2004.08.10

【連載:がんの治療成績を読む】その25 読者からの反応 〔患者関係者編〕 多い、成績開示を求める声、「患者の権利侵害になりかねない」

 本連載に対し、多数の意見が寄せられたが、がん闘病中の患者からも多数の意見が寄せられた。すべてを紹介することはできないが、前回の医療関係者編に続いて、今回は、患者関係者から届いた声を紹介する。
 
 大学病院で病期3期のがんと診断されたが、治療法に不満を持ち、別のがん専門病院に転院したというあるがん患者。

 「患者にとって、施設選びをする判断基準が分からないのが実情。特に病期3、4期の患者には非常に切実」と患者にとって知りたい情報が不足していることを指摘する。そして、病院が自主的にホームページで開示している生存率については、「データの評価基準が施設によってバラバラ。データ集計の仕方を標準化すべき」と訴える。また、「病院ごとの腫瘍内科専門医の数も掲示してほしい」と要望する。「データの質が担保された後は、施設ごとにどの程度5年生存率が改善していくかが関心となっていくだろう」と言う。

 がんと闘病中の小原寿美さんは、「各病院のホームページなどで、最新の情報(生存率)を正しく詳しく記載してほしい。開示方法については、厚生労働省がガイドラインを作成し、それにのっとるべき」との意見。自分が病院を選んだときには、インターネットで情報を収集し、その際、「5年生存率を、指標として重視した」と言う。「5年生存率を公開している施設は少なく、見つけた中では国立がんセンター中央病院の5年生存率が高い方だったので、自宅からは遠かったが選択した」。こうした情報の整備を求める声は、自分の体験に基づいている。

生存率開示、義務付けを

 家族ががんのK.Yさん。助かってほしいとの一念で、精一杯の情報を集めた。「地元の総合病院で診断を受けたが、治療については生きる確率が少しでも高い病院に転院させようと思った。施設別の生存率は不明だったので、症例が多く、設備が充実しており、スタッフの意識が高いといった観点から、少しでも生存率が高くなることを目指して転院先を選んだ」。今後の情報整備に関しては、「施設別の生存率がぜひ公開されることを望む。同時に、母集団の差異による誤差を排除する方法の整備をしてほしい」と希望する。また、「病院別の生存率の開示は義務付けるべき」との考えだ。

 悪性リンパ腫患者・家族連絡会「グループ・ネクサス」の世話人である伊藤裕司さんは、造血幹細胞移植の体験者だ。

 「施設別の治療成績を収集・分析する意義は非常に高い。特にインフォームド・コンセント(説明の上の同意)などを通じて患者サイドも判断能力を求められる昨今では、社会として情報データベースを構築することが急務だろう。何を指標に成績を測るかという方法論は非常に難しいと想像するが、透明性が高い指標を作り、古いデータにならないよう定期的に改訂もし、治療法別の奏効率も出すといったことを進めてほしい。社債発行における格付け機関のような、みんなが拠り所とする共通尺度を一刻も早く確立してもらいたい。このままでは、たまたま出会った医師の自己満足の犠牲になる患者がなかなか減らないことを心配している」との意見を寄せた。

 インフォームド・コンセントのとき、その施設の成績が全国成績と大きく異なっても、全国成績で患者に説明している施設もまだあるのが実情だ。伊藤さんは、患者が納得して治療や施設の選択ができるようになるには、施設別の生存率の開示が不可欠だという考え方である。

「患者の知る権利」との主張も
 
 日本がん患者団体協議会理事長の山崎文昭さんからは、以下のようなメールが寄せられた。

 「今回のコラムにより“医療施設間格差が大きい”という事実を目の当たりにして、とてもショックを受けた。現在の治療が全国均一で、満足できるレベルにあると信じていたからだ。がん患者のように命を賭けて治療をしている方々にとって、5年生存率を示す情報が、病院を比較して選択するというこれまでになかった行動を促す一つの基準になっていくだろう。ただ、情報開示の仕方に全国統一ルールがないという問題点があるのは深刻だ。良質の情報があって初めて患者は自身の治療や医療機関を選択できる。情報の質が悪ければ、インフォームド・コンセントという医療における基本となる概念を、有名無実にすることになる。医療機関にとっては、他との比較によって問題の真の原因をはっきりさせない限り根本的な対応策が取れない。そうしなければ、病院間の格差をなくし、“一定水準以上の医療技術が日本全体で広くあまねく受けられるようになること”が実現するすべもない。この際、日本国民のためにも医療機関や行政はその責任の重みを感じ、対症療法ではなく、患者のための医療という理念の下での根本的な改革を望む。科学的・統計学的に正しい情報を提供して初めて医療機関を選ぶ指標となる。それを情報公開しないというスタンスならば、国民の生存権や選択権、知る権利などの患者の権利を踏みにじる行為と言わざるを得ないことになる」。

 「患者の権利法」の制定を唱えている山崎さんは、施設別生存率を知ることを、患者の基本的権利ととらえている。

 医療事故市民オンブズマン・メディオ代表の阿部康一さんからは下記の意見が届いた。全文を紹介する。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 患者が求める医療情報とは何か。それは、「どの病院に、どんな医者がいて、私の病気を安全に治してくれるか」を知ることができる情報だ。がんの患者であれば、「どの病院でどんな治療をすると、自分と同じようながんの進行状況の人が、1年後、5年後どれだけの確率で生きていられるか」を知ることができて初めて、治療法と病院を患者が選択できる。

 本連載は、まさにそうした患者のニーズに応える内容となっている。各病院の数値を 一カ所に集めることにより、患者は病院を選べるようになる。そうすると、数値が劣る病院は、数値を上げる努力をする。情報を公開することにより、医療の質が向上するのだ 。

 「数値を出す条件が各病院で異なり、公正を保てないのなら、公開すべきでない」という反対意見もあるだろうが、その議論は情報を公開したからこそ出てきた議論。情報公開が、その公正さを保つ条件整理を促進する原動力になるのだ。従って「まず情報公開ありき」で物事を進めなくてはならない。

 医療の質を上げたい病院はどうするだろう。短期に数値を上げたい場合は、「技量の高い医師を雇う」のではないか。そうすることにより、「技量の高い医師は高給を得、低い医師は淘汰」されるだろう。この流れにより、医師は医局の縛りを自ら解き、病院と医師が直接雇用契約を結ぶようになっていく。また、病院は医師を技量で評価するようになり、評価される側の医師は技量を向上するように努力し、また自分の技量が向上する環境として最適の病院を選択するようになる。

 つまり、「医療情報の公開」が、患者の病院選択を可能とし、さらに病院が医師を、医師が病院を選択する流れを作り、医療の質が向上する好循環を作り出す。(医療事故市民オンブズマン・メディオ代表・阿部康一氏)

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 確かに、がんの生存率開示の流れは、治療成績の比較を促すだけにとどまらないインパクトをもたらす可能性がある。それが阿部さんの言うような好循環となるためには、成績の良い病院、腕の良い医師がもっと実力を発揮できるような環境づくりが伴うことも重要だろう。それができてこそ、高水準のがん治療が日本全国に浸透していくという「均てん化」が進むことになるわけだ。


*多数のご意見ありがとうございました。すべてをご紹介できず申し訳ありませんが、いただいた内容にはすべて目を通しています。今後とも、ご意見、ご批判をお寄せいただくようお願いいたします。

(埴岡健一、日経メディカル
*随時、掲載します。

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