2004.02.20

「市立札幌病院事件」の控訴審始まる 非医師による医行為の総括迫られる厚労省

 「医師でなければ、医業をなしてはならない」−−。1948年の制定から約55年間、医師とそうでないものを厳しく区別してきた医師法第17条の解釈の是非を、司法の場で正面から問う時が来たようだ。

 2月19日、「市立札幌病院事件」の控訴審が、札幌高等裁判所で始まった。この事件は、市立札幌病院の救命救急センターが、1998年から歯科医師(口腔外科医)を研修生として受け入れ、医科の患者に対して指導医の監督下、実際に救命救急行為を行わせていた、というもの。一審で札幌地方裁判所は、救命救急センター部長(当時)の松原泉医師に、罰金6万円の有罪判決を言い渡した。

 研修生が行っていた医療行為は、気管内挿管・抜管、カテーテルの抜去、触診、手術の補助など。口腔癌の手術などを行う口腔外科医であれば、日常的にこなしている行為である。しかし、一審の判決では、「歯科医師が必要な救命救急能力を身につけるためには、研修が必要である」「研修生は、十分な知識と能力を有していた」「患者の安全性は十分に担保されていた」と認めながらも、「医師免許を持たない者が医療行為を行えば、違法である」と認定した。つまり、「たとえ研修であっても、反復継続して医療行為を行えば医業に該当する」とするなど、医師法17条を狭義に解釈したわけだ。

 判決に対して、被告側は即日控訴。医療関係者からも、「判決が確定すれば参加型研修は不可能になり、将来、十分な救命救急能力を持った歯科医師がいなくなってしまう」(日本口腔外科学会の瀬戸理事長)との批判も出た。

 控訴審で最も注目されるのは、厚生労働省がどのような証言をするかである。一審では中島正治医事課長(当時)が証人として出廷し、「当該行為は医師法に違反している」「こうした研修は、見学にとどめるべきだ」と明確に証言。有罪判決へ重要な役割を果たした。しかし、厚労省が、一審と同様の見解を押し通すのは、不可能な情勢だ。

 中島証言から1年2カ月後の2003年9月、厚労省は「歯科医師の救命救急研修ガイドライン」を医事課長と歯科保険課長の名前で通知した。そもそもこのガイドラインは、市立札幌病院事件がきっかけとなって、厚労省が検討を始めたもの。一定の要件を満たせば、医師免許を持たないものが医療行為を行うことを認めている。実質的に参加型研修を追認したものであり、一審の証言と明らかに矛盾している。ちなみに、札幌病院での研修内容は、ほぼこのガイドラインに従ったものだった。

 被告弁護団は控訴審では、ガイドライン策定の担当者だった歯科保険課の課長補佐を証人として要請する。高裁はこれを認める方針だ。

 救命救急研修ガイドラインだけではない。厚労省は2002年7月に、救命救急ガイドラインと同様に参加型を認めた「歯科医師の医科麻酔科研修ガイドライン」も公表している。さらに、医師法違反かどうかで議論が巻き起こった、看護師による静脈注射、救命救急士による気管内挿管なども、結局は合法と判断している。「看護師や救命救急士による医行為が合法で、歯科医師のしかも研修の場での医行為がなぜ違法なのか」(弁護団長の村松弘康弁護士)。

 控訴審で厚労省は、救命救急研修が合法か違法かの見解だけでなく、医師法第17条に関連して同省がこれまでに示してきた判断について、合理的な説明を問われる可能性もある。一審判決は、医師以外による医行為が拡大しつつある現状に触れることなく、医師法違反と断じた。村松弁護士は、「厚労省の見解が変われば、裁判所も17条の解釈について、踏み込んだ考えを示さざるを得ないのではないか」と期待する。

 公判後の記者会見の最後、松原医師はこう訴えた。「現代医療の進化にとって、医師からそれ以外の人への技術移転が不可欠である。もし一審判決のままで確定してしまえば、日本の医療レベルは決定的に立ち後れることになる」。
(河野修己、医療情報開発)

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