2004.11.08

【取材後記・余話】 日経メディカル11月号特集 「インフルエンザ 10の疑問を解く」

 ここ数年、インフルエンザ診療では、ワクチン、迅速診断キット、抗インフルエンザウイルス薬という、“三種の神器”の使用経験が確実に蓄積されてきた。同時に、新たな知見や問題も浮上している。

 日経メディカル11月号の特集では、流行シーズンの到来を目前にした今、臨床医が押さえておくべきポイントを、10の疑問とその答えで整理した。


<取材後記>

 今回の特集のキーワードの1つは、「1歳未満児」だ。1歳未満児にはインフルエンザワクチンを打つべきか。マウスで重篤な有害事象が報告されたタミフル(一般名オセルタミビル)を、処方しても大丈夫なのか。医師も保護者も、その選択を迫られたとき、インフルエンザ脳炎・脳症への恐れが脳裏をかすめるに違いない。

 厚生労働省はタミフルの1歳未満児への投与について「リスクとベネフィットを考慮し、保護者によく説明の上、慎重投与を」と呼びかける。しかし、副作用のリスクと合併症回避のベネフィットを秤にかけるには、判断材料があまりに乏しい。それ故、今回取材した医師からも、動物実験のデータをもって「1歳未満には投与しないよう」と呼びかけた発売元に対して、「1歳未満児での早期の治験実施を」と訴える声が聞かれた。

 ほんの10年ほど前までは、1歳未満児のほとんどはワクチンを接種しておらず、ノイラミニダーゼ阻害薬もなく、インフルエンザ脳炎・脳症も社会問題化していなかった。それだけに、インフルエンザの診療はずっとシンプルだったに違いない。重篤な合併症の存在が知られ、予防・治療に有効な手だてが増えたことで、第一線の臨床医は新たな悩みを抱えたと言えるのかもしれない。
(亀甲綾乃、日経メディカル


<取材余話>

タミフル一辺倒のインフルエンザ治療に一石
「リレンザ」ネブライザー吸入の利点


 インフルエンザ治療薬リレンザ(一般名ザナミビル)は、大人気のタミフル(一般名リン酸オセルタミビル)の陰に隠れてすっかり脇役の存在だ。しかし、小児科の一部にはネブライザーを使って、適応はないものの、リレンザを小児に積極的に処方する医師がいる。その理由は、内服とは異なり必要量を確実に投与できること、理論的に副作用が少ないという2点にあるという。

 蕨市立病院(埼玉県蕨市)小児医長の小町昭彦氏は、外来で小児にリレンザをネブライザーで吸入させる治療を行っている。2002/03シーズンには、559人の小児(生後5カ月〜15歳)にリレンザを投与した。投与方法は、リレンザ10mg(成人1日投与量の半量)を水溶し、外来で1日1回ネブライザーで吸入させるというものだ。解熱するまで約2〜3日吸入を行うという。

 治療効果は顕著に現れる。リレンザ外来吸入群は発熱期間がA型インフルエンザで2.8±1.6日(平均±SD)、B型で2.4±1.4日となり、治療薬非投与群(A型:6.0±0.8日、B型:5.8±1.2日)と比較して、有意に(P<0.05)短縮した。また、タミフル内服群125人(A型で3.4±1.7日、B型で2.6±1.5日)と比較しても、遜色ない結果となった。リレンザの外来吸入は、タミフル内服に匹敵する効果が得られたというわけだ。

 リレンザを適応のない小児に投与した理由について、小町氏はこう語る。「小児の場合、タミフルを内服させようとしても難しい場合が多い。高熱で疲弊している乳幼児はなかなか薬を飲んでくれず、飲んだとしても嘔吐して薬を確実に服薬していないことが多い。そのため、自宅で親が困惑しているのが現状だ。吸入させる際には患児を押さえつける必要があるが、確実に必要量を吸入させることができる。内服によって全身を循環するタミフルとは違い、局所に薬剤が到達する吸入では、理論的には副作用の心配が少ないというのも大きな理由だ」。実際、リレンザのネブライザー吸入を行う医師は学会などで散見され、同様の考えを持つ医師もいるようだ。

 リレンザ外来吸入は保険適応外なため、治療費は全額患者負担となる。蕨市立病院によると、2日間外来で吸入した場合、初診料や処置料を含め、4000円程度になるという。一方、タミフルを5日分処方した場合、保険診療になるため患者負担額は3000円程度。この程度の差であれば、保護者は納得して治療を受けるようだ。2002/03シーズンは特にタミフルの不足が顕著となったこともあり、口コミでこの治療法が広まり、例年の3倍近い患者が押しかけたという。

 ただし、いいことずくめではなく、医療機関の負担も大きい。ネブライザー吸入の際に患者を押さえつける手間がかかる。「看護師への負担を考えると、忙しいときにはやりにくい作業ではあるが、それでも利点を考え、今後も続ける方針」と小町氏は語る。

 厚生労働省の調べによると、タミフルの2003/04シーズンの供給量は1230万人分。対してリレンザは8万人分と大きく水を空けられている。小町氏は、「医師は簡単な内服薬の処方に頼りがちだが、小児のことを考えるとリレンザ外来吸入も選択肢の1つとして考えてもいいのではないか」と訴えている。
(野村和博、日経メディカル

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