2004.07.12

【記者の目】 「健康増進法」は国民に役立っているの? 健康効果あっても記者にも伝えられない、法律の壁

 最近の記者発表会で感じる、とってもおかしな現象を報告したい。7月1日に日本コカ・コーラは、新製品記者発表会を都内のホテルで開いた。1本350mlに大豆ペプチド4000mgを配合したペットボトル飲料「パワーエイド」で、ニュースリリースには「“実感できる”高機能性飲料」と記載している。

 しかし、「何を実感できるのか」については、記者発表では具体的な説明が一切なかった。このため出席した記者から、「実感できる高機能性飲料とのことですが、具体的に何を実感できるのですか」との質問が相次いだ。

 度重なる記者からの質問に対して、同社イノベーション本部の篠原幸治バイスプレジデントは回答に苦慮していた。

 「健康増進法の取り決めがあるので、“実感できる”のが何をとは申し上げることはできない。ただし、しっかりとしたヒト試験の結果、我々としては意味のある量として大豆ペプチド4000mgを配合している」

 「だが、「トクホ(特定保健用食品)ではないので、効果をいうことができない。社として、エビデンスベースの製品開発を進めている」

 篠原バイスプレジデントは、実感の具体的内容をなぜ説明できなかったのか。それは、健康増進法を意識してのことだ。

 2003年5月30日に公布され、同年8月29日に施行された「改正・健康増進法」と、これに基づき8月29日に通知された「食品として販売に供する物に関して行う健康保持増進効果等に関する虚偽誇大広告等の禁止及び広告等適正化のための監視指導等に関する指針(ガイドライン)」の内容を厳密に守れば、トクホを取得していない一般の食品に関して、健康効果を一切説明できないことになる。

 2003年12月のタマネギの記事(関連トピックス参照)のように、農作物そのものの場合には健康効果をうたった、びっくりするような広告が許されている。だが、加工食品の場合はだめだ。

 とはいえ、記者発表会のような口頭の場では、研究成果に基づく健康効果について具体的に説明する場合が実際には多い。今回の日本コカ・コーラの記者発表会は、改正・健康増進法の取り決めを頑なに守った、数少ない例の一つといえる。

 しかし今回、何人もの記者から同じ質問が繰り返されたように、改正・健康増進法を厳格に守っていると、どのような健康効果を期待できるのかを記者は知ることができない。これでは、記者がまとめる記事もわかりにくくなり、消費者に正確な情報が伝わらなくなる。はたして健康増進法は、日本国民の“健康増進”に役立つ法律なのだろうか。

科学的根拠がある製品に、健康効果をうたえないのはおかしい

 実際に日本コカ・コーラがどのようなヒト試験を行って、大豆ペプチド4000mgの健康効果を確認したのか。手元にデータが一つある。

 1日4000mgの大豆ペプチドを飲料で補給すると、筋肉損傷の指標となるクレアチニンキナーゼ(CPK)が減少した、というもの。

 関西鍼灸大学整形外科の増田研一助教授が、同志社大学体育会サッカー部員の男性41人の協力を得て、2004年2〜3月に実施したヒト試験の成果だ。

 実はこのデータは、今回の記者発表に先行して6月23日に開かれた「大豆ペプチド健康フォーラム 第3回マスコミセミナー」で発表されたもの。

 日本コカ・コーラの新製品発表会とはまったく別に、マスコミ向けに大豆ペプチドの健康効用を説明するセミナーだった。

 増田助教授は発表の最後の謝辞で、実験飲料の提供を日本コカ・コーラから受けたことに言及した。

 日本コカ・コーラは、アミノ酸に続く機能性飲料の素材として大豆ペプチドに着目し、大豆ペプチド配合の機能性飲料の開発に2002年に着手した。

 日本コカ・コーラの主導で実証した大豆ペプチド配合飲料の健康効果のデータは、この関西鍼灸大学の研究成果のほかにもある可能性が高い。

 しかし、こうした健康効果のエビデンスは、多くの人に知ってもらって初めて国民の健康増進に寄与する。たとえエビデンスがあっても、それを多くの人に伝えるすべがなければ、宝の持ち腐れだ。

 エビデンス構築に費用をかけた企業も、研究投資を回収しにくくなる。このままでは、改正・健康増進法は、エビデンスを構築しようという企業の意欲をそぐことになりかねない。

 健康増進法では、加工食品のうち、健康機能を説明できる食品カテゴリーとして、トクホを設けている。しかし、トクホでは現在のところ「疲労回復」など、疲労対策に役立つという表示は認められていない。

 このため、日本コカ・コーラが大豆ペプチド飲料の疲労回復効果をヒトでいくら確認しても、トクホの認可を受けることができないのが現状だ。

 結局、健康増進法は国民の健康増進の役に立っていないのではないか。今回の日本コカ・コーラの新製品記者発表会で、特にこう強く感じた。

 なお、東京・新高輪プリンスホテルで開かれた日本コカ・コーラの新製品記者発表会は7月1日の11時半〜12時に行われた。

 記者発表会場を出てしばらく進むと、そこには係員がいて、誘導されてバスに乗り込む。ほんの数分揺られて到着した東京・高輪プリンスホテルでは、12時15分から「大豆ペプチド健康フォーラム」が開かれた。

 会場には、大豆ペプチドを配合した主な商品が展示されており、この中には日本コカ・コーラが7月5日から全国のコンビニエンス・ストアで先行発売する「パワーエイド」も並んでいた。

 そこでは、大豆ペプチドがアミノ酸に比べて「素早く、優しく、カラダに吸収」され、「α2波でアタマスッキリ」「代謝促進で夏冷えを防ぐ」「カラダ(筋肉)の疲労を回復する」などの健康効果を期待できることが紹介されていた(関連トピックス参照)。

 スライドショーや展示、配布資料には関西鍼灸大学の研究成果も紹介されていたが、日本コカ・コーラという文字はどこにも記されていなかった。
(河田孝雄)

■ 関連トピックス ■
◆ 2003.12.19 解説】どうして、タマネギには効用表現が許されるの? 疲労回復や安眠にとってもよく効く−−タマネギの車内広告を発見!
◆ 2004.2.27 不二製油、「大豆ペプチド」の生産を10倍に増強 エビデンスが続々、2004年のヒット商品の予感

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