2004.07.23

「がんの治療に役立つ健康食品(根拠は必ずしも確立されていない)」という表示が可能に?

 ある薬剤がある病気に対して有効であることを科学的に証明するためには、対照試験が必須である。このことは、医療関係者であればだれでも知っているだろう。通常この場合対照試験といえば、二重盲検ランダム化比較試験である。複数のランダム化試験により同じ結果が出ていればさらに正確さが増すであろうし、その効果の差が臨床的にも意味のあるものであれば、なお有用である。このような医療関係者としては常識と考えられていることでも、まだ一般には浸透していないらしい。

 6月に厚労相から「『健康食品』に係わる今後の制度のあり方について」という報告書が発表された(1)。この報告書では、現行の健康食品の表示規制が厳しいことから、一部の事業者による曖昧な表現を用いた表示や誇大広告につながり、その結果消費者の混乱を招いていると指摘し、次のような提案をしている。

 「食品機能の表示の科学的根拠が現行の審査基準を完全に満たしていないものであっても、一定の科学的根拠が存在すれば、効果の根拠が確立されていない由の表示を付けることを条件として、『身体の構造/機能表示』を広く許可すべきである」。

 私には報告書の意味するところが分からない。私の理解では「一定の科学的根拠が存在する」ということは「対照試験でその効果が証明されている」ということを示すはずだ。このことは「効果の根拠が確立されている」ことと同義ではないか。つまり、「効果の根拠が確立されていない」ということは「一定の科学的根拠が存在しない」ということになり、上記の文章は矛盾する。

 確かに現行の特定保険機能食品制度(トクホ)はその関与成分が何であるか、それがどのような作用機序を持つのかといった、細かなデータを要求している。このため、複数の成分を持つ健康食品はトクホを取得できない。しかし、最終的なトクホの目的は人の健康に寄与することであるから、人を対象とした対照試験により効果が証明され、安全性が確立されていればそれでよいはずだ。漢方薬など作用機序や関与成分の詳細が判明していなくても医薬品になっているではないか。関与成分の特定、作用機序の解明を要求するのではなく、規格基準をつくることで、この制度を良い方向に緩和することができるのではなかろうか。新たな基準など必要ないのだ。

 消費者を惑わすような健康食品の誇大広告が反乱するのは、あくまでも事業者の認識の低さやモラルの問題によるものであり、現行の保険機能食品制度が厳しいからではない。上記のような表示基準を新たに設ければ、さらに消費者が混乱するだけである。本当に必要なことは正確な情報の開示と、消費者がその情報を正しく読みとる能力をもつことである。これをもってしか事業者の認識の低さやモラルの問題に対抗できないのである。

 皆さんは、以下の言葉が健康食品に表示されていたら、正確にその情報を読みとることができるだろうか(もちろん、病気の治癒、リスクの低減に関わる表記は健康食品に許されないのだが、今回の問題の本質はこういうことである)。  

 「この健康食品はがんの治療に役立ちます。(その根拠は必ずしも確立されていない)」。

■ 参考文献 ■
1) 「健康食品」に係わる制度のあり方に関する検討会 「健康食品」に係わる今後の制度のあり方について(提言)〜国民1人1人が、食生活の状況に応じて適切な選択ができるような正確な情報を広く提供する〜 2004年6月9日

■ 参考図書 ■


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