2004.11.11

会長講演:医療の信頼を確立し、尊敬される医師像を取り戻せ

 「医療に対する信頼はこの半世紀で大きく揺らいだ。今こそ医師は信頼を取り戻すべきだ」。今期会長Alice Jacobs氏は会長講演で、医学校の新入生に対する学長訓示を思わせる道徳論を展開した。

 Jacob氏は、Gallup社の世論調査によれば、主な職業の「誠実さと倫理性」が「非常に高い」「高い」とされた職業は看護師が83%で群を抜いてトップ、次いで2位が薬剤師、3位が獣医師でともに68%、医師は67%で4位に甘んじていることを指摘、「John Mckinlayらが『医師黄金時代の終焉』と題した論文で指摘したように、今や医師は『プロバイダー』、患者は『クライアント』、結びつきは『遭遇』になってしまった」と嘆いた。

 医師−患者関係の希薄化は20世紀中盤と終盤の状況を比較すれば明らかだという。「診療時間は15〜20分間だったのが5〜8分間になり、以前は長期にわたって患者に応対していたのに、今では医師もスタッフも頻繁に入れ替わってしまう。以前は医師は患者のニーズにこたえていたのに、今では運営企業のポリシーに従うようになってしまった」(Jacob氏)。

 こうした信頼低下の原因としてJacob氏は、医療ミスに対してメディアや患者が厳しい視線を向けるようになってきたことと、医療機関経営者からの強いコスト削減圧力がかかっていることを指摘する。

 信頼を取り戻すカギとして同氏が挙げたのは、診療技術の向上、対話能力の向上、自主的行動権(agency)の3つ。3番目の自主的行動権とは医療の中立性の確保のことで、「経営側からのコスト削減圧力と治療上の必要性の調整」「臨床研究における製薬企業からの支援の透明化」が重要だという。

 医師は自ら襟を正し、中立性を確保べきだとするストーリー自体に反論の余地はないが、高騰する医療コストの負担や遺伝子治療の是非、深刻な社会問題になりつつある医療保険未加入者の増加といった深刻な課題に言及することなく、古典的な医師像の復活の訴えに終始した内容は、米国最大の学会の基調講演としてはやや物足りない印象だった。海外の大規模学会の会長講演でしばしば見かけるスタンディングオベーションは残念ながら見られなかった。
(中沢真也)


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