2004.02.09

【記者の目】 激変期にある腰痛・肩こり診療、医師は何をすべきか

 日経メディカル3月号特集では、現在、一つの転換点を迎えている腰痛と肩こり治療について、最新の知見を踏まえて取り上げる予定だ。腰痛や肩こりは、ごくありふれた症状。しかし、現時点でもなお、その痛みの全容を解明できていない。代替医療も急速に広がりつつあり、医師にとっての腰痛・肩こり診療はターニングポイントを迎えている。

 2003年8月の日経メディカルで「代替医療との仁義なき闘い」と題するレポートを執筆した。これは、整形外科医と、接骨院を営む柔道整復師との間の、運動器疾患の治療・施療をめぐる、いわば“攻防戦”を描いた記事だった。両者の摩擦の背景には、高齢化に伴い筋骨格系疾患が増加する中、腰痛や肩こりといった症状を訴える患者の多くが、医療機関ではなく代替医療に通う実態がある。特に接骨院では、施術料の支払いが、受療委任払いという仕組みになっており、患者は医療機関での保険診療と同様に、施術料を一部負担するだけで、診療を受けられるようになっている。柔道整復師の養成施設が、ここ数年激増しており、このままでは整形外科医が診るべき患者の多くが、接骨院の門をたたきかねないという危ぐが医師側にはある。

 柔道整復師をはじめとする代替医療の担い手は、診断権を持たない。例えば、町中のマッサージ店では、当たり前のように、多くの人々が“癒し”を求めて、施療を受けているが、来店者に癌や骨折、動脈瘤、心筋梗塞などの重篤な疾患が隠れていたとしても、マッサージの施術者には発見する義務も責任もない。これと同じことが、柔道整復師などにも当てはまる。このため、整形外科医の多くは、「腰痛や肩こりの患者が長期にわたって代替医療に抱え込まれてしまい、早期の診断と治療が妨げられてしまう」と問題視している。

 このような一連の整形外科医側の主張は正しいのだが、「羮に懲りてなますを吹く」といった側面もある。ほとんどの患者は、簡単な画像診断により、重大な疾患さえなければ、さっさと患者を帰してしまう医療機関よりも、「手当て」を中心とした施療を行う代替医療を好んでいるのだ。それにデメリットだけを見ようとすることには、やや無理がないだろうか。それよりも、医師にとっては、自らの医療の在り方自体を見直す方が先なのではないだろうか。

 このような現状について、ある整形外科医は、「腰痛も、肩こりも、何が原因で痛いのかという根本的な病態を医学的に解明できていない」と指摘する。整形外科医は、ヘルニアや脊柱管狭窄症、脊椎すべり症などと、画像診断に基づいて診断を下し、治療する。だが、この整形外科医は、「医師は、多くの痛みの原因の一部を取り除いているだけであって、痛みの原因をすべて除去しているわけではない」と話す。結局、何らかの病変があり、それを取り除くなど手を尽くしても、痛みが引かなければ、医療者はなすすべを持たない。

 腰痛や肩こりの原因に挙げられる、神経、関節、骨、筋肉、じん帯、軟骨などの要素がどのように関連しているのかを突き止めることができていない。その一方で、これまで問題とされてきた原因が、痛みと無関係であることすら明らかになってきている。例えば、腰痛などの筋肉、骨格の痛みを全く訴えない人にも、巨大なヘルニアが存在する症例はいくらでもあることがMRIによる研究から判明している。従来の医療だけでは立ちゆかなくなっているのだ。

 このように考えると、医師にとっては、他の業者と差別化するためにも、腰痛や肩こりに対する診断のレベルを上げることが最大の課題といえるだろう。さらに、治療においても、これまでの手術偏重の医療から離れて、新たなアプローチを探る必要が出てくることが確実だ。ここ数年、腰痛や肩こりをめぐる医療は激変してきそうな様相を呈している。

※この記事に対するご意見のほか、腰痛や肩こりの診療上で困っている点、あるいは何らかの工夫をされている点があれば、メールをお送りください。
( medical@nikkeibp.co.jp )
(星良孝、日経メディカル

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