2004.08.11

【夏休み特集:コラム「医師も戸惑う健康情報」から】 ダイエット目的の腸管洗浄やコーヒー浣腸にご用心

 先日新聞を読んでいたら片隅の小さな記事が目に入った。エステで腸内洗浄を行ったため、医師法違反で摘発されたというものだ(1)。そういえば、昨年取材に来た雑誌記者の人が「ダイエットのトレンドは腸内洗浄だそうです」といっていたことを思い出した。おそらく、そのエステでもダイエットの一環として腸内洗浄を行っていたに違いない。

 腸内洗浄とは、肛門から管を入れそこから水やコーヒー、石けん水などを注入し大腸内の便を無理に排出させる方法である。確かに便が排出されれば一時的に体重は減るだろうが、また食事をすれば旧の木阿弥である。

 本来腸内洗浄はダイエット目的ではなかった。様々な病気に効果があると喧伝されている代替医療のひとつである。

「腸のひだの間にはコールタールのように付着した古い便、いわゆる宿便が残っており、ここから毒物が吸収されるために様々な病気となる。だから、この宿便をとるために腸内洗浄が必要なのだ」。

 日本では腸内洗浄をこのように説明しているらしい。もちろん、このような宿便などない。余談となるが、かつて私は宿便という言葉は西洋医学にはなく、東洋医学の言葉ではないかとコメントしたことがあった。すると、東洋医学でもそのような言葉はないと、ある先生からお叱りをうけた。よくよく調べてみると、医学論文に宿便性潰瘍という西洋医学の病名を見つけ(2)、自分の浅学を恥じるに至った。ただし、この病名で使用される宿便は高度の便秘に伴う糞便塊を指すものであって、代替医療のものとはもって異なるものである。

 宿便という言葉の由来を調べてみたがわからなかった。ただし、「腸から老廃物が吸収されそれが病気の原因となる」という考え方は古くからあることがわかった。これはautointoxication(自家中毒)と呼ばれ、ヒポクラテスの時代からあった(3)。これを治療するための浣腸は中国、インド、エジプトなどの伝統医学の中で重要な位置を占めていた。19世紀のヨーロッパではautointoxicationが中心的な考え方であり、その治療法としての腸内洗浄(colonic irrigation, colon hydrotherapy)はこのころから広まった。しかし、20世紀初頭にはこの考え方は誤りであると非難され、鳴りをひそめた(かのように思われた)。

 ところがここ30年の間、腸内洗浄という考え方が復活した。中でもGersonという人ががんに対する治療法として特殊な食事療法とともにコーヒー浣腸(coffee enema)を提唱したこともあって、現在欧米の代替医療施設において行われている。しかし、コーヒー浣腸による死亡例(4)や腸内洗浄をきっかけにアメーバ症が広がったとの報告があるなど、その安全性に疑問が投げかけられている。しかも、その理論には科学的根拠がなく病態生理学的にも真っ向から批判されている(6)。

 最近日本でもインターネット上に腸内洗浄を行う施設の宣伝や自分で腸内洗浄を行うためのキットを販売しているサイトを見つけることができる。恐らくautointoxicationの概念に宿便をあてはめたのだろう。しかし、上記のように理論的に問題のあること、決して安全とはいえないことなどを考えると、腸管洗浄やコーヒー浣腸は全く無意味な治療法といえるだろう。

■参考文献■
1) 朝日新聞 2003年1月15日付「医師免許なしに腸内洗浄の疑い」
2) 日本大腸肛門会誌 54:955-959, 2001
3) J. Clin. Gastroenterol 24:196-198, 1997
4) JAMA 244:1608-1609, 1980
5) N Engl J Med 307: 339-342, 1982
6) JAMA 268:3224-3227, 1992

■参考ホームページ■
「健康情報の読み方」ホームページ

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