2005.03.11

【裁かれたカルテ】 ネフローゼ症候群患者を診た医師に、血栓症発症を疑って検査すべき注意義務違反 ■事件経過

◆被告病院における診療経過

・2月4日:原告のUさんは、下肢に浮腫が出たため、近隣のA医院で診察を受けたところ、尿タンパクが高く、「ネフローゼの疑い」と診断されて、被告病院に行くよう指示を受けた。
 
・同日:原告Uさんは、被告病院に入院し、ネフローゼ症候群と診断されて、各種検査等を受けた上、主にプレドニンの投与による治療を受け始めた。

・2月9日:原告の主治医だったD医師は、原告Uさんと原告の母親に対し、以下を説明した(なお、原告の主治医は、当初D医師とC医師の2人だったが、その後、3月中旬ころからC医師のみとなった)。
 (1)診断名はネフローゼ症候群である。
 (2)尿中にタンパクがもれ、身体に水分がたまってむくみが強く出ている。
 (3)安静、食事制限およびステロイド剤の投与により治療する方針であり、同時に、どのタイプのネフローゼ症候群かについて大まかに検査をしている。
 (4)治療に反応が悪かったり、再燃しやすいネフローゼ症候群であると判断された場合には、さらに専門的な検査、治療が可能な施設への紹介、転院も考えている。

 なお、検査の結果、ネフローゼ症候群のタイプは、微小変化型(原発性ネフローゼ症候群の1つで、ステロイド治療が有効な場合が多い型)ないし膜性腎症(原発性ネフローゼ症候群の1つ)と診断された。
 
・3月15日と同月19日:投薬治療などが続けられた原告Uさんは、3月15日と同月19日に看護師に対して足の痛みやだるさを訴えて、湿布薬の投与をされたことがあったものの、3月20日頃までは安定していた。しかし、3月21日の尿検査において尿中タンパク量が1日当たり0.9グラム(基準範囲は1日当たり0.1グラム以下)、同月22日の尿検査において、尿中タンパク量が1日当たり10.7グラムとなり、ネフローゼ症候群の顕著な悪化が認められた。そこで、C医師は、原告のネフローゼ症候群はステロイド剤に反応が悪い可能性があり、近隣の大学病院において腎生検などの精査加療の必要があると考えて、原告Uさんに大学病院で受診するよう伝えた。 

・3月25日:C医師は、同日付けで、原告Uさんを大学病院に転院させて、腎生検などの検査あるいは治療を受けさせるため、同病院のE医師にあてて診療情報提供書を作成した。同書面には、原告がネフローゼ症候群であること、病因は不明で、初発であること、プレドニンに反応が悪く、精査加療が必要であることが記載されているが、血栓に関する情報は何ら記載されていなかった
 
・3月27日:原告Uさんは同日、大学病院に転院する予定だったが、満床のため転院できず、転院可能になるまでの間、被告病院に入院することとなった。原告Uさんは、被告病院に戻った後、C医師や看護師に対して、大学病院へ向かう途中、電車の中で倒れそうになったことを伝えた。
 
・3月29日:原告Uさんは約38度の発熱があり、同月30日にも高熱、左胸痛、腰痛の症状が出た。C医師は、3月29日および同月30日は不在であったため、他の医師が代診した。

・3月29日午後:原告Uさんは、看護師に対して、「左肩から左の背中にかけてピキーン、ピキーンと痛くなる」と話し、同日夜には、左腰部痛があることを訴え、痛みで眠れない状況だった。さらに、翌3月30日午前には左肩から背中、股関節にかけての痛みを訴え、痛みでトイレまで歩行するのがやっとの状態であったが、投薬を受け、症状は軽快した。

・4月1日:C医師は原告Uさんを診察し、その際、原告Uさんから、3月29日に発熱があったこと、3月26日ころから坐位であぐらをかいたときに左股関節痛があり、激痛ではなかったので様子を見ていたこと、左肩痛及び左腰部痛の症状があることなどを聞いた。
 
 C医師は、同日付けで、再度、大学病院のE医師にあてて診療情報提供書を作成した。同書面には、3月29日ないし同月31日に原告に発熱があり、その原因について、1.プレドニンの投与方法を変えたため、2.感染が隠れているためであり、さらに、左股関節痛、左肩関節痛及び左腰痛があり、その原因として、1.膠原病の存在、2.ステロイド剤の影響とそれぞれ考えている旨の記載されているが、血栓症の可能性についての記載はなかった

 なお原告Uさんは、被告病院において、3月29日から4月1日までの間に、尿の生化学検査、血液の一般検査及び生化学検査、凝固検査、尿の細菌培養、胸部、腹部、両股関節、両肩関節のレントゲン検査などを受けた。


◆大学病院における診療経過

・4月3日:原告は、大学病院第3内科に転院した。同病院では、両そけい部痛、左足優位の浮腫および凝固系異常などの症状から深部静脈血栓症が疑われ、また、胸部圧迫感の症状から肺塞栓症が疑われた。

 大学病院医師は、同日から原告に対して血栓の形成を予防するためにヘパリンの投与を開始し、4月4日からは血栓溶解剤であるウキロナーゼが併用された。
 
 また、RIアンギオ、肺血流シンチグラム、Abd-CTにより、深部静脈血栓等が確認されたため、4月5日には右内頸静脈より下大静脈フィルターが挿入された。このフィルターは、血栓溶解剤の投与によって溶解しかけた血栓が血流にのって肺塞栓症などを発症するのを防止するため、一時的に挿入されたものであり、当初、最長2週間程度で抜去することが予定されていた。
 
・4月21日:下大静脈フィルター内に巨大血栓が認められたため、フィルターを経皮的に抜去することができず、翌4月22日、原告Uさんは、大学病院心臓血管外科に転科した上で、血栓除去、フィルター抜去のために開腹手術を受け、同時に永久フィルターが留置術を受けた(以下、第1手術)。
 
・4月23日:原告Uさんは、第1手術の翌日である4月23日の朝、循環動態の状況や腹部レントゲン写真の所見などから、後腹膜内の出血が疑われ、再開腹止血術を受けた(以下、第2手術)。この出血の原因については、第1手術後に止血されていた筋肉の断端が、ヘパリンの投与により再出血を来したものと考えられる。
 
・5月1日:原告Uさんは、大学病院第3内科に再転科し、ネフローゼ症候群の治療を受けた後、5月30日に退院した。

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