2005.06.22

【裁かれたカルテ】 異型狭心症で2度の入院歴のある患者が死亡 硝酸薬点滴の実施で再発作を回避できたと認定

 異型狭心症で2度の入院歴のある患者が緊急搬入されてきた。医師は、患者が硝酸薬点滴を拒否したと判断。結局、硝酸薬点滴をせず、患者は再度の狭心症発作を起こし死亡してしまった。裁判所は、担当医師が硝酸薬点滴を行っていれば、再度の発作が回避できたと認定。拒否した患者の過失も認め、過失相殺した上で、損害賠償を認める判決を下した。今回は、患者の治療拒否は、医師が十分な説明をした上でのことなのかどうかが争われた裁判を取り上げる。

 狭心症の発作で被告の経営する病院に救急搬入された患者Eさんは、その日の午後、再度発作を起こして死亡した。享年64歳。遺族らは、患者が死亡したのは、被告病院の入院時の処置あるいは発作に対する処置が不適切だったためとし、5400万円余の賠償を求めて提訴した。


■3回目の入院の際、ミリスロールの点滴は行われなかった

 裁判所が認定した事実経過は以下の通りだった。

 2月10日。Eさんは、起床したときに動悸があり、排尿後、意識を失った。その後、被告病院を受診したが、胸部レントゲン上も、心電図上も、異常は見られなかった。

 3月17日から24日まで。Eさんは、その後も意識消失を経験したため、この間、失神発作の精査目的で被告病院に入院した。これが第1回目の入院だった。

 3月19日。被告病院のF医師は、Eさんを異型狭心症と診断した。

 3月24日。Eさんは、冠動脈造影検査のためG病院に転院し、同日から同月27日までの間、同病院に入院して検査を受けた。その結果、冠攣縮性狭心症と診断された。

 6月2日。Eさんは、この日の早朝、動悸とともに失神発作を起こし、被告病院に入院した。これが第2回目の入院だった。F医師の指示により、ミリスロールの点滴が開始され、内服薬はノルバスク1錠、シグマート3錠とされた。ミリスロールの点滴は、6月8日分まで行われたが、失神や胸痛などの胸部症状がなかったため、6月9日からミリステープ2枚に変更された。Eさんは、第2回入院当初、頭痛を訴えていたが、ミリステープに変更されてからは、頭痛の訴えはなくなった。

 6月22日。Eさんは、状態が安定したため退院した。F医師は、自宅での薬剤として、アルタット1カプセル、パナルジン1錠、シグマート3錠、ノルバスク1錠、ミリステープ2枚を処方した。

 7月2日と同月5日。Eさんは、起床時に動悸がしたため、ミオコールスプレーを使用した。症状は改善した。

 7月7日。Eさんは、動悸や気絶感があったため、被告病院を外来で受診した。F医師は、ノルバスクに変えてヘルベッサーを処方した。

 7月12日。Eさんは、午前5時30分ころ、起床してトイレに行ったところ、動悸がして、気絶感を感じ、トイレに腰掛けて、ミオコールスプレーを使用したが、そのまま意識消失し、数分間で回復した。午前6時50分ころ、救急車で被告病院に搬入され、当直医であるH医師の診察を受けた後、F医師の指示で、即時入院となった。これが第3回目の入院。この際、F医師は、入院時の指示として、安静度「ベッド上安静」、排泄「尿・便器」使用、酸素吸入(1分間当たり1L)、ミリステープ2枚(朝、夕)、心電図モニター使用、胸痛時には、ミオコールスプレーを2回まで使用することを指示した。ミリスロールの点滴は行われなかった。

 同日午前9時30分ころ。Eさんは、入室直後に尿意を訴えた。I看護師は、尿器の使用を勧めたものの、Eさんが尿器では出ないのでトイレに行くことに固執した。このため、I看護師は、看護師長を呼び、ベッドをトイレの側まで動かし、トイレで排尿をさせたところ、Eさんは、排尿後に呼吸苦を訴えた。

 Eさんは、酸素吸入を開始し、ミリステープを貼用したところ、2、3分で落ちついてきた。I看護師は、Eさんに対し、シグマート、ヘルベッサーを内服させ、今後は、尿器を使用することを促した。

 そのころF医師は、訪室して、Eさんに対し、安静にすべきことを説明し、ミリスロールの点滴をするように勧めた。Eさんは、「またあの点滴ですか」と言って、点滴に拒否的な態度を示した。このため、F医師は、ミリスロールの点滴をしないことにした。

 同日午後。Eさんは症状が消失し、午後2時ころ、尿器で排尿を行った。

 同日午後3時ころ。Cさんが病室を訪れ、Eさんに「点滴していなかったんだね」と言ったところ、Eさんは「軽かったのかな」と答えた。

 同日午後6時30分ころ。J看護師は、Eさんの病室を訪室したところ、Eさんは、J看護師に対し、トイレでの排尿を希望した。

 J看護師は、尿器の使用を勧めたが、Eさんがトイレへ行きたいと希望したため、J看護師は、医師に確認をしてくる旨述べて病室を離れ、ナースステーションからF医師に電話をしたが、連絡は取れなかった。

 同日午後6時43分ころ。J看護師がEさんの部屋に戻ると、Eさんがトイレで倒れていたため、J看護師は、ミオコールスプレーを1回施行した。しかし、Eさんは、「胸苦しい、苦しい」と述べ、状態は、改善されなかった。

 同日午後6時50分ころ。J看護師は、ミオコールスプレーを再度施行したが状態は変わらなかった。四肢冷感著明で、冷汗が認められた。被告医師の指示でニトロペンを舌下投与した。しかし、心拍数は60台に低下し、血圧も測定不能、意識も低下し、自発呼吸も消失した。このため、心肺蘇生術が施された。

 同日午後8時22分。Eさんは、死亡した。死因は、致死性の狭心症発作と診断された(続く)。

 (三和護、医療局編集委員)


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