2005.01.25

■■ 障害に関する論説 ■■ ダウン症青年のオーケストラ指揮 

 「長寿社会」の新しいネットワーク作りを考える「方円の器」の主宰者、江上尚志氏は、「ダウン症青年のオーケストラ指揮」と題する論説を記しています。以下に紹介いたします。

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 「可能性」という言葉が好きだ。だれにでもあるチャンスを生かすことができれば、だれでも素晴らしい人生を送ることができると思うからだ。

 さまざまな局面で自分自身に失望することがあるのは人間だから仕方がないが、絶望してしまってはいけない。どこにも行き場がないと思っても、だれかしらかが支援してくれたり、どこかに新しい道が開けたりするからだ。ずい分長いこと、そのことを私の次男ばかりでなく周囲のダウン症の子どもたち、青年たちから教えてもらってきた。

 正月早々に、(財)日本ダウン症協会の広報部から次のような案内メールが送られてきた。“会報(日本ダウン症協会発行)1月号の情報コーナーでご案内したダウン症をもつ中国人指揮者・舟舟(「ジョージョー」と読むよう)の再放送が1月中にNHK教育TVであるようです。(中略)素晴らしい指揮者ぶりに感激しましたので、まだ見ておられない方は、ぜひご覧ください。”とある。私の次男は今年33歳になる。乳幼児期を中心にした問題ではなく青年期から壮年期、そして高齢を迎えることに目が向いているのが実態だ。

 昨年「たったひとつのたからもの」というダウン症の子どもを主人公にしたテレビドラマが大きな反響を呼んだ。物語の筋はダウン症という障害を持った子どもを授かった夫婦がその子(秋雪ちゃん)とともに懸命に生きる姿を描いたものだが、妻役の松田聖子さんと夫役の船越英一郎さんの熱演が好感を持って受け入れられたものだ。出版社と著者の挨拶によると「そのほほえみだけで幸福にしてくれた。重度のダウン症で6年3カ月の命を閉じた息子を撮り続けた母の記録。明治生命CMで話題に」とある。

 小田和正の歌がバックに流れ、障害の理解というより親と本人の戦いの記録として貴重な番組だという感想を抱いた。主人公のために流す涙ではなく生き抜いてきた子どもへの「たからもの」として受け止めていたのが正直なところである。我が子が生まれてきた頃は“二十歳まで生きられない”という妙な定説があった時代である。そのため医師からの適切なアドバイスより保健師からの地域に根ざした情報提供の方に意味がある時代ですらあった。その意味では「たったひとつのたからもの」は一つの時代を反映している。

 「ダウン症をもつ中国人指揮者・舟舟」というテレビ番組(平成17年1月10日再放送)に出てくる青年は26歳。本名は胡一舟で63歳の父親とともに武漢オーケストラに属している。来日した舟舟さんの指揮する「カルメン」(大分文化会館)は華麗で優しく奏でられた。彼が3歳頃の中国では彼を受け入れる幼稚園はなく、父親が自分の所属する楽団に毎日連れて行ったという。最初は見よう見まねの指揮だと思われたが、彼に指揮者としての才能があることに気づいた人がいたのである。

 中国本土各地の演奏旅行で彼の指揮する姿があり、父の心配を通り越し世界的にも名が通るようになっていったようだ。彼の幼少年期の写真を見ると世界共通の体形と顔立ちで紛れもなくダウン症候群である。3歳から6歳という最も社会性のつく時期に彼は指揮者を見て毎日を過ごしていた。障害を通り越して彼に「可能性」を見出した父親に最大の拍手を送りたい。「ステージで僕は輝く」と言い切った舟舟さんの誇りに満ちた表情と、父親によりかかっている可愛らしい姿に次男を重ね合わせたものだ。

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