管死亡率が低下したという報告があるが、それでも総死亡率は低下しなかった。

 著者が推奨するコエンザイムQ10やαリポ酸にしても、私の調べた限り死亡率を低下させたという臨床研究はない。私の見つけたマウスの実験では、コエンザイムQ10、αリポ酸、カロリー摂取制限のうち寿命が延びたのはカロリー摂取制限のみであった(9)。

 著者はサプリメントの科学的根拠を重視すると言っているが、前述の数々の科学的根拠について、ほとんど言及していない。唯一βカロテンの肺癌発症率増加について述べているが、そこでは「すでにできている癌細胞については、βカロテンがその成長をすすめてしまうため」とコメントしているに過ぎない。

 確かに抗酸化サプリメントを単独で摂取することが問題なのかもしれない。著者は複数の抗酸化サプリメントを摂取する「抗酸化ネットワーク」を利用することを推奨している。しかしながら、これだけ抗酸化サプリメントについてネガティブなデータがある以上、この「抗酸化ネットワーク」が総死亡率を低下させるという直接的な介入研究がない以上、抗酸化サプリメントを老化防止に利用することは時期尚早であろう。

 加齢という現象は複雑である。「フリーラジカル老化仮説」は数ある老化仮説の中の一つに過ぎない(10)。たとえそれが有力な仮説であっても、あくまで仮説である。老化防止のためには、問題のある生活習慣の是正が最優先だとしか現時点では言えない。ところが、200ページあまりのこの本で、「生活習慣の見直し」にはわずか数ページしか割かれていない。

■ 参考文献 ■
(1)Vivekananthan DP, et al.: Use of antioxidant vitamins for the prevention of cardiovascular disease: meta-analysis of randomised trials. Lancet. 361:2017-23, 2003
(2)Bjelakovic G, et al.: Antioxidant supplements for prevention of gastrointestinal cancers: a systematic review and meta-analysis. Lancet. 364:1219-28, 2004
(3)Eidelman RS, et al.: Randomized trials of vitamin E in the treatment and prevention of cardiovascular disease. Arch Intern Med. 164:1552-6, 2004
(4)Lonn E, et al.: Effects of long-term vitamin E supplementation on cardiovascular events and cancer: a randomized controlled trial. JAMA. 293:1338-47, 2005
(5)Miller ER 3rd, et al.: Meta-analysis: high-dosage vitamin E supplementation may increase all-cause mortality. Ann Intern Med. 142(1):37-46, 2005
(6)Meydani SN, et al.: Vitamin E and respiratory tract infections in elderly nursing home residents: a randomized controlled trial. JAMA. 292:828-36, 2004
(7)Hemila H, et al.:Vitamin E and beta-carotene supplementation and hospital-treated pneumonia incidence in male smokers. Chest. 125:557-65, 2004
(8)Petersen RC, et al.: Vitamin E and donepezil for the treatment of mild cognitive impairment. N Engl J Med. 352:2379-88, 2005
(9)Lee CK, et al.: The impact of alpha-lipoic acid, coenzyme Q10 and caloric restriction on life span and gene expression patterns in mice. Free Radic Biol Med. 36:1043-57, 2004
(10)Brian T, et al.: Physiology of aging invited review: theories of aging. J Appl Physiol 95:1706-16, 2003


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