2004.08.18

【解説】「スリッパ」が教える患者サービスの極意

 新しく開業する医師が頭を悩ませることの一つに、「一足制にするか二足制にするか」がある。なんだか難しそうだが、要は、診療所に土足のまま入ってもらえるようにするか、それともスリッパに履き替えてもらうかの選択のことだ。

 ホテルなら靴のまま中に入れるのが当たり前だ。一方診療所の場合、ひと昔前まではスリッパに履き替えてもらうのが一般的だった。だが、ホテルを意識してか、近年開業した医師の中には、アメニティ向上の一つの証として、靴のまま院内に入れることを挙げる人もいる。

 確かにどこのだれが履いたかわからないスリッパに足を通すことに、心理的な抵抗を覚える患者もいるだろう。水虫をうつされたりしないとも限らず、衛生面でも問題がありそうだ。

 数年前のことだが、筆者が岡山県内のある大病院を訪れた際、スリッパに履き替えねばならなくなった。その時「どうしていまだにスリッパを使っているのか」といぶかしく思った覚えがある。

 しかし、理由を尋ねてみて合点がいった。農村部では、泥がついたままの靴で来院する患者も多く、土足のまま院内に入れると清掃の手間もかかるし、何より非衛生的だというのだ。つまり感染防止という観点からは、土足のままよりスリッパの方が、むしろアメニティが高いという見方ができる。

 これは、アメニティ、そして患者サービスは、一つの物差しで評価することはできない――ということを示している。地域はもちろんのこと、患者の年齢や嗜好によっても、何が患者のためになるかは違ってくると認識すべきだろう。

 さて、スリッパの話には続きがある。最近、関東の地方都市にある二つのクリニックで、相次いでスリッパに関する工夫を目にした。いずれも、紫外線殺菌装置を購入して、消毒してから患者が使うようにしている。衛生上の問題や心理的抵抗の解消を図っているわけだ。

 地域の特性から、土足よりスリッパの方がよいのはだれにでもわかるだろう。だが、そこで思考を停止してスリッパの問題点に目をつぶるのではなく、もう一歩考えを進めて問題点の解消、すなわちアメニティ・患者サービスの一層の向上を考える必要がある。

 小児科と言えばプレイルーム、高齢者が多ければ畳敷きのスペースといったふうに、最近開業する診療所の患者サービスが画一化してきている印象が否めない。厳しい競合を勝ち抜くためには、医療技術はもちろんのこと、患者サービスによる他院との差異化も必要だ。地域の実情に応じて一歩考えを進めたきめ細かい患者サービスを提供する――これこそが他院との競争を有利に展開するための強力な手段になるのではないだろうか。
(井上俊明、医療局編集委員)

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