2004.03.29

コントロバーシー:利尿薬は第一選択薬となりうるか

 3月28日のコントロバーシーセッション「日本人の高血圧患者に利尿薬は第一選択薬として適切か」では、独協医科大学循環器内科学教授の松岡博昭氏が「他の降圧薬を用いる積極的な理由がない場合、まず、低用量利尿薬から開始してはどうか」との立場、札幌医科大学第二内科教授の島本和明氏が「あえて利尿薬を他の第一選択薬よりも優先すべき理由はない」という立場に立ち、熱のこもったディベートを繰り広げた。

 ディベートの論点は主に、利尿薬の「臓器保護作用」と「安全性・忍容性」だった。

有効性
 まず臓器保護作用について松岡氏は、大規模試験のメタ解析の結果、1.利尿薬を上回る臓器保護作用が認められた降圧薬はない、2.心不全抑制作用はCa拮抗薬、ACE阻害薬に優る、3.脳卒中抑制作用はACE阻害薬を上回っている−−点を指摘。さらに、食塩は血圧とは独立して脳卒中を増加させるとのデータもあるため(JAMA. 1999; 282: 2027 PubMed:)、脳卒中の多いわが国では利尿薬の有用性が大きい可能性があるとする。

 この点に関し島本氏は、1.第一評価項目で利尿薬が他の降圧薬のイベント抑制作用を上回った大規模試験はない、2. ACE阻害薬、Ca拮抗薬の冠動脈イベント抑制作用が利尿薬を上回らないとしたALLHATの結果は、額面通りには受け取れない、3.ANBP-2試験では利尿薬よりもACE阻害薬の「心血管系イベントないし死亡」減少作用が強い傾向(男性だけなら有意)−−として、松岡氏に反論。

 松岡氏はこれに対し、降圧薬によるイベント減少作用は個々の試験の結果ではなく、大規模試験のメタ解析で判断する方が適切だと述べた。

 また、島本氏が疑問を投げかけたALLAHTにおける「心不全診断の正確性」と「試験前服用薬の影響」−−試験前利尿薬服用例がCa拮抗薬やACE阻害薬、α遮断薬群に割り付けられた結果、心不全となった−−について松岡氏は、α遮断薬群の解析においていずれも否定されている点を指摘した。なお、ALLHATの心不全鑑別にはSHEP試験と同一の基準か用いられており、さらに、「心不全による入院」とされたほぼ全例のデータ見直しが行われ、SHEP基準、Framingham基準のいずれで再検討しても、利尿薬群の心不全発症減少は有意だったと2003年のAHA(米国心臓協会)で報告されている。

安全性・忍容性
 安全性に関しては島本氏が、利尿薬による「低カリウム血症」、「高尿酸血症」や糖・脂質代謝悪化が、米国のALLHATやわが国で行われたNICS-EHでも証明されており、特に利尿薬服用がもたら右糖代謝悪化による、長期間にわたる心血管系イベントの増加が危惧されるとした。またNICS-EHでは、有害事象等の副次イベントによる治療中止は利尿薬群で有意に多く(Hypertens Res. 2001; 24:475 PubMed:)、忍容性に問題があるとした。

 利尿薬の忍容性の低さをもたらす一因として松岡氏は、わが国における利尿薬の用量が高過ぎる点を挙げ、利尿薬は低用量で用いるべきであると強調した。また、糖代謝悪化によるイベント増加に対しては、利尿薬の心血管系イベント減少作用は、糖尿病合併例において非合併例よりも強力だったというSHEPのサブ解析を示した(JAMA. 1996; 276: 1886 PubMed:)。

 しかし島本氏は、軽微であっても代謝を悪化させる薬剤は心血管系リスクを著明に増加させるとの考えから、利尿薬を用いなくてすむなら用いないとの考えだった。特に同氏には、高血圧合併症の疾患構造が変化しており、近年では「メタボリックシンドローム」にともなうアテローム性動脈硬化病変が増加しているとの認識があり、糖・脂質代謝に悪影響を及ぼす降圧薬にはプライオリティをつけがたい様子だった。

 松岡氏は、必ずしも利尿薬を服用した全例で、上記のような副作用が見られるわけではない点を指摘。そうである以上、利尿薬はイベント抑制に有効との立場から、「まず治療開始薬として用いてみて、副作用が現れた時点で他剤に変更」で良いのではないかと述べた。

 これに対する島本氏の見解は、「そのような副作用のおそれのない薬剤があるのだから、利尿薬から開始する必然はない」というものだった。利尿薬の心血管系イベント抑制作用が他の降圧薬に優るものではないと考える立場からは、当然かと思われる。

 座長を務めた自治医科大学循環器内科学教授の島田和幸氏が、最後にフロアに問い掛けたところ、「利尿薬を治療開始薬として用いるべし」とするドクターと、「利尿薬は治療開始薬に適さない」とするドクターの割合は同氏のカウントでは「3対7」程度だった(会場のアナライザーは故障していた)。
(宇津貴史、医学レポーター)

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