2004.11.29

【裁かれたカルテ】 内視鏡的逆行性胆道膵官造影検査後に膵炎発症し死亡 担当医師が急性膵炎の診断・重症化の判定を怠ると断じる

 内視鏡的逆行性胆道膵官造影検査(ERCP検査)後に膵炎を発症して死亡。担当医師が急性膵炎の診断及びその重症化の判定を怠り、患者に対する的確な全身管理及び集中治療を実施しなかったためとして、病院の使用者責任を認めた(判決:2004年9月30日、名古屋地方裁判所、平成11年(ワ)第313号 損害賠償請求事件)。

 事件は1996年にさかのぼる。愛知県内のある病院(以下、被告病院)で11月10日、当時66歳になるGさんが重症膵炎によって死亡した。Gさんの妻と子どもらは、担当医師に債務不履行責任があり、また病院の使用者には不法行為責任があったとし、病院管理者を被告とし、Gさんの死亡によって生じた損害の賠償を求めた(事件の経緯はこちらからご覧ください)。

 裁判で争点となったのは、(1)説明義務違反の存否、(2)Gさんに実施されたERCP検査における手技上の過誤の有無、(3)急性膵炎に対する基本的治療を怠った過誤の有無−−などだった。

■医師の説明は違反にはあたらない■

 説明義務違反については、ERCP検査後の合併症、特にその「重症化の可能性」について説明があったかどうかが最大のポイントだった。

 結論として裁判所は、「C医師のGさんに対する説明が診療契約に違反するものであるとか、不法行為に当たるものと解することはできない」と判断した。その理由は以下のようなものだった。

 C医師がGさんに予想される入院期間は1カ月程度で、胆石症の精密検査としてERCP検査を行う旨を説明していた。また、Gさんは、これを受けて入院治療計画書に署名、押印していた。同様に、病状説明書に、十二指腸、胆管及び膵管等の図を描きながら、Gさんの症状について説明するとともに、ERCP検査については、(1)内視鏡を十二指腸まで挿入し、十二指腸の乳頭から胆管及び膵管の両方に挿管し造影剤を注入して行う検査であること、(2)胆管を造影できる確率は80%から90%であり、膵管については90%で、胆管の方が膵管よりも造影率が悪いこと、(3)検査時間は30分から1時間であること、(4)検査後、膵炎や胆管炎を合併することがあり、多くは一過性であるが、重症化することもあること、(5)上記の合併症については、検査の前に予防的処置を行うことなどを説明した後、Gさんに対し、上記病状説明書のコピーを交付していた。

 一方で、Gさんとその子息は、GさんがERCP検査を受けるについて、「担当医師から、現在の病状、検査の概要及びその必要性等について説明を受け承知しましたので検査を受けることに同意します」と記載された同意書を被告病院に提出した。

 結局、鑑定結果をもとに判決は、C医師が総胆管について結石の有無を診断するためにGさんに対しERCP検査を実施することにしたのは適切な判断だったと認められるとし、「同医師のGさんに対してした説明内容は、診療契約に基づいて求められる上記義務を履行しているものと解することができる」などと結論付けた。

 このほか原告側は、Gさんの家族に対してもERCP検査の内容及び危険性について説明する義務を負っていたなどと主張したが、「被告病院医師がGさんの家族に対して説明しなかったことをもって説明義務違反があるとまではいえない」と原告側の主張を退けた。

■ERCP検査における手技上の過誤の有無■

 なぜERCP検査において膵管造影をしたのか−−。判決は、C医師自身が「ERCP検査を行う場合は当然のように膵管造影を行っている旨を述べるのみ」であり、Gさんについて膵管造影の必要性があったかどうかについて「合理的な根拠をもって説明するところがない」とした。

 また、鑑定の結果に基づきながら、(1)膵管及び胆管は、十二指腸乳頭において開口部が共通であり、膵管造影に当たってはカニューレを乳頭の1時方向を狙うようにして挿入し、胆管造影に当たっては乳頭の11時方向の縁を狙うようにして挿入する、(2)十二指腸乳頭部の活約筋の強度が造影に関連するところ、膵管の方が胆管よりも取り巻いている活約筋が薄いことから膵管の造影の方が容易である、(3)熟練すれば胆管のみを造影して膵管は省略することも可能であるが、100%可能ではないことが認められる−−などと認定した。

 つまり、「C医師は、意図的に膵管を膵尾部まできちんと造影しているのであって、上記の膵管を造影することもあり得るとの趣旨とは全く異なる方針をとっていたことが明らかである」と判断されたのである。

 その上で、Gさんについて膵臓の疾患の疑いが全くないのにもかかわらず、C医師が、総胆管の造影を目的としていたERCP検査で、意図的に膵管を膵尾部まできちんと造影したことは、「不必要であったばかりでなく不適切なものであった」と結論付けた。

 ただし、「不必要であったばかりでなく不適切な」と断じた膵管造影が直ちにGさんの急性膵炎に直結するかどうかについては、「急性膵炎がこれによって生起されたものと解することは困難である」とした。その理由としては以下の3点が挙げられた。

1)ERCP検査では、膵炎を起こさないように慎重に検査を行っても、時として検査後、膵炎を併発してしまうことがあるといわれる。

2)鑑定の結果によると、ERCP検査後に急性膵炎が発症する原因としては、十二指腸乳頭のけいれん、腸液や胆汁の膵管への混入その他が原因として考えられているが、個人差が大きく選択的造影が不成功に終わった症例に多発するということでもなく、通常のERCP検査でも発症する危険性を否定することはできず、急性膵炎の発生病態はいまだに不明な点が多く、世界的に検討されている課題であることが認められる。

3)C医師は、既に約100例のERCP検査をした経験があり、被告病院における年間約70例のうちの約40例を担当している。本件以前に急性膵炎の発症をみたことはなく、本件以後に急性膵炎になった例が一つあったが、これは約1週間で改善した。

 判決では、C医師がERCP検査を実施する場合、膵管及び胆管の双方を造影する方針をとっていることを前提に、これまでの同医師のERCP検査の経験数のうちには、本件と同様に不要な検査を実施した例も相当数に上ると推認した。しかし、本件以前に急性膵炎の発症をみたことがないことから、「不要な検査の実施が直ちに急性膵炎の発症の原因であるものとは解し難いといわざるを得ない」(判決)と判断したのである。

 結局は、本件における急性膵炎の原因の特定は困難であるとの鑑定結果が決めてになり、原告らが主張した「手技上の過誤」がGさんの急性膵炎を発症させたものであると認めることは困難であるとした。

■急性膵炎に対する基本的治療を怠った過誤の有無■

 急性膵炎に対する治療については、判決はC医師の注意義務違反を認めた。

 まずC医師が「ERCP検査後に膵炎の発症することがあり、時には重症化することがあることを十分認識していた」とした。その上で、Gさんについて急性膵炎の疑いをもった以上、これが重症化した場合には早期にICUに移して十分な管理態勢の下で治療に当たることができように、「緊張感をもってGさんの診療に当たるべき義務」があった認定。しかし同医師は、CT検査をすることもなく、また、膵炎の重症度判定に用いられる項目に係る血液生化学検査を十分にはしていないと断じた。この点が、同医師には、Gさんの急性膵炎の診断及びその重症化に対する対応において注意義務に欠けていたとされた。

 判断の根拠には、鑑定人の指摘があるった。鑑定では、9月22日のCT検査がされた時点でのグレードはVの段階であり(グレードIV、Vの所見があれば重症とされる)、膵臓の腫大と腹水貯留が認められていると結論。さらに、「本件では、9月22日にショックに陥っているところ、検査項目については、重症度判定に必要なチェック項目は不十分と見受けられる。9月21日の時点で重症かどうか、集中治療を開始するかどうか、緊張感を持って診断に当たれば、1日早く集中治療を開始することができたと考えられる。9月21日の治療については、腹痛が強かったにもかかわらず、重症度判定が行われなかったことは残念である。アミラーゼの測定にとらわれず、ほかの検査項目をチェックする習慣があればよかったのかもしれない。1日早ければ救命できた可能性を否定することができない。集中治療の開始は、早期であればあるほど救命率は高い。本件においては、本格的な集中治療が開始されたのは発症後70時間近く経ており、この集中治療開始の遅れが予後を大きく作用したと考えられる」と結論付けた。

 結局、C医師がGさんが急性膵炎を発症したと疑った時点から、「急性膵炎の診断及び重症度の判定を的確にすることができるよう適切な血液生化学検査及びCT検査を実施していれば、急性膵炎の重症化の判断ができたと推認される。そして、その時点で直ちにICUに移し、的確な全身管理及び集中治療を実施していれば、Gさんが死亡することは避けられた高度の蓋然性があった」と判断。「被告は、上記注意義務に違反した被告病院医師の使用者として、Gさんの死亡によって生じた損害につき、原告らに対し、賠償する責任を負う」との判決に至った。
(三和護)



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