2004.04.13

【連載:がんの治療成績を読む】 その21 パート4「がん生存率開示の問題点と将来像」  勝手な表示方法が横行、ルール決めが急務

 今回からパート4の「がん生存率開示の問題点と将来像」に入る。地域がん診療拠点病院(以下、がん拠点病院)で5年生存率開示が進み始めた。患者の病院選択と、施設間競争の幕が切って落とされたのだ。だが、「ゲームが始まっているのにルールが決まっていない」状態にとどまっている。混乱を避けるため、ルール作りが急務だ。

 4月から、がんの罹患率と死亡率の大幅減少を目指す、政府の「第3次対がん10カ年計画」がスタートした。この戦略の中で、がん拠点病院が、がんの治療技術の向上と統計データ収集の中核的な役割を果たすことになっている。

 がん拠点病院には、がん患者の治療と予後に関するデータを収集・整理する「院内がん登録」の体制を整備することが義務付けられている。また、「がん拠点病院で構成する全国的な協議会(全国地域がん診療拠点病院連絡協議会)にがん患者の5年生存率等の情報を報告するなど、総合的ながん情報の収集提供に積極的に取り組むこと」も指定の要件とされている(同協議会は未設置)。

 こうした要請を受けて、既に一部の施設が疾病別5年生存率を開示している。<連載2>から<連載7>では、ホームページで開示されているそうしたデータの一部を集めた。



 だが、その開示の仕方に統一ルールはまだない。厚生労働省健康局総務課生活習慣病対策室では、「今のところ、5年生存率を開示するかどうか、どんな方法とするかは、各施設の自主性に任せている」(室長補佐の奥田浩嗣氏)と言う。自主性の名の下に放任している格好で、その結果、<表1>に挙げたような様々な問題が生じている。

 まず、開示している施設はまだ少数派だ。開示しているデータの計算方法もまちまちで、症例の集計期間にもばらつきがある。また、病期の区切りが統一されていない、難治性の肺がんを除いて示す施設があるなど、対象範囲も異なる。

 対象を、外科手術を行った症例だけに限定し、しかも、手術日を起点とした「術後生存率」で示す施設が多い。しかし、本来は起点日を診断日とし、化学療法や放射線療法から治療を開始した患者も含めなければならない。

 統計学的有意性もほとんど考慮されていない。例えば、症例数20例の生存率60%と、症例数200例の60%では、期待される生存率が違うが、60%±5%といった標準誤差も表記しているところはごく少数だ。症例数さえ示していないところもある。さらに言えば、病院の院内がん登録管理担当者が作成した数字を掲示している施設もあれば、一人の外科医が作成したその診療科だけのデータを使用しているところもある。

 期待生存率をどう表示するかも大きな課題だ。患者背景による予後因子を調整した期待生存率を出すことで、初めて施設間を比較できる数値になる。そうでなければ、各施設が見かけの数字を良くするため、糖尿病の持病がある人や高齢で体力が弱っている患者を受け入れないといった「患者選択」が働く恐れがある。

 生存率開示が進むことは好ましいが、表示法の全国統一ルールがないことは大きな問題を含んでいる。データをまじめに集めている施設ほど成績が低く見え、ずさんな方が高く見えることもある。典型的なのが症例追跡率。症例の95%以上を把握しなければ、その生存率は信頼するに足りず、とされる。だが、ホームページで成績を開示している施設で、追跡率について言及しているところは、ほぼ皆無だ。現状では病院によって都合の良い数字も作成可能なのだ。

 このままでは、「高く見える方法で開示したところが勝つ」といった不健全な状況を招きかねない。



 <図1>は、当面の好ましい統一開示スタイルをイメージしたものだ。こうした形ですべてのがん拠点病院が成績を開示してこそ、意味がある。

 各施設がばらばらの定義の成績を開示する現状から、院内がん登録に基づいたデータを、全国のがん施設が明らかにするように、できるだけ早く移行するのが望ましい。

 その際、障壁となるのが、病院としての組織的対応があまりなされていないことだ。がん拠点病院に指定されていながら、いまだに院内がん登録の整備に着手せず、データ整備を重要視していない施設も多い。だが、今後は信頼できる生存率を開示できない病院管理者は、経営責任を問われるようになっていくだろう。

 「時期尚早」論は根強いが、生存率を開示するという方向そのものに疑問を投げかける向きは少ない。「生存率の定義が不明確で誤解を招く」という“副作用”を懸念している声がほとんどだ。

 生存率開示の統一ルールも議論するはずの全国地域がん診療拠点病院連絡協議会は、いまだに「設立がいつごろになるかも決まっていない」(前出の厚労省の奥田氏)状況だ。<連載18><連載19><連載20>でみた大阪府のように、生存率開示の音頭を取る地方行政も出てきた。開示ルールは全国統一する必要がある。厚労省が、「いつまでにどのような生存率開示をすべきか」、リーダーシップを発揮すべきときだ。
(埴岡健一、日経メディカル

*随時、掲載します。

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