2004.07.30

【連載:がんの治療成績を読む】その24 読者からの反応:医療関係者編、リスク調整済データ開示がカギに

 2回にわたって、連載に対する読者からの反響を紹介する。まず、今回は医療関係者からの声、次回は患者関係者からの意見を取り上げる。

 医療関係者から、多数寄せられたのは、生存率データに関する限界論である。

 連載10では、疾病、病期、年齢など患者背景を考慮しない、各施設のがん全体のデータに関して検討をした。そのため、「臓器別の患者の比率を考えないと本当の比較はできない」(A.K氏)、「疾病、病期、病態、年齢などによって調整した期待生存率と比べることが必要」(I.W氏)、「がんの種類、病期別に記載しないと誤解を招くもと。施設によっては進行がんをはじめから診なかったり、手に負えなくなりそうになったら、早々に他施設に送ってしまったりするところもある」(T.M氏)といった意見が多かった。

 確かに分析には、対象群をできるだけ均一化する必要がある。

リスク調整済生存率の算出が課題

 また、連載2〜6で疾病別に取り上げた施設別生存率データは、病期別となっているが、各施設が対象範囲(手術しなかった事例も含めているか)、症例捕捉率や計算法を明確にしていない場合が多いので、「はっきりした優劣は言えない」との指摘もあった。生存率と同時に、計算法や追跡率も同時に開示しなければ、「まじめに調査している病院の方が、成績が悪くなってしまう」(S.I氏)という意見は、同感である。

 もっとも、連載18で紹介した大阪府の10病院の生存率や、連載23で掲載した全国がん(成人病)センター協議会のデータは、病期別のデータで計算法も統一してあるので、対象と計算法を一定にした比較という点では、2歩も3歩も前進している。

 もちろん、それだけで問題はすべて解決しない。M.Y氏は「いろいろな予後因子(糖尿病などの基礎疾患の有無、年齢など)を考慮に入れた成績が公表されれば、より良い情報になる」と言う。連載16で、米国の造血幹細胞移植における「リスク調整済生存率」の算出事例を紹介したが、予後調整因子によってデータを修正した「リスク調整済生存率」を出すことが、がん生存率を巡る課題の中心であるのは間違いない。今後、各種学会でその計算方法(リスク因子の抽出とリスク係数の算出など)を開発することが求められるだろう。

「格差は由々しき問題」との受け止めも

 そのほか、「肺がん4期で比較的高い生存率を上げている病院がなぜ、それができているのか早く報道してほしい」との注文もあった。生存率を開示することが目的でなく、目指すのは、全施設成績の高い生存率への収れんであるから、もっともな意見である。

 国立大学病院勤務のY.I氏は、「施設によって5年生存率に明らかな差があることは由々しき問題。患者さんの立場を考えると、すべての施設がより良い成績となるように研さんしなければならないと思った」と、医学界全体に突き付けられた課題と受け止めて、気を引き締める。

 自治医大呼吸器外科の長谷川剛氏は、「米国の経験では、冠動脈バイパス手術の施設別治療成績の開示で、患者の施設選択行動の変化はあまり見られなかったが、施設の成績向上が起こった。成績開示は医師の努力を促す効果がある」とした上で、「学会は現状のように全国成績を集計するだけでなく、学会認定施設ならば一定以上の成績を収めていることを保障すべき。また、インターネットなどで各施設が独自に治療成績を開示しているが、偽りの情報を開示しないことを学会倫理綱領に盛り込むべき」と提案する。

 最後に、熊本大学発生医学研究センター助教授の粂和彦氏から、全連載を読んだ上でのまとまった意見をいただいたので、長文であるが全文を掲載する。

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 今回の連載は、全体を通じて、非常に意義深いものと感じている。何よりも、インターネットという量や発行日に制約の少ないメディアを使ったことにより、20回を超える連載が継続中で、これまでの常識からは予想できない量の解析が行われ、その中には、医師にとっても驚くような結果もたくさんある。編集者の執念を感じさせる連載である。

 内容的には、限界もあり、批判もある。例えば、連載10には、施設全体での5年生存率が示されているが、これは、医学的には、ほとんど意味がなさそうな数字だ。施設の存在する地域、あるいは、その施設の医療体制により、当然、疾患の割合そのものが変わる。例えば、近隣に、ある臓器の癌の専門施設があれば、相対的に、その施設でその部位の癌は減る。また、逆に、その施設にある部位の専門医が多ければ、その疾患の症例数が増える。このような分母集団の割合が異なる集団では、全体の平均の比較に意味はない。そのため、その数字に基づいて連載9で行われている「推定喪失患者数」計算も強引だし、この言葉そのものも、ややセンセーショナル過ぎる。

 しかし、臓器別・病期別の比較に対しては、このような批判は当たらない。これだけ細分化したグループ間での比較は、いくら患者背景が異なったり、病期判定基準に、差があったとしても、相当の意義が見い出されるはずだ。特に症例数が一定数以上ある施設同士の比較は、数字をほぼそのまま受け取っても問題はなかろう。これだけ対象を絞った後でも、大きな差が認められるケースがあることは、率直に言って驚きだ。

 実際のデータを見ると、連載13や、大阪府のデータの分析から分かるように、治癒率の高い早期がんと、治癒率の非常に低い遠隔転移を伴う時期では、施設間格差が比較小さいが、進行がんでも治癒の可能性の残される時期に、格差が大きい。簡単なものは、誰が治療しても治るし、難しいものは名医でもやはり難しい。その間に、医者の腕の発揮できる部分があるというような解釈もできて、興味深い。

 また、話題はこのテーマの外に広がるが、昨今、病院のランキングや、名医本の発行が流行している。非常に安易な作りのものもあるし、データや取材法に疑問を投げかけられているものもある。そのため医療者側からの批判も多い。しかし、このような形で、医療機関が比較され、競争を余儀なくされるということは、従来、全くなかったことで、その意味で、ランキングの流行が、医療に与える影響は大きい。特に重要なのは、「良い医療を選択する」という視点を、一般の患者に与える点だろう。

 医療の良さを測る尺度は、「アクセス」「コスト」「クォリティー」だと良く言われる。何も医療知識がなくても、前2者は、どの患者にも簡単に実感できる。しかし、医療に従事する者としては、患者には、何よりも、医療の質で、医療を選択してほしいと願うが、従来のやり方では、患者側に質を判断する材料がない。ランキングの流行は、恐らく、その第一歩で、現在の流行に悪い部分が多いのならば、当然、良いランキングを考えるべきだ。それを作ることができるのは、積極的な医療の情報公開、医局・大学間の壁を越えた医療の標準化と人材交流、などの医療者側の努力しかない。

 今回の癌の治療成績を読むシリーズは、従来のランキングを超えた、質の面での客観的なデータを、どう比較していくかという示唆を与えた点で、画期的なのである。

 蛇足ながら、このように施設名を出して、順位付けすることは、数字の独り歩きにつながり、たった一つの数字だけで、患者が判断してしまう危険性があるという批判がある。正しい面もあるが、患者をバカにした批判という面もある。また、結果の比較をすることは、例えば、医療機関側が難しい患者を避けるようになるとか、わざと病気を、やや重めに初期判定すれば、病期別の結果を良くする「操作」が可能になるというような批判もある。しかし、これらは、情報のより一層の公開と、比較そのものを良くして行く努力で乗り越えるべき点であり、情報を隠す理由にはならない。施設名を出すことで、初めて、比較の結果を、医療者が真剣に受け止めるという効用もあることを、強調したい。(熊本大学発生医学研究センター助教授の粂和彦氏コメント)
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(埴岡健一、日経メディカル
*随時、掲載します。
次回は、患者関係者から寄せられたご意見を取り上げます。

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