2005.05.16

【編集委員の視点】 裁判には勝ったけれど

 以前この欄で、金沢大学産婦人科で行われた抗癌剤の臨床試験をめぐる裁判のことを書いた。患者の同意がないのに抗癌剤の臨床試験に組み入れ、高用量のシスプラチンを投与したことは、自己決定権の侵害ではないかと、死亡した患者の遺族が訴えていたものだ。

 その裁判の判決が、4月13日に名古屋高裁金沢支部で下された。判決は被告の大学(2004年4月に国立大学が法人化されたため、被告は国から大学に継承された)側に対して、72万円の支払いを命じた。形の上では1審に引き続き、原告側が勝訴したわけだ。

 しかし、原告側は、高裁判決を不服として最高裁に上告することにしたという。いったいなぜなのだろうか。判決文を読んでみた。

 このケースで患者は、自分のかかった卵巣癌の治療のみが目的と信じてシスプラチンの投与に同意し、副作用にも耐えた。しかしその後、自分が臨床試験に登録されていたことを知り、医師に対して不信感を抱くに至った。

 高裁判決は、患者へのシスプラチン投与には、高用量投与法の効用を検討するという実験的ないしは試験的な側面があったことを認めた。そして、たとえ標準的なレジメン同士の比較であっても、治療以外の目的(臨床試験)があるのなら、医師はその目的、概要、登録されることが患者への治療に与える影響などについて患者に説明し、同意を得る義務があったとした。

 一方、シスプラチンの用量については、1998年の投与時点でまだ確立されていなかったとした上で、添付文書に書かれた用法・用量から逸脱するとまでは言えず、医師の裁量の範囲内であったとした。ただしこの点について原告側は、卵巣癌に対する用量としては高用量だったと反論している。

 つまり、高裁判決は、臨床試験に無断に登録されていた患者の精神的苦痛は認めたものの、高用量のシスプラチン投与そのものが誤っていたとまでは認めなかった。それもあって、原告への支払い額が1審の約165万円から減額されたのだろう。

 原告側が上告を決めた大きな理由は、高用量と分かっていながらそのことが患者に伝えられなければ、患者の自己決定権を担保したことにはならないという思いからだった。(鴬)

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