2005.04.05

【裁かれたカルテ】 被告席の医師は何を思うのか

 医師と患者の信頼関係が崩れたとき、医事紛争が発生しうる。患者にとっても医師にとっても悲劇以外のなにものでもないドラマが、そこから繰り広げられる。容赦なく被告席に座らされた医師は、そのとき何を感じたのか−−。

 かつて、15年もの長い間、被告の席に座り続けた医師にインタビューしたことがある。W.D氏。現在は九州のとある町で産婦人科病院を開業している。

 W.D氏の自宅を訪ねたとき、15年間の苦闘の跡が部屋の片隅に残されていた。ほこりをかぶった日本語のタイプライター。本棚には、収容し切れないほどの資料ファイルが並ぶ。裁判所に提出した答弁書や準備書面の数々、さらには裁判に必要だった文献が綴じ込んである。聞くと、奥の部屋に、まだ倍以上の資料が残っていた。

 これらの資料の一つひとつが、W.D氏の痛憤の思いを語っていた。

■提訴に「憤まんやるかたないという気持ち」■

 提訴は1973年の6月。Yさんが亡くなったのは1972年の10月だったが、死亡後は1973年6月近くまで何も連絡はなかったという。

 同じ年の4月。近隣の医師が提訴され、そのことが新聞で報じられた。「これも一つのきっかけだったと思うのですが、5月末ぐらいに死亡診断書が欲しいとみえたのです」(W.D氏)。

 死亡診断書を発行した後、まもなくして裁判となってしまった。

 亡くなったYさんは、以前もW.D氏のところでお産を経験していた。前回は妊娠中毒症に前置胎盤が重なり、新生児は近くの公的病院に移され治療を受けたが、死亡している。

 「2回目に訪ねてきたとき、前回が妊娠中毒症だったからずいぶん注意して診ていました。中毒症の症状もなく推移していたのですが、1972年10月6日の晩に出血が起こって、今回も前置胎盤で、いろいろ手を尽くしたのですが、母親が亡くなられた。赤ちゃんは助かったのですが、母親は子癇ショックによる死亡でした」。

 1973年6月の提訴後、2、3日遅れて裁判所からの通知がW.D氏のもとに届いた(詳細は有料ネット講座「まさかの時の医事紛争予防学」へ)。

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