2004.10.25

【裁かれたカルテ】 呼吸困難を訴えて搬送された患者が肺塞栓症で死亡 担当医師に「適切な検査・診断を怠った過失」認定

 呼吸困難等を訴えて救急車で搬送された患者が入院翌日に肺塞栓症で死亡した。裁判所は、担当医師に適切な検査・診断を怠った過失があったとし原告の訴えを認めた(判決◆2004.5.27 東京地方裁判所 平成15年(ワ)第4494号 損害賠償請求)。

 昭和22年9月5日生まれのAさんが2002年7月17日、呼吸困難のため、被告が開設するX病院に救急車で搬送されて入院した。その後同月18日に肺塞栓症が原因で死亡した。

 これについて、Aさんの相続人である原告らは、病院側は搬送されてきたAさんの肺塞栓症を疑い、適切な検査・診断をすべきだったのに、これを怠ったと主張して、裁判を起こした。

 判決によると、事件の経過概要は以下のようになる。

肺塞栓症についての検査義務違反はあったのか

 裁判では、「肺塞栓症についての検査義務違反はあったのか、検査義務違反と患者死亡の間に因果関係はあるのか」が最大の争点になった。

 原告らは、被告病院は、搬送されてきたAさんの肺塞栓症を疑い、適切な検査・診断をすべきであったのに、これを怠ったと主張した。被告病院側は全面的に争う立場をとった。

 これについて判決は、Z医師の検査・診断義務違反の有無について、「肺塞栓症についてのZ医師の経験」「被告病院における心エコー検査の態勢」「本件心エコー検査の経過」「本件心エコー検査実施前に疑うべき疾患」「本件心エコー検査の重要性」「心エコー検査実施についてのZ医師及び被告病院の対応」「本件心エコー検査の結果及びZ医師の対応」の7項目について事実認定を行った(詳しくはこちら)。

 その事実を総合し、判決では、17日中にAさんについて肺血流シンチ等、肺塞栓症の確定診断のための検査が行われなかったのは、「Z医師あるいは被告病院側の事情でその時期を逸してしまったもの」と断定した。

 また、「Z医師は、心エコー検査の重要性は十分に認識していながら、忙しかったためにその結果の確認が遅れ、午後9時ころに結果を確認した時点では、急性肺塞栓症の可能性があると判断しながら、この時点で検査を実施するのは、よほど緊急性がある場合に限られるので、仮に急性肺塞栓症であったとしても、翌日までに再発することはないだろうと軽く考え、本件心エコー検査のビデオ画像の確認もせず、肺塞栓症の確定診断に必要な検査もしなかったものと推認される」と結論付けた。

 結局、Aさんの症状から判断して、心カテーテル検査の結果、狭心症や心筋梗塞のような冠動脈疾患が否定された以上、急性肺塞栓症を疑って早急に心エコー検査を実施することは当然であり、「Z医師は、心エコー検査の結果が出たら直ちにこれを確認し、本件心エコー検査のビデオ画像も確認して、肺高血圧症の所見を得たら、肺血流シンチ等、肺塞栓症の確定診断のための検査を実施し、肺塞栓症と確定診断がされたら、ヘパリンを投与して再発を防ぐべき義務があった」と断じた。その上で判決は、「同医師はこれを怠り、結局、17日中には肺血流シンチ等、肺塞栓症の確定診断のための検査を実施しなかったのであるから、そのために生じた結果について、同医師は不法行為責任を負い、被告病院は使用者責任を負うものというべきである」とした。

 なお、Z医師個人について判決が、「もっとも、医師があまりにも余裕なく働いているという被告病院の態勢にも問題があることが窺われる」と異例のコメントを付けているのは、医師が置かれている厳しい勤務状況への警告として受け止めるべきであろう。

被告病院側に7000万円近くの損害賠償

 判決は、Z医師に検査・診断義務違反がなかった場合、Aさんの死亡という結果を避けることができたかどうかについて検討。17日中にヘパリンが投与されていれば、Aさんの急性肺塞栓の再発は防ぐことができ、Aさんの死亡という結果は生じなかったものと推認されるとした。

 つまり、肺塞栓症についての検査義務違反と死亡との間には因果関係があったと認定。「被告病院は、Aさんの死亡によって生じた損害について、不法行為(使用者責任)による損害賠償義務を負うものというべきである」と結論付け、被告病院側に7000万円近くの損害賠償を命じた。(三和護)

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