2005.04.04

被告席の医師は何を思うのか その2

 「被告席の医師は何を思うのか」のその2です。

■被告というレッテルがこたえる■

 裁判所から通知が届く以前に、W.D氏は新聞記者の電話取材で自分自身が提訴されたことを知った。

 「改めて勉強し直してみて、自分の処置法を振り返ってみても、特段の過ちはなかったと思っていました。それならば亡くなった方も分かってくれただろうと考えていたわけです。そこへ取材です。青天のへきれきでした。『訴状が出ていますが、先生はどうなさいますか』と尋ねられました。これに対しては、『訴状を見てみないとなんとも分からんけれども、私は医学的には間違ったことはしていないと思う。だから、もうこれは裁判の上で間違いなかったと立証していかなければしょうがないと思う。そのことが亡くなった方に対する冥福を祈ることにもなる』。そんなコメントをしたと思います」。

 新聞には実名が載った。「被告W.D氏。この被告という呼び方がやっぱりこたえましたね。刑事訴訟と民事訴訟の区別が私たちには分からない。今まで聞いている被告というのはすべて刑事訴訟における被告、つまり罪人という理解だったんです。私は罪は犯していないんだという自信があるのに、被告というレッテルを張られ、世間も被告という目で見るんです。刑事訴訟の被告しか頭にないから、罪人というイメージしかない。そういう立場に私を立たせたという思いがあって余計にショックでした」。

 新聞に記事が出た後、W.D氏あてに非難の電話が殺到したという。

 「何てことをしたんだ、けしからんやつだなどという電話がかかってくるんです。世間とは恐ろしいですよ。多いときで、1日のうちに5、6本の電話があった。人を殺しておいて堂々と医者をやっているのはもってのほかだというのもあった。新聞記事をみると、亡くなられた方には本当にお気の毒ですし、その家族も気の毒だと」。 
 
 「どのように対応なさいましたか」との問に、W.D氏は「新聞記事を見ただけで一方的に物を言わないでください、というように答えたと思います」。

 新聞記事が出た後、患者の数が極端に減ったという。それも徐々に減っていった。新聞に掲載される前の水準に戻ったのは何カ月も経ってからだったという。

■正しい判例を勝ち取るためにも示談にすべきではない■

 W.D氏は訴状を目にして第一に思ったのは、「むちゃくちゃなことが書いてある」だった。「裁判所は、この訴えに対し反論を書くように求めていた。しかし、私にとっては『こんなことがあるのか』というその一言で答弁書は済んでしまう」。

 友人たちのアドバイスは様々だった。「色々心配してくれました。『お前のことだから裁判するんだろう。そんなことはやめろ。それより示談にした方が解決は早いし、煩わしさも少ないから』とも言ってくれました。もちろん好意からなんですが、私は裁判すると答えました」。

 「なぜですか」。

 「理由の1つは、和解をして示談にしたら、やっぱり私に落ち度があったということになる。そうなると、遺族の方だって、やはりあいつの手にかかって殺された、そんな恨みしか残らないだろう。亡くなった方も安らかに眠れないだろうと考えたからです。それからもう1つは、こういうケースですぐ示談にしたら、これが前例となって次々と紛争が起こってくるだろうと。だから示談はすべきではないと考えました」。

 医学的に正しいことをしたのだから、裁判でも絶対勝つ自信があったW.D氏。裁判で勝訴すれば、「私と同じような事件では、今後裁判が起こらないだろう。そういう判例を作ることも医療界に身を置く者として必要だとも考えました」。

 それから子どもたちのことも思いやったという。「親父が示談にしたら、やっぱり親父をみる目が違ってくるだろう。だから、私は間違ったことはやっていないよと、世間ではとても非難されたけれども。親父は正しかったということを証明しなければいけないと考えたんです。なんとしても証明しなければ・・・」。

(つづく)

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