2005.01.20

成績・過程・構造の3軸評価を

 今回の調査では、5年生存率などのアウトカム(治療成績)のほかに、「過程」(患者サービスや医療の質向上への取り組み)と「構造」(人員や設備の充実などの体制)についても評価した。それぞれの上位3位は次の通り。

<過程評価>
岩手県立中央病院(100点)
横浜市大病院(94点)
国立がんセンター中央病院(90点)
大阪府立急性期・総合医療センター(90点)

<構造評価>
国立がんセンター中央病院(100点)
静岡県立静岡がんセンター(100点)
東京女子医大病院(92点)

 総合ランキング(別紙、12月11日掲載)の点数内訳で注目されるのは、病院によって、「成績」「過程」「構造」の3つのバランスが違うこと(図1)。三拍子そろっているのが理想だが、それを実現するのは容易ではない。限りある経営資源をどこに集中投下しているか、それも癌病院を評価するときの大切な着眼点となる。

病院内の診療科間にも格差

 同じ病院の中でも、診療科によって成績格差が認められた。

●国立病院機構西群馬病院
・肺癌(外科)……5位
・胃癌(消化器外科)……91位

●NTT東日本関東病院
・結腸癌(外科)……3位
・胃癌(外科)……56位

 これらはほんの一部だが、ある診療科で実績を上げていても、それが他の癌についての好成績を保証するものでは決してない。癌の診療成績は、医師や医療チームの技量に大きく依存する。病院単位で決まる性格のものではない。

 特に、病院の規模が小さい場合、「癌病院」をうたっていても、成績が良くない診療科が存在し得る。一通りの癌に対応すべく、多くの診療科を取りそろえようとすること自体に無理がある場合もあろう。

診療科格差が大きい癌に注意

 癌種別の「均てん化」(全国で質の高い診療が受けられること)の度合いはどうか。「生存率係数(5年生存率を病期別調整して算出)」という指標を使って、それぞれの診療科の成績がどのように分布するかを見た。

 図2の相関図は、横軸に症例数、縦軸に生存率係数をとり、各診療科の実績をプロットしたものだ。

 相関図は、右上(症例多数・成績優良)、左上(症例少数・成績優良)、左下(症例少数・成績不振)、右下(症例多数・成績不振)の4つのゾーンに分かれる。

 まず、分布の上下軸方向のばらつきに着目し、6つの癌を一望すると、ばらつき度合いは次のようになる。

 肝臓癌>肺癌>胃癌、直腸癌、結腸癌>乳癌(図では4つの癌を提示)

 乳癌では、ほとんどの施設が標準的な生存率係数の上下30ポイント程度のかい離の範囲に収まるが、肝臓癌では上下100ポイントほどの幅に広く散らばる。また、肺癌でも上下60ポイントほどの幅に分布する。生存率係数のばらつき、つまり施設間の実力差が大きい癌ほど、病院の紹介、選択に当たっては注意を要する。

 症例数と生存率係数の相関も注目点だ。症例数が増えると、臨床経験が蓄積され、治療成績が向上するという“仮説”はかなり広まっている。だが、これらの相関図を見る限り、明らかな右肩上がりの傾向は見られない。患者が集まっているからといって、それが実力病院の指標にはならないということだ。

病院・診療科による格差は大

 病院間、診療科間の成績には明らかな格差がある。例えば、肺癌で生存率係数が120を超えるのは9診療科ある(生存率係数の項参照、12月13日掲載)。一方で肺癌ランキングで50位より下で、生存率係数が50以下のところが23カ所もある。

 また、肝臓癌で9診療科が生存率係数150を上回っている(表を参照、12月14日掲載)。一方で、肝臓癌ランキング下位で、生存率係数が60を下回る診療科が15ある。

 今回の調査では、生存率係数算定に当たって調整した予後因子は病期のみ。従って、年齢、余病、性別などの要素は加味していないため、この係数は、純粋な実力格差だけを抽出したものではない。ただ、これほど大きな格差は、診療科ごとに技量の優劣が大きいことを強く疑わせる。

「大規模・成績不振」診療科を回避

 もう一度、散布図を見てみよう。右上のゾーン(症例多数・成績優良)に位置する診療科に関しては、診療の質向上と救命に大きく貢献しているといえる。問題は、右下の「症例多数・成績不振」ゾーン。成績不振にもかかわらず、多数の症例を扱っている。その症例が右上領域の診療科で扱われれば、もっと多数の患者が救命され、全体の5年生存率も向上することにつながる。

 「均てん化」は、この図において右下の点を減らし、右上の点を増やす方策にほかならない。しかし、現在の成績開示状況では、「症例多数・成績不振」も外見からは明らかになりにくい。

 表2は、診療科格差が大きい部位・病期について、症例数20例以上で、偏差値が55以上あるいは45以下の診療科を抽出したもの。こうした病期においては、特に治療法や治療方針などをよく確認して診療科を選択することが重要になる。また、同じ部位の癌でも、ある病期が得意な診療科が別の病期が不得手なこともある。これも見逃せない事実である。

成績開示で「目指せ、均てん化」

 厚生労働省で、「がん医療水準均てん化の推進に関する検討会」(以下、均てん化検討会)が進行中だ。政府は、癌の5年生存率を20%ポイント向上させることを目標に掲げてもいる。ここで、重要な役割を果たすコンセプトが先の「均てん化」だ。

 本調査により診療格差が改めて明確になった。では、全国平均成績に、それ以下の成績の診療科が追い付く均てん化が実現されれば、どの程度の5年生存者増加になるのか、各診療科・各期のデータから試算した(%は対象患者に対する比率)。

 胃癌 2542人(6.2%)
 肺癌 1380人(6.3%) 
 肝臓癌 742人(8.2%)
 直腸癌 819人(6.9%)
 結腸癌 1460人(6.7%)
 乳癌 1387人(6.2%)
 合計 8331人(6.5%)

 上位25%の成績への均てん化では、そのインパクトは1万5000人(患者の11.8%)に増える。これらを年間約60万人の新規癌患者に引き当てれば、4万人あるいは7万人が追加的に5年生存できる計算となる。生存率開示によって、病院の成績向上努力と患者による病院選択を促すことの、重要性が指摘されるゆえんだ。

切磋琢磨の病院が生き残る

 本調査にはもちろん限界がある。予後因子として病期しか調整できていない。また、すべての診療科、病院を網羅したものともなっていない。

 だが、国立がんセンター総長の垣添忠生氏は一定の評価を示す。「症例数だけを比べたり、病期の要素を考慮しなかったこれまでの調査に比べると、精度が高い。このような調査を行うことで、一般の認識も高まるし、さらに調査方法の進化も図ることができる。同一尺度で多数の施設・診療科を比べた調査は今までになかったので、一般臨床医にも患者にとっても大いに参考になるだろう。こうしたデータを読むことで、対がん戦略で今後、何をなすべきかを知る材料にもなる」。

 公開を前提とした調査に、約1500(有効回答約1000)もの診療科から回答があった。癌診療病院のスタンスは、ここにきて成績開示に大きく転換した。

 公表成績と評価に基づいて切磋琢磨する病院だけが、臨床医や患者に支持され生き残る時代になる。

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