2005.03.08

英国でアルツハイマー病治療薬への保険適用が撤回の危機に

 英国国立クリニカルエクセレンス研究所(National Institute for Clinical Excellence:NICE)は、アルツハイマー病治療薬の塩酸ドネペジル、リバスチグミン、ガランタミン、塩酸メマンチンを保険適用からはずす新ガイドライン草案を発表、2005年3月21日まで広く意見を募集している。最終ガイダンスの適用開始は今年7月になる予定だ。

 NICEは、医薬品の効果や安全性に加えてコスト効果も評価し、英国の公的医療サービスにおいて公的保険を適用するかどうかを勧告する機関。

 英国では、保険適用が始まった2001年以来、コリンエステラーゼ阻害薬である塩酸ドネペジル、リバスチグミン、ガランタミンは軽-中度の患者に、NMDA(N-methyl-D-aspartate receptor)受容体阻害薬である塩酸メマンチンは中-重度の患者に投与されてきた。これに対してNICEは、有効性とコスト効果に関する最新データを審査した結果、保険適用の撤回を勧告する予定だ。

 NICEは、公表済みあるいは未公表の臨床試験データなどをもとに考察を重ねてガイドライン草案をまとめた。それによると、コリンエステラーゼ阻害薬3剤は、偽薬に比べ軽-中度患者の認識力低下を遅らせる効果が示されているが、患者と介護者にとって重要なQOLや施設への入所までの時間などに関するエビデンスは限られていることが分かった。また、いくつかのランダム化比較試験(RCT)の質はまちまちで、様々なバイアスの存在が疑われたという。塩酸メマンチンについては、中-重度患者の介護に要する時間を短縮でき、その効果は12カ月持続することを認めている。認識能低下に及ぼす影響は決定的ではないが有効が示唆されており、塩酸ドネペジル併用で効果は上昇、コストは下がるという。

 また、評価グループによる費用対効果分析の結果、これらの薬剤のコストが、英国で保険適用になっている薬剤の平均を超えていることを示した。3つのコリンエステラーゼ阻害薬の費用効果比は、質調整生存年(QALY)当たり4万8000ポンド、3万2000ポンド、3万8000ポンドで、塩酸メマンチンは3万7000〜5万3000ポンドだった。今後も保険適用が続けば、NHSはコリンエステラーゼ阻害薬3剤に対して2004〜2005年には約6000万ポンド、2005〜2006年には7000万ポンドを支払うことになり、勧告がNHSに採用されれば、1年目には1500万ポンド、2年目は4500万ポンド、3年目には6000万ドルが節約できると推算されている。

 医療費を削減するために保険適用からはずすという判断の被害者が、治療の選択肢がわずかしかないアルツハイマー病患者である点から、新たなガイドラインは大きな議論を引き起こしている。患者が利益を得たと感じられるレベルの効果を、コストと比較すれば意味がないという判断基準に基づいて保険適用の可否を決めてよいものか。国民医療費、特に老人医療費の急速な増大が問題になっている日本もまた、いつかこうした決断に迫られる日を迎えるかもしれない。

 新ガイダンス草案の原題は「Appraisal Consultation Document: Alzheimer's disease - donepezil, rivastigmine, galantamine and memantine (review)」は、こちらで閲覧できる。 (大西淳子、医学ジャーナリスト)

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