2004.11.29

NK細胞を標的とする不妊症や不育症の治療に科学的根拠はない、英国研究者が警鐘

 英国Cambridge大学の研究者が、ナチュラル・キラー(NK)細胞の機能の異常が不妊や習慣性流産の原因と仮定して行われている検査や治療に警鐘を鳴らした。詳細はBritish Medical Journal誌11月27日号に報告された。

 末梢血のNK細胞は、ウイルス感染に対する防御に重要な役割を果たす。一方、子宮NK細胞は、胎盤形成期に子宮内膜に存在する主たる免疫細胞だ。この細胞は排卵後に活発に増殖し、子宮内膜間質の30%以上を占めるようになる。子宮内膜間質が脱落膜化するとNK細胞はともに移動し、やがて着床部位に集まる。ここでNK細胞は、胎盤の栄養膜細胞と相互作用するようだ。栄養膜細胞は、子宮のらせん動脈を血流量の多い血管に変え、胎盤と胎児への血液供給を確実にする。一連の過程におけるNK細胞の機能は、サイトカイン分泌を含めてほとんど明らかでない。が、重要なのは、子宮NK細胞は、表現型上も機能的にも、末梢血NK細胞とは異なる点だ。また、その名称から、NK細胞は胎児を攻撃すると想像するのは大きな間違いだ。

 近年、不妊や不育症の女性患者を対象とする末梢血NK細胞検査の実施件数が増えている。これは、子宮NK細胞の機能の異常がこれらの病気に関与し、子宮NK細胞の状態は末梢血NK細胞の分析により予測できるという誤った前提に基づいている。また、末梢血におけるNK細胞の割合は健常人でも5〜29%と幅があるのに、不妊または不育症患者の場合には12%以上なら治療を勧められている。一方で、NK活性測定法は数種類あり、得られる結果も異なる。多用されるのは細胞毒性試験だが、その結果は体内でのNK細胞の機能を反映しない可能性がある。また、子宮NK細胞の細胞溶解活性は、末梢血NK細胞に比べ非常に低いことも知られている。従って、末梢血NK細胞の分析は臨床的に意味を持たない。

 正常な女性と、不妊や不育症の患者の間で、子宮内膜のNK細胞数を比較する試みも行われている。まず、細胞数がその機能を反映するという前提が疑問視されている。また、内膜NK細胞の数は排卵後急速に変化するため、測定は黄体形成ホルモンの放出量を指標に行う必要がある。さらに、NK細胞は粘膜全体に均一に存在してはいない。

 以上のような検査の後に、NK活性を抑制するためのステロイドや抗TNF薬の投与、イムノグロブリン静注などが行われている。一部マスコミは、試験結果が公表されていないにも関わらず、不育症治療にステロイドを用いた試験の成功率は約85%だった、などと報道した。が、現実には、そうした治療は全て母体と胎児に一定のリスクを与えるが、その効果は証明されていない。

 今日では、診断がつかず治療が行われないのは患者にとって耐え難いことになった。インターネットやマスコミが提供する、特別の治療に関する情報の影響は大きい。そして、科学的根拠のない検査や治療に対して支払われる医療費は決して少なくない。多くの人の関与があるだけに至急の解決は難しいが、患者たちへの様々な悪影響が危惧される。

 原題は「Natural killer cells, miscarriage, and infertility 」、全文がこちら(PDFファイル)で閲覧できる。
(大西淳子、医学ジャーナリスト)

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