2005.03.07

【解説】 医療事故が発生したその時、あなたはどう行動すべきか

 医療事故が発生したその時、あなたはどう行動すべきなのか−−。2年前の日本循環器学会では、教育セッションで「医療事故とリスク・マネジメント」を取り上げた。250人以上の聴衆が集い、5人の専門家による講演に耳を傾けた。中でも、「医療事故発生時の対応と法律的背景」のテーマで登壇した慶応大学の古川俊治氏の講演は注目を集めた。タイトルは、「医療事故が発生したその時、あなたはどう行動すべきか」。古川氏が指摘したポイントは、今日でも十分傾聴に値するものだ。

 古川氏は医療事故と医療過誤の定義から解き起こした。それによると、医療事故とは、「医療の全過程において発生する人身事故一切を抱合する概念。医療従事者が被害者である場合や医療行為とは直接関係しない場合(患者が廊下で転倒した場合など)を含む」。「過失のない医療事故」と「過失のある医療事故」に類型できるが、後者が「医療過誤」と指摘した。つまり、医療の過程において医療従事者が当然払うべき業務上の注意義務を怠り、これによって患者に傷害を及ぼした場合、医療過誤となる。

 ただし、医療事故が発生したときは、それが医療過誤なのか過失のない医療事故なのかは、後の検証を待たないと判断が難しい場合も少なくない。

 このため古川氏は「鑑別のためには、事故発生当時の状況をできるだけ正確に再現することが必要になる」と指摘。その前提として、「何時何分にどのような事態が発生したのかなどの外面的・客観的情報の確定作業が必要になる」と強調した。つまり、事故発生時には、外面的・客観的情報の正確な記録が重要になるわけだ。

 また、発生時にもっとも重要となる患者家族(遺族)への説明では、1.事故発生後、できるだけ迅速に行う、2.判明している外面的・客観的事実を正確に説明する、3.医療過誤が疑われる場合は隠し立てしない。死因の判断が難しい場合は、特に慎重に説明を行う。この際、医療過誤による死亡が疑われる場合を除き(疑われる場合は司法解剖の対象となる)、死因解明のための病理解剖の同意を得るよう努力する、4.家族に対する説明は、できるだけ同じ担当者が繰り返し担当する−−などのポイントを挙げた。3については、死因確定と速やかな紛争解決に必要であり、また4については、説明内容が一貫性していないために、紛争が悪化する可能性が少なくないためだ。

 古川氏は、最後に異状死について触れ、2000年2月に東京都立広尾病院において発生した医療事故に関連して、医師法違反に関する捜査が行われ立件となった事例を提示。これを機に、医師法第21条が定める異状死の所轄警察署への届出が、医療過誤を含むのかどうか、議論が巻き起こった経緯を説明した。

 この立件に対しては、病院団体・臨床系学会を中心に反対意見が発表され、その後の2001年3月発表の日本外科学会声明、外科学会・内科学会における共同検討、2002年7月の日本外科系諸学会と日本内科学会の指針発表に至った。

 例えば内科学会の指針では、報告対象は、患者死亡のみを対象としており、以下のように定めている。

 1.何らかの医療過誤(患者誤認、薬剤名・薬剤投与量・薬剤投与経路の過誤、異型輸血、機器操作の過誤など)の存在が強く疑われる(診療関係者により重大な医療過誤の疑いが確認され、かつ、診療行為直後の生命徴候の急激な変化、死亡時・死亡後の異常な随伴性変化、異常な検査所見などの客観的事実に基づいて疑われること)。

 2.または、何らかの医療過誤の存在が明らかで、それが患者の死亡の原因となったと考えられる場合(医療過誤の存在によって患者の死亡を合理的に説明することができ、他の事実によっては合理的な説明が困難なこと)。

 その後、日本内科学会、日本外科学会、日本病理学会、日本法医学会の4学会は共同で検討を重ね、2004年2月に「診療行為に関連した患者死亡の届出について」と題する共同声明を発表した。

 その中で、「診療行為に関連して患者死亡が発生した場合、どのような事例を異状死として所轄警察署に届出なければならないかを検討してきた。この問題については明確な基準がなく、臨床現場において混乱を招いているが、少なくとも判断に医学的専門性をとくに必要としない明らかに誤った医療行為や、管理上の問題により患者が死亡したことが明らかであるもの、また強く疑われる事例を警察署に届出るべきであるという点で、一致した見解に至っている」との結論に至っている。(三和護、医療局編集委員)

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