2004.02.27

不二製油、「大豆ペプチド」の生産を10倍に増強 エビデンスが続々、2004年のヒット商品の予感

 大豆のたんぱく質を酵素で分解して製造される「大豆ペプチド」が今年、大ブレークしそうだ。

 大豆ペプチドは、健康志向の食品素材として人気のアミノ酸と、健康効果の高い大豆たんぱく質の、両方の特徴を併せ持つ素材だ。

 今春、大豆ペプチドを配合した大型商品をカルピスが2品、商品化する予定(商品化計画は3月半ばに発表予定)で、今後、さらに追随する企業が出てきそうだ。

アミノ酸機能性食品の国内市場は1600億円規模

 アミノ酸は、エビデンスはやや弱いものの、ダイエットに効果があるという宣伝が功を奏し、機能性飲料を中心に市場が急拡大している。

 アミノ酸を含む機能性食品の市場は2003年に1600億円と、2002年に比べて1.7倍の規模に拡大した(味の素の推定)。

 ペプチドは、アミノ酸が複数個結合(ペプチド結合)した物質。

 従来は、食べ物に含まれるたんぱく質は、プロテアーゼなど消化酵素の働きでアミノ酸に分解されてから、体内に吸収されると考えられてきた。

 ところが、実際にはアミノ酸に分解される手前の分子形態であるペプチドの状態で吸収される割合が、少なからずあることが分かってきた。

 ペプチドの形態で体内に吸収することは、単独のアミノ酸の形態で吸収する場合と比べて、人体での利用効率が高まることが知られている。

 1)1回当たりの吸収量がペプチドの方が多くなる。

 ペプチドはアミノ酸が複数個結合した物質なので、ペプチド1分子が体内に取り込まれれば、アミノ酸分子が数個分体内に取り込まれたことに相当するからだ。

 2)アミノ酸に比べ、吸収競合がおこりにくい。

 人体内でたんぱく質を構成する主なアミノ酸の種類は20あるが、アミノ酸の形態で体内に吸収するときに、通り道(吸収経路)が同じアミノ酸がある。

 このため、別々のアミノ酸が一つの通り道を奪いあう(吸収で競合する)中で、相対的に量が少ないアミノ酸は、椅子とりゲームで負けて、吸収されにくくなってしまう。

 一方、ペプチドの場合、アミノ酸のような吸収競合はなく、吸収されにくくなることがない。ペプチドは、腸管で体内に吸収されるとき、多くはペプチド・トランスポーターという機能分子の働きで効率良く体内に取り込まれる。

豆乳の国内生産量、20年ぶりに新記録を達成

 大豆ペプチドが健康効用の訴求をある程度共有できるもう一つの対象は、大豆たんぱく質。

 大豆たんぱく質は、豆腐や納豆などの大豆食品を食べてきた日本人にとって身近な存在だが、1日25gの大豆たんぱく質が心臓病のリスクを低減するというヘルスクレーム(食品の健康効用表示)が米国で1999年に認められ、米国では大豆たんぱく質の人気に火がついた。

 米国では、豆乳は5年で5倍、豆腐は5年で1.5倍に市場規模が拡大した。

 この米国発のヘルスクレームは、日本の大豆たんぱく質商品の市場にも追い風になっている。

 中でも市場が急拡大しているのは豆乳。生産量が7年連続で2桁増で、特に2003年には12万7939tと、前年に比べ62.8%増えた。

 第1期の豆乳ブームとされる83年の生産量11万6000tを抜き去って、20年ぶりに新記録を達成した。

 この大豆たんぱく質と比べ、大豆ペプチドは加工に手間がかかるために素材としてはかなり割高にはなるが、健康効能の面では大豆たんぱく質に比べ、吸収に優れるという特徴がある。

 大豆たんぱく質も、食べれば消化酵素の働きで、大豆ペプチドやさらにはアミノ酸にまで分解されて体内に吸収されるが、あらかじめ酵素分解してある大豆ペプチドの方が、速やかに体内に吸収されるのだ。

 ペプチドで吸収される分と、さらに分解が進んだアミノ酸で吸収される分との比率は条件によって異なるが、いずれにしても、大豆たんぱく質を摂取した場合に比べ、消化酵素で分解するという手間を省けることは確かだ。

大豆ペプチドに脳機能向上、ストレス緩和の新発見!

 アミノ酸と大豆たんぱく質の“いいとこどり”できる大豆ペプチドには、脳の機能を向上し、疲労を軽減するという新たな健康効用が見つかってきた。

 2004年2月17日に東京・六本木ヒルズで開かれた「大豆ペプチド健康フォーラム 第2回マスコミセミナー」で、100人を超える報道関係者を前にして、この成果は発表された。

 東北福祉大学感性福祉研究所の畠山英子教授らは、暗算や短期記憶、文字消去という3種類の課題をこなすときにおこる前頭部の酸素化ヘモグロビン濃度の上昇を、大豆ペプチドが抑制することをプラセボ対照試験で見い出した。

 被験者は20〜24歳の健康な成人男子10人。日中にこれらの課題を行う20分前に大豆ペプチドをわずか4g摂取するだけで、この効果は認められた。課題成績にマイナスの影響もなかった。

 酸素化ヘモグロビンは、脳に負荷がかかると上昇することが知られている。脳が酸素を必要とするためだ。この脳酸素化ヘモグロビンの脳内動態の測定には、近赤外線分光分析法(NIRS)を活用した。

 一方、音楽聴取時におこる酸素化ヘモグロビンの低下も、大豆ペプチドは抑制した。

 音楽聴取に対して大豆ペプチドはほどよい鎮静感をもたらすと解釈できる。また生体が受けているストレスの指標となる唾液中のコルチゾール濃度は、大豆ペプチド摂取で減少した。

 大豆ペプチドはストレス低減を通じて脳の機能を高めると推定できる。

 この研究は、農林水産省の委託研究「日本型食品素材成分の脳機能調節効果の解析」の一環で東北大学と共同で実施された。

 秋田大学医学部公衆衛生学講座の本橋豊教授らは、大豆ペプチドは朝摂取すると目覚めの効果、夕刻摂取すると疲労軽減の効果を示すことを、プラセボを比較対照とした無作為二重盲検法(ダブルブラインド)の試験で見い出した。

 脳波トポグラフィで脳のα波を解析し、くつろぎやゆったりなど覚醒度の低いリラックス状態の指標となるα1波と、頭がスッキリした思考明瞭な覚醒度の高いリラックス状態の指標となるα2波の変化を調べるとともに、被験者が主観申告するビジュアル・アナログ・スケールで疲労感やリラックス度、眠気などを定量化した。

 朝試験の被験者は健康な成人男性7人(平均年齢26.1歳)。大豆ペプチド20g摂取すると、α2波が優位に増加するとともに、主観的には眠気の減少やリラックス感の増加が認められた。

 夕刻試験の被験者は健康な成人男性9人(平均年齢32.3歳)。プラセボ摂取ではα1波、大豆ペプチド摂取ではα2波が有意に増加した。主観申告では、大豆ペプチド摂取で疲労感の減少とリラックス感の有意な上昇が観察された。

不二製油は大豆ペプチドの生産能力を10倍に増強

 これらのヒト試験は、不二製油が商業生産している大豆ペプチド素材を用いて実施された。

 不二製油は、2003年10月に設立された大豆ペプチド健康フォーラム(会長:熊本県立大学の菅野道廣学長)に協力している財団法人不二たん白質研究振興財団の母体となっている企業。

 実は、大豆ペプチドを大規模生産している世界で唯一のメーカーでもある。

 各種プロテアーゼ(たんぱく質分解酵素)やフィターゼ(ミネラルをキレートしてしまうフィチン酸のリン酸基を切り離す酵素)を組み合わせ、高度な酵素技術を駆使して生産されており、少なくとも現在のところ他社の追随を許していない。

 16億円を投じて大豆ペプチドの生産能力を約10倍に高める新工場の建設に2003年秋に着工し、日産能力6tの新工場が2004年4月に稼動する予定だ。

エビデンス・データのただ乗りはダメ

 今回発表された大豆ペプチドの健康効用のエビデンス・データは、大豆ペプチド素材の事業化を検討している他社に“データのただ乗り”を許さないという意味でも、不二製油の強みになるだろう。

 というのも、大豆ペプチドと一口にいっても、大豆たんぱく質を分解する手法や工程の設計によって、生産される大豆ペプチドの特性が異なってくるからだ。

 大豆ペプチドは、大豆たんぱく質を分解したさまざまなペプチドの混合物。

 分解する大豆たんぱく質の部位や分解の程度が異なれば、できてくる大豆ペプチドの健康効用に違いが出てくる。

 別の製造法で作られた大豆ペプチドが、今回発表された健康効用を発揮するという保証は得にくいはずだ。

 たとえ大豆ペプチド素材に含まれるアミノ酸の比率を同じに揃えたとしても、健康効用は同じにはならない。

 ペプチドは結合するアミノ酸の種類と並び方によって、独特の機能性をもつことが知られているからだ。

 代表的な例として、血圧上昇に寄与するアンジオテンシン酵素(ACE)の働きを阻害するACE阻害ペプチドがある。

 厚生労働省が食品の健康機能表示を認める特定保健用食品(トクホ)のカテゴリーでも、ACE阻害ペプチドを有効成分として含む商品は、カルピスの飲料「アミールS」をはじめ、40ほどの商品がある(関連トピックス参照)。

 これら「血圧が高めの方に適する」トクホに含まれるACE阻害ペプチドの原料は牛乳やカツオ、イワシ、キノコなどさまざま。トクホ成分のトクホとして認められていないが、大豆ペプチドの中にも、ACE阻害活性が強いものはある。

 ACE阻害ペプチドのような健康機能ペプチドの原料としては、さまざまなたんぱく質食品が利用可能だが、その中でも資源量やコストの点で、大豆は最も優位にあるとみてよさそうだ。

 動物たんぱく質が原料の場合、一般にコストが高くつくだけでなく、最近のウシ問題(BSE;牛海綿状脳症)、トリ問題(鳥インフルエンザ)のように疾病の蔓延が大きなリスク要因になるし、魚は資源量の確保や海洋汚染が気になる。

 空中の窒素を固定化する微生物と共存している大豆は、“畑の肉”と呼ばれるほどたんぱく質が豊富。大豆は、遺伝子組み換え技術を用いて開発された品種(GMO)の栽培量が世界的に増え、現在のところ消費者から敬遠されてはいるが、少なくとも当面は非GMOの大豆を十分に調達できる。

 不二製油も、IPハンドリングという手法によって、大豆ペプチドの原料はすべて非GMOの大豆を用いている。

 不二製油の大豆ペプチド事業の成長は約束されているといってよさそうだ。(河田孝雄)

■ 関連トピックス ■
◆ 2004.1.30 専門記者の目】
高血圧対策トクホが、ドラッグストアに相次ぎ登場
さらに3社が、トクホを申請中


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