2004.03.23

一つの仮説だけを信奉することは危険

 「○○革命」というタイトルを見ると、胡散臭く思ってしまうのは私の悪い癖だ。「免疫革命」という本(1)を手にしたときも少々疑いの目で見てしまった。そこで、私はこの本を読む際、先入観を排除するためその内容を色分けすることにした。著者の仮説は青、基礎研究は緑、症例報告程度の情報はオレンジ、臨床研究で証明されている部分(エビデンス)は赤という具合だ。そうすれば、どこまでがエビデンスでどこからが著者の意見であるかがはっきりする。しかし、その試みは程なく挫折した。途中まで読み進めたところで、その本の大部分が青1色に染まってきてしまったからである。

 著者の理論を強引に要約すれば以下のごとくになる。血液中の白血球は顆粒球とリンパ球に大別される。このバランスは自律神経に支配されており、自律神経はその人の精神状態により変化する。ストレスが加わると、交感神経優位となり顆粒球が増加し組織を障害する一方、リンパ球が減少し免疫力が低下する。その結果がんが発生しやすくなるという。だから、ストレスをためない生活習慣ががんを防ぐのだと著者は主張する。これは著者の行ってきた基礎研究から導き出された仮説である。臨床的に証明されているわけではない。その書籍の中には患者の体験談が掲載されているが、なぜそれを症例報告として掲載しなかったのか、私には不思議でならない。単なる患者自身の体験談と医師の客観的評価に基づく症例報告とではその信頼度がまるで違う。

 「がんにならないためにはストレスを減らして免疫力を高めるべきだ」という意見はもっともらしく聞こえるし、私たちの実生活からも受け入れられやすい。しかし、これではすでにがんになった人たちは救われない。がんになっただけでショックなのに、がんになったのは自業自得だというのではあまりに酷である。がんの患者さんに対して、がんの原因がその人にあると責めるべきではない(2)。その一方で、このような権威のある人の仮説は、著者のあずかり知らないところで独り歩きし、代替医療の宣伝に利用されかねない。

 免疫とがんとの関係について、がん免疫にかかわるとされるNK細胞活性を低値、中等度、高値に分け、がんの発生率を11年にわたって調べた日本のデータがある(3)。NK細胞活性が低い人では確かにがんの発生率が高かったが、その活性が中等度と高値の人たちの間では差がなかった。つまりNK細胞活性が高いほどいいというわけではなさそうだ。ましてやNK細胞活性の低い人たちがストレスに満ちた生活をしていたのかどうかはわからない。

 がんと免疫の関係に関するエビデンスは少ない。だからこそ仮説が幅を利かせる。いろいろな仮説があってよいだが、それらはあくまでも仮説であり、一つの仮説だけを信奉することは危険でさえある。一面的な考えを排し、多様な意見に接することも必要だ。最近出版された「免疫信仰は危ない」という本(4)はがんの免疫療法や健康食品に関して多様な意見を紹介した貴重な本である。がんの治療を考えている方に一読をお勧めしたい。ちなみに、この本の中で私の代替医療についての意見も紹介されている。

■ 参考文献 ■
1) 安保徹著「免疫革命」講談社インターナショナル、2003年
2) ジミー・C・ホランド、シェルダン・ルイス共著、内富庸介、寺尾まち子共訳「自分らしくがんと向き合う」ネコ・パブリッシング、2003年
3) Lancet 356:1795-1799, 2000
4) 代替医療問題取材チーム著「免疫信仰は危ない!」南々社、2004年

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