2005.03.29

【更新】【各論】 個人データの第三者提供 大規模災害や事故時、病院は安否情報を提供できるのか?

 厚生省は5月20日、「厚生労働分野における個人情報の適切な取扱いのためのガイドライン等」を更新しました。JR宝塚線の脱線事故で、安否確認の求めに対して医療機関側の対応にばらつきがあったため、「大規模災害や事故における対応」を新たに盛り込みました。その中で、「大規模災害や事故時に病院は安否情報を提供できるのか?」との問に対しては、「情報を提供すべき」とする省の見解を示しました。Q5-17からQ5-20が具体的な中身です。ぜひご覧ください。(三和護、医療局編集委員)


Q5-1 患者・利用者の病状等をその家族等に説明する際に留意すべきことは何ですか。

A5-1 医療機関等においては、患者への医療の提供に際して、家族等への病状の説明を行うことは、患者への医療の提供のために通常必要な範囲の利用目的と考えられ、院内掲示等で公表し、患者から明示的に留保の意思表示がなければ、患者の黙示による同意があったものと考えられます(参照:ガイドラインp23) 。
 医療・介護サービスを提供するに当たり、患者・利用者の病状等によっては、第三者である家族等に病状等の説明が必要な場合もあります。この場合、患者・利用者本人に対して、説明を行う対象者の範囲、説明の方法や時期等について、あらかじめ確認しておくなど、できる限り患者・利用者本人の意思に配慮する必要があります(参照:ガイドラインp8)。
 なお、本人の同意が得られない場合であっても、医師が、本人または家族等の生命、身体または財産の保護のために必要であると判断する場合であれば、家族等へ説明することは可能です(個人情報保護法第25条第1項第2号に該当)。


Q5-2 傷病の種類によっては、本人に病名等を告知する前に家族に相談する場合が考えられますが、どのような配慮が必要ですか。

A5-2 診療録等に記載された患者の診断結果等については、患者の個人データですので、当該情報を第三者(家族も含みます)に提供する場合、原則として本人の同意が必要です。ただし、人の生命等の保護のために必要がある場合で、本人の同意を得ることが困難であるときには、本人の同意を得ずに第三者提供が可能です。このため、症状や予後、治療経過等について患者に対して十分な説明をしたとしても、患者本人に重大な心理的影響を与え、その後の治療効果等に悪影響を及ぼす場合等で、医師が必要と認めるときには、本人に説明する前に(本人の同意なく)家族へ説明することが可能です。
 ただし、この場合、法の基本的な考え方である自己情報コントロール権の例外となるので、慎重な判断が求められます。このことを踏まえ、ガイドラインでは、本人から診療情報等(保有個人データ)の開示の求めに対して、開示しないと判断する場合には、院内に設置する検討委員会等において開示の可否を検討することを求めています(参照:ガイドラインp35)。
 なお、患者・利用者本人から、病状等の説明を行う対象者の範囲、説明の方法や時期等についての要望があった場合は、できる限り患者・利用者本人の意思に配慮する必要があります。


Q5-3 未成年の患者から、妊娠、薬物の乱用、自殺未遂等に関して親に秘密にしてほしい旨の依頼があった場合、医師は親に説明してはいけないのですか。逆に、親から問われた場合に、未成年の患者との信頼関係を重視して、親に情報を告げないことは可能ですか。

A5-3 患者本人が、家族等へ病状等の説明をしないよう求められた場合であっても、医師が、本人または家族等の生命、身体または財産の保護のために必要であると判断する場合であれば、(第三者である)家族等へ説明することは可能です(個人情報保護法第25条第1項第2号に該当)。
 一方で、未成年だから何でも親が代理できるわけでもありません。親が、法定代理人だといって子供の個人情報の開示を求めてきても、開示についての代理権が与えられているか、本人(子供)に確認する必要があります(参照:ガイドラインp30)。したがって、親に問われても告げない選択も医師には可能です。
 具体的には、個々の事例に応じて判断が異なるものですが、患者の状態などを踏まえ、これまでどおり、親に告げるも告げないも、医師が判断して対応することになります。


Q5-4 弁護士会から過去に診療を行った患者に関する照会があった場合、本人の同意を得ずに回答してよいでしょうか。

A5-4 弁護士は、弁護士法第23条の2に基づき、受任している事件に関して、所属する弁護士会を通して公務所または公私の団体に照会して必要な事項の報告を求めることができるとされています。したがって、弁護士会への回答に当たっては、「法令に基づく場合」に相当するため、本人の同意を得ずに個人データの第三者提供を行うことができます。ただし、ガイドライン10ページに記載されている刑事訴訟法第197条第2項の取扱いと同様に、回答するか否かについては個別の事例ごとに判断する必要があります。


Q5-5 薬剤師が、調剤した薬剤に関して患者の家族に情報提供を行う場合、本人の同意を得なくても情報提供できるのでしょうか。

A5-5 薬剤師法では、患者または現に看護に当たっている者に対して調剤した薬剤に関する情報提供を行うことが義務づけられていますので、その範囲であれば、第三者提供の例外規定のうち「法令に基づく場合」として(個人情報保護法第23条第1項第1号)、本人の同意を得ることなく情報提供が可能です。


Q5-6 民間保険会社等から医療機関に対して、患者の治療結果等に関する照会があった際、民間保険会社等が患者本人から取得した「同意書」を提示した場合は、回答に当たり、本人の同意が得られていると判断して良いのでしょうか。

A5-6 個人データの第三者提供に当たっては、個人データを保有し、第三者提供を行う個人情報取扱事業者である医療機関が、本人の同意を得る必要があります。このため、民間保険会社から照会があった際に、本人の「同意書」を提出した場合であっても、医療機関は、当該同意書の内容について本人の意思を確認する必要があります。
 なお、開示の求めを行い得る代理人として、当該患者の保有個人データの開示の求めがあった場合の取扱いについては、ガイドライン35ページ10〜17行目の、本人の意思の確認に関する記載を参照してください。


Q5-7 医療機関と薬局の間で患者の薬剤服用歴などの情報交換を行う場合も、ガイドラインに記載された条件を満たせば、患者の黙示による同意が得られていると考えてよろしいのでしょうか。

A5-7 医療機関と薬局間における薬剤服用歴などの情報交換は、患者へ医療を提供する上で通常行われることと考えられます。当該事例は、ガイドラインp23の「他の医療機関等との連携を図ること」や「他の医療機関等からの照会があった場合にこれに応じること」に該当しますので、これらの利用目的を掲示して、患者から明示的に留保の意思表示がなければ、患者の黙示による同意があったものとして取り扱うことは可能です。


Q5-8 ガイドラインp25では「医療・介護関係事業者内部での研修で診療録や介護関係記録等を利用する場合には、具体的な利用方法を含め、あらためて本人の同意を得るか、個人が特定されないよう匿名化する」と記載されていますが、既に利用目的として研修に使用することが院内掲示等により公表していれば、あらためて本人の同意を得る必要はないと考えて良いのでしょうか。

A5-8 医療・介護関係事業者内部の利用であり、利用目的が既に公表されていれば、あらためて本人の同意を得る必要はありません。ただし、公表された利用目的の範囲内であっても、できる限り氏名等を消去するなど、必要最小限の利用とすることが望ましいです。


Q5-9 医療機関の職員を対象とした症例研究会(職員の知識や技能の向上を目的とするもの)を実施する際、当該医療機関以外の施設の職員から参加希望がありました。既に、利用目的として「院内で行う症例研究会への利用」を公表していますが、この場合は、症例研究会で利用する症例の患者から第三者提供の同意を得る必要があるのでしょうか。

A5-9 医療・介護関係事業者の職員以外の者が症例研究会に参加する場合には、当該研究会で利用する患者の個人情報を「第三者提供」することになるため、あらかじめ患者本人から同意を得る必要があります。
 なお、患者に係る識別可能な情報を消去し、個人を識別できない状態で利用するのであれば「個人情報」に該当しないことから、本人の同意を得ることなく症例研究に利用することができます。


Q5-10 病診連携の一環として、紹介を受けた患者の診療情報、検査結果、所見等を紹介元医療機関に対して情報提供を行っていますが、実施に当たっての留意点は何ですか。

A5-10 紹介元医療機関に対する患者への医療の提供のために必要な情報提供は、「他の医療機関との連携を図ること」に該当し、ガイドライン22ページに示す院内掲示を行っている場合には、本人の黙示による同意が得られているものと考えます(当該内容の利用目的を院内掲示していない場合には本人の同意を得ることが必要です)。
 なお、情報提供の方法は、書類の郵送、電子ディスクの郵送、通信回線による電子送信等、様々な方法が考えられますが、いずれの場合でも安全管理措置の徹底が必要です。


Q5-11 医薬品の副作用発生時における行政機関への報告や、製薬企業が実施する医薬品の市販後調査に協力する際の製薬企業への情報提供に当たっては、患者の情報をどの程度記載できるのでしょうか。

A5-11 行政機関への副作用報告や、製薬企業が行う医薬品の適正使用のために必要な情報収集への協力については、薬事法に基づく義務等となっていますので、医療機関等では、「法令に基づく場合」として、本人の同意を得ずに第三者提供を行うことが可能です。
 行政機関への副作用報告に当たっては、報告様式(「医薬品安全性情報報告書」等)に従って記載してください。
 また、製薬企業が行う市販後調査についても製薬企業が定める様式に従って情報提供してください。通常、製薬企業では、患者の氏名の報告を不要とするなど、特定の個人を識別できない形での情報提供を求めていることから、このような場合には、必要とされていない情報まで提供することがないよう留意してください。


Q5-12 学校医として生徒の健康診断を行った場合、診断結果を学校に提出することは第三者提供に該当するのでしょうか。

A5-12 学校医は、学校保健法に基づき各学校(学校教育法第1条に定める学校)に置かれ、学校の職員として健康診断を行うこととなります。このため、学校に診断結果を提出することは事業者内での利用であり、第三者提供には該当しません。
 なお、専修学校については、生徒に健康診断を行う必要があり、学校医に相当する医師を置くことが望ましいとされていますが、必ず置かれているわけではありません。このため、専修学校で学校医に相当する医師がおかれていない場合は、外部の医療機関に健康診断を委託することとなります。この場合、委託を受けた医療機関が専修学校に診断結果を提出することについては、ガイドラインp24の(3)と同様に、生徒の黙示的な同意が得られているものと考えられます。


Q5-13 がん検診の2次検診機関として患者の精密検査を行った場合、1次検診機関から、精密検査結果の提供を求められることがありますが、患者の精密検査結果を提供する場合には、患者の同意を得る必要があるのでしょうか。

A5-13 がん検診については、がん検診全体の精度管理のために、1次検診機関においては、必要に応じ、精密検査の結果等を記録することとされており、2次検診機関は、1次検診機関から、患者の精密検査結果を提供するよう依頼を受けることがあります。
 その際に、2次検診機関において、患者に対し、1次検診機関に精密検査結果を提供する旨の同意を得ることは、その性質上、患者の強い不安を招きやすく、また、同意が得られた患者のみ精密検査結果を提供することはがん検診全体の制度管理に影響を与えることが考えられます。
 このため、がん検診の精度管理のために、2次検診機関が、1次検診機関に患者の精密検査結果を提供することは、個人情報保護法第23条第1項第3号(公衆衛生の向上のために特に必要がある場合であって、本人の同意を得ることが困難であるとき)に該当し、あらかじめ患者の同意を得る必要はありません。


Q5-14 介護保険施設の入所者が、他の介護保険施設に移動する際に、移動先の施設の求めに応じて入所者の個人情報の提供を行う場合は、本人の同意は必要なのでしょうか?

A5-14 特別養護老人ホーム、介護老人保健施設及び介護療養型医療施設については、「指定介護老人福祉施設の人員、設備及び運営に関する基準」などそれぞれの指定基準において、「居宅介護支援事業者等に対して、入所者に関する情報
を提供する際には、あらかじめ文書により入所者の同意を得ておかなければならない」とされています(例:指定介護老人福祉施設の人員、設備及び運営に関する基準第30条第3項)。
 このため、移動先の施設から、利用者の心身の状況等の個人情報を求められた場合については、指定基準に基づいて、あらかじめ文書により入所者の同意を得る必要があります。


Q5-15 ホームページや機関誌に、行事などにおける利用者の写真を掲載する場合、本人の同意を得る必要はありますか。また、介護保険施設内に写真を展示する場合はどうでしょうか。

A5-15 写真についても、個人を識別できるものであれば個人情報に当たります。したがって、ホームページや機関誌への掲載、施設内への展示等を通じ、当該写真を第三者の閲覧に供するに際しては、本人の同意を得る必要があります。

Q5-16 高齢者虐待事例の解決に当たって、担当ケアマネジャーなどの関係機関に高齢者の個人情報を提供する場合、高齢者本人の同意を得ることが難しいケースがありますが、高齢者本人の同意が得られないと情報提供はできないのでしょうか。

A5-16 高齢者虐待については、市町村、担当ケアマネジャーや介護サービス事業者が十分に連携して解決に当たることが必要です。事案によっては高齢者本人の同意を得ることが困難なケースが考えられますが、高齢者本人の生命、身体、財産の保護のために必要である場合は、個人情報保護法第23条第1項第2号(人の生命、身体または財産の保護のために必要がある場合であって、本人の同意を得ることが困難であるとき)に該当するものとして、高齢者本人の同意が得られなくても、関係機関に情報提供を行うことが可能です。

Q5-17 大規模災害や事故等で、意識不明で身元の確認できない多数の患者が複数の医療機関に分散して搬送されている場合に、患者の家族または関係者と称する人から、患者が搬送されているかという電話での問い合わせがありました。相手が家族等であるか十分に確認できないのですが、患者の存否情報を回答してもよいでしょうか。

A5-17 患者が意識不明であれば本人の同意を得ることは困難な場合に該当します。また、個人情報保護法第23条第1項第2号の「人の生命、身体または財産の保護のために必要がある場合」の「人」には、患者本人だけでなく、第三者である患者の家族や職場の人等も含まれます。
 このため、このような場合は、第三者提供の例外に該当し、本人の同意を得ずに存否情報等を回答することができ得ると考えられるので、災害の規模等を勘案して、本人の安否を家族等の関係者に迅速に伝えることによる本人や家族等の安心や生命、身体または財産の保護等に資するような情報提供を行うべきと考えます。
 なお、「本人の同意を得ることが困難な場合」については、本人が意識不明である場合等のほか、医療機関としての通常の体制と比較して、非常に多数の傷病者が一時に搬送され、家族等からの問い合わせに迅速に対応するためには、本人の同意を得るための作業を行うことが著しく不合理と考えられる場合も含まれるものと考えます。

Q5-18 上記の状況で、患者の家族等である可能性のある電話の相手から、患者の容態等についての問い合わせがあれば、どの範囲まで回答すべきでしょうか。

A5-18 電話による問い合わせで、相手と患者との関係が十分に確認できない場合には、存否情報やけがの程度等の情報提供に限定することも考えられますし、相手が患者の特徴を具体的に説明できる相手が患者の家族等であると確認できる場合には、より詳細な情報提供を行うことも可能と考えます。(参照:ガイドラインp8)

Q5-19 上記の方法により連絡のついた家族等から、意識不明である患者の既往症、治療歴等を聴取することは問題ありませんか。

A5-19 治療のために必要な既往歴、治療歴等の情報を家族から取得することは、個人情報の適正な取得であり、問題ありません。この場合、本人の意識が回復した後に、家族等から取得した情報の内容とその相手について本人に説明することになります。(参照:ガイドラインp8)

Q5-20 Q5-17のような状況において、報道機関や地方公共団体等から身元不明の患者に対する問い合わせがあった場合、当該患者の情報を提供することはできますか。

A5-20 報道機関や地方公共団体等を経由して、身元不明の患者に対する情報が広く提供されることにより、家族等がより早く患者を捜し当てることが可能になると判断できる場合には、A5-17のように「人の生命、身体または財産の保護のために必要がある場合であって、本人の同意を得ることが困難であるとき」に該当するので、医療機関は、存否確認に必要な範囲で、意識不明である患者の同意を得ることなく患者の情報を提供することが可能と考えられます。具体的な対応については、個々の事例に応じて医療機関が判断する必要があります。

更新情報】
厚生労働省がまとめたQ&Aはこちら(pdfファイル)です。内容が更新されている場合があります。更新情報はこちらでご確認ください

■ 参考図書 ■
・医療機関のための個人情報保護対応マニュアル(詳しくはこちら
・50の医療事故・判例の教訓(詳しくはこちら

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