2004.08.11

【夏休み特集:コラム「医師も戸惑う健康情報」から】 低タールタバコは健康への悪影響が少ないの?

 タバコは健康によくない、と思いつつもタバコを止められない人は多い。そこで、次善の策としてタバコを低タール低ニコチンタバコにかえる。彼(彼女)らはその方が健康への悪影響が少ないと考えているからだ。

 オランダで1975年から1994年の間に肺癌の発症率とその組織型を年齢別に調べた研究がある(1)。それによると、特に1920生まれ以降の男性に肺腺癌が増加傾向にあるという。米国(2、3)やスイス(4)における類似の研究でも、最近肺腺癌が増加していると報告されている。いずれの研究者もその原因として1960年頃より広まりだした低タールタバコを挙げている。

 一般にタバコのタールが10分の1になれば身体への危険性は10分の1になると思われがちである。しかし、これにはいくつかのからくりがあるのだ。

 タバコの箱に表示されるタールの値は、人工喫煙装置を用いて測定されたものである。しかし、実際に人がタバコを吸う場合は、この機械と同じようにはいかない。その一つの理由として、タバコの止められない喫煙者、つまりニコチン依存者は、常に液中のニコチン濃度を一定に保つように喫煙行動を変化させていることがあげられる。

 彼(彼女)らは強いタバコから低タール低ニコチンタバコにかえると、吸入されるニコチン量が少ない分、喫煙間隔を短くしたり、煙を深く吸い込んだり、肺に長くとどめたりなどしてニコチンの吸入量が増すように喫煙行動を変化させるのだ(5、6)。

 しかも、タールが10分の1となっていても必ずしもその中の発がん物質も10分の1まで減っているとは限らない。ニコチン吸収量を一定にしようと喫煙行動を変化させた結果、かえって発がん物質の吸入量が増加してしまうなどということがありうるのだ。また、煙を深く吸い込むと、煙の粒子が肺の奥(腺癌の発生部位)まで沈着してしまう。このことは末梢の肺腺癌が増加している理由の一つとして挙げられてい。

 タバコ会社は低タール低ニコチンタバコの方が健康への害が少ないなどとは一言もいっていない。しかし、彼らはタールやニコチンが少ないということを強調することで、間接的に健康への害が少ないかのような印象を与えている。それにつられて、低タール低ニコチンタバコに切り替えた結果、かえって喫煙本数が増えるようであれば、まさにタバコ会社の思うつぼである。

 さらに問題なのは、低タール低ニコチンタバコ、軽いタバコという印象によりタバコに対する抵抗感が減ることだ。これは喫煙開始の低年齢化を助長する恐れもある。社会への影響も考慮すると、むしろ低タール低ニコチンタバコの方が問題が大きいかもしれない。

■参考文献■
1) Epidemiology 12:256,2001
2) J.Natl.Cancer Inst. 89:1580,1997
3) Cancer 80:382,1997
4) Cancer 79:906,1997
5) 日本醫事新報 No.3670:132,1994
6) 日本醫事新報 No.3790:99,1996

Information PR

ログインしていません

Close UpコンテンツPR

ログインしていません

もっと見る

人気記事ランキング

  1. 認知症ではないと診断した患者が事故を起こしたら医… プライマリケア医のための認知症診療講座 FBシェア数:393
  2. 免許更新の認知症診断に医療機関は対応できるか リポート◎3・12道交法改正で対象者は年間5万人 FBシェア数:94
  3. 言葉の遅れに「様子を見ましょう」では不十分 泣かせない小児診療ABC FBシェア数:121
  4. 院長の「腹心」看護師の厳しすぎる指導で退職者続出 院長を悩ます職員トラブル大研究 FBシェア数:4
  5. 「在宅患者への24時間対応」はやっぱり無理? 日医、かかりつけ医機能と在宅医療についての診療所調査結果を公表 FBシェア数:45
  6. 医療過失の95%を回避する術、教えます 記者の眼 FBシェア数:93
  7. 検査キットに振り回されるインフルエンザ診断 薬師寺泰匡の「だから救急はおもしろいんよ」 FBシェア数:574
  8. 58歳男性。口唇の皮疹 日経メディクイズ●皮膚 FBシェア数:0
  9. 「認知症の診断=絶望」としないために インタビュー◎これまでの生活を続けられるような自立支援を FBシェア数:59
  10. 「名門」を出てもその先は自分次第 木川英の「救急クリニック24時」 FBシェア数:176