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2004.05.06

なぜ、今L-カルニチンなのだろうか?

 最近、健康食品成分としてL-カルニチンが注目されているという。今まで日本でL-カルニチンは医薬品とされていたが、2002年に食品に分類されてから健康食品として出回るようになった。

 L-カルニチンは二つのアミノ酸、リジンとメチオニンから構成された成分で、肉などから摂取することができるし、体の中でも合成することができる。したがって、通常これが欠乏することはない。なぜ、今L-カルニチンなのだろうか。

 L-カルニチンは、海外では心臓疾患、運動能力改善などに使われているが、日本では主としてダイエット用健康食品として出回っている。それは、以下の理由による。

 筋肉はブドウ糖または脂肪酸をエネルギー源としている。筋肉細胞内で、脂肪酸がエネルギーとして利用されるためには、まずミトコンドリアに入らなければならない。この時にL-カルニチンの手助けが必要なのだ。外からL-カルニチンを十分補給してやれば、筋肉内の脂肪がより多く消費され、それが体脂肪の減少につながるだろうというのがその理論的根拠である。確かに、L-カルニチンを経口摂取すると血中カルニチン濃度が上昇し(1)、脂肪酸のβ酸化が亢進するというデータがある(2)。100人の肥満者に投与したら体重が減少したという報告もあるらしい(3)。

 EBM(Evidence Based Medicine、科学的根拠に基づいた医療)という言葉が普及するにつれ、エビデンス(科学的根拠)という言葉をしばしば耳にするようになった。健康食品の分野でも例外ではない。ただ、このエビデンス、色々なところで都合よく使われている。皆さんは、上記の説明をエビデンスとみるだろうか。

 上記の説明ではいくつもの疑問がわく。筋肉内のL-カルニチン濃度は血液内の50〜100倍である。血液中の濃度が少しばかり上昇したからといって、筋肉内の濃度に影響するものだろうか(4)。しかも、L-カルニチンは体内で合成することもできるため、外から投与すれば体内合成が抑制されるために結局筋肉内のL-カルニチン量はそれほど増えないのではなかろうか。上記の人を対象とした研究は対照試験でないので、この結果だけでは本当にL-カルニチンにダイエット効果があると断定はできないのではないだろうか。

 これらの疑問は比較試験によりダイエット効果が証明されれば解消されるはずだ。そこで文献を調べたところ、36人の中等度肥満女性を対象とした二重盲検試験の論文を見つけた(5)。BMIの平均が24.7の肥満女性を二つのグループに分け、一方に2gのL-カルニチンを1日2回、他方にプラセボを服用してもらい、両者に有酸素運動を行ってもらった。そして8週後に体重などを測定した。その結果、L-カルニチンを投与しても全く体重は減少しなかった。

 確かに、前述の研究に比べてこの研究では対象人数が少ない。しかし、こちらの方が実験デザインとしては優れている。したがって、この研究結果をもって現時点でのL-カルニチンの評価をすべきである。中学数学の試験で100点を取った人が高校数学の試験で70点を取った人より優秀であると言えないのと同じことだ。より優秀であると主張するためには高校数学の試験でより多くの点数をとるか、大学数学の試験を受けて高い点数をとらねばならない。

 エビデンスとは何か。これを単に科学的根拠と訳せば、上記のL-カルニチンのダイエット理論を裏付ける基礎研究もまたエビデンスと言えるかもしれない。科学の3要素とは「普遍性」「論理性」「客観性」の三つであるという(6)。基礎研究もこれらの要素を兼ね備えている。しかし、EBMにおいてエビデンスは臨床研究のことであり、よりレベルの高いエビデンスが評価される。

 その意味で、今回紹介した二重盲検試験を凌駕するような臨床研究でL-カルニチンの効果が証明されない限り、ダイエット効果は認められないと言わざるを得ないのである。

■ 参考文献 ■
(1)Metabolism 51:1383-1391, 2002
(2)Ann. Nutr. Metab. 44:75-96, 2000
(3)M. J. A. 171:604-608, 1999
(4)Intern. J. Sport Nutr. Exer. Metab. 10:199-207, 2000
(5)中村雄二郎著「臨床の知とは何か」岩波新書


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