2004.09.10

インタビュー「ひじきは本当に安全なのか」 聖マリアンナ医科大学予防医学教室助教授 山内博氏に聞く

 英国食品規格庁(FSA)が7月28日に自国民に対して「ひじきを食べるべきでない」と勧告して以来、各方面で大きな反響や動揺が起きている。なかでも気になるのは妊娠している女性と胎児への影響だ。

 MedWaveでは、聖マリアンナ医科大学予防医学教室助教授の山内博氏のコメントを得て、「妊娠している女性と3歳未満の乳幼児はひじきをとるべきではない」とする記事を掲載した。これに対し、例えば日本生活協同組合連合会はホームページに掲載したQ&A集のなかで、「妊娠している人でも過食しなければ問題ない」とコメントしており、消費者にとっては判断に迷う状況になっている。

 そこで、ひじきのヒ素とその健康影響について、立場の異なる二人の研究者の見解を詳しく紹介する。今回は、前回の記事の基になった山内博氏の談話を掲載する。山内氏は水系汚染や人体に対する影響など、ヒ素自体の毒性についての第一人者である。

■妊娠中の女性と乳幼児がひじきを食べることの影響は。

 ヒ素は胎盤を通じて速やかに胎児に移行する。妊娠動物を使った実験で、半数死(LD50)の4分の1量のヒ素を投与したところ、胎仔の脳で速やかにヒ素濃度が上昇した。母体の脳ではごく一時的に上昇したものの、すぐに低下し、ヒ素濃度の上昇は見られなかった。国内のヒ素中毒事件の知見などから、脳血液関門が未発達の3歳以下の乳幼児でも脳にヒ素が到達し、DNA損傷が起きることが確認されている。

 こうしたことから、妊娠女性と乳幼児はひじきの摂取を控えるべきだと考える。妊娠女性では特に妊娠初期の脳神経系が発達する時期(妊娠5〜6週)は特に用心する必要がある。

■妊娠女性や乳幼児以外はどのようにひじきを食べたらよいか。

 成人については、ひじきを食べる頻度を自分でコントロールすればよい。ひじきに含まれている5価の無機ヒ素は、人間の場合、摂取してから体内の量が半分になる半減期は28時間程度であることが分かっている。このため、毎日食べると蓄積が起きてしまう。安全性を見て3〜4日あけて食べるようにすればよい。英国FSAによる調査の上限値(水戻しした状態で1kg当たり22.7mg)では、10g程度なら生体影響はないと考えられる。1週間に小鉢1杯程度なら問題ないだろう。

■日本人は大昔からひじきを食べているのに健康被害が起きたという報告はないと聞くが。

 ひじきの摂取と健康影響について十分に調べられていないために、あたかも影響が存在しないように見えるだけだ。

 日本人の健常人248人の検査値を基に、私たちが同定した尿中の中毒性ヒ素濃度は、45.6μg/g creatinineだった。これに対して、海産物多食者では129μg/gとなり、有意にヒ素の曝露が高かった。さらに尿中ハイドロキシデオキシグアニン(8-OhdG)と呼ばれるバイオマーカーを用いて、ヒ素の酸化ストレスによるDNAの損傷を調べたところ、海産物多食者の方が高値を示した。

■では、ひじきなどの海藻類は食べない方がよいということか。

 ひじきや海藻を食べる習慣は、日本人にとって大切な食文化だ。これを捨て去ることは有り得ない。だからこそ、生産者や行政、私たちのような研究者、そしてメディアは、安全、安心な食べ方の啓蒙に努めるべきだ。

 中国では海産物の輸出を円滑に進めるため、安全基準を作ろうとしている。清華大学では、国家の委託を受け、ヒ素などの分析手法の確立を進めている。日本がこうした安全基準作りに積極的に参画しなければ、次世代の海産物貿易は中国が作った基準に従うことになるだろう。(聞き手;中沢真也)

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