2004.01.19

利尿薬で糖尿病は増加するのか、批判的レビューが登場

 2002年12月に発表された「ALLHAT」(Antihypertensive and Lipid-Lowering Treatment to Prevent Heart Attack Trial)研究の、「利尿薬が第一選択薬とされるべきである」という結論(関連トピックス参照)に対する批判の一つは、「利尿薬は糖尿病を増加させていたので、長期的に見れば心血管系イベントが増加するはず」というものだ(関連トピックス参照)。これに対し、カナダAlberta大学のPaj Padwal氏らは、エビデンスに基づく医療(EBM)の立場から「利尿薬による糖尿病増加」に疑義を呈する体系的レビューをDiabetes Care誌1月号で公表した。

 同氏らは、血糖値の変化やインスリン抵抗性といった代替評価項目ではなく、「糖尿病発症」という臨床評価項目が重要であると考察。コクラン対照試験記録や、代表的な医学論文データベースであるメドラインなどから、18歳以上を対象に降圧薬と糖尿病発症について検討している研究を検索した。

 症例報告や抄録のみの研究を除外した結果、症例・対照研究1件、コホート研究8件、無作為化対照試験14件が抽出された。ただし、それぞれ試験デザインが異なるためメタ分析には適さないこともわかり、体系的レビューが行われた。

 その結果、レビューの対象となった症例・対照研究とコホート研究では、糖尿病発症を第一評価項目としたものはないことが判明。また、一つの研究を除き交絡の可能性のある危険因子による補正が行われていなかった。

 唯一の例外である「ARIC」(Atherosclerosis Risk in Communities)研究(関連トピックス参照)では、β遮断薬服用高血圧例では未治療高血圧例に比べ糖尿病発症リスクが有意に増加している一方、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬、カルシウム(Ca)拮抗薬、利尿薬は糖尿病発症リスクに影響を与えなかった。この点に関しPadwal氏らは、ARIC研究の検出力では、ACE阻害薬、Ca拮抗薬、利尿薬が糖尿病発症リスクに与える影響の差が検出できなかった可能性を指摘している。

 また、プラセボを対照とした無作為化試験には、次のようなものがあることがわかった。

1)利尿薬を「基礎薬」とした治療による糖尿病発症増加を認めない臨床試験
◆ SHEP(Systolic Hypertension in the Elderly Program)研究
◆ EWPHE(European Working Party on High blood pressure in the Elderly trial)研究

2)レニン・アンジオテンシン(RA)系抑制薬による発症減少が見られた研究
◆ HOPE(Heart Outcomes Prevention Evaluation study)研究
◆ CHARM(Candesartan in Heart failure -- Assessment of Reduction in Mortality and morbidity、関連トピックス参照)研究

 このほか、実薬にRA系抑制薬のカンデサルタンを用いた「SCOPE」(Study On COgnition and Prognosis in Elderly hypertension)では、RA系抑制薬群とプラセボ群の糖尿病発症に有意差はなかったが、プラセボ群の84%が実薬、およそ3分の2は利尿薬ないしβ遮断薬を服用していた。これらの成績は、「利尿薬による糖尿病増加」に否定的に映る。

 実薬間で比較を行った無作為化試験に関しては、以下の問題点をPadwal氏らは指摘する。まず、ほとんどの試験において比較されている薬剤に加え併用薬が用いられているが、併用薬の内訳・割合が異なる場合、併用薬の種類・用量によるバイアスが生じる可能性がある。併用薬の種類・用量が記されていない試験ではなおさらだ。Ca拮抗薬の糖尿病発症予防作用がヒドロクロロサイアザイド配合利尿薬よりも強力だとした「INSIGHT」(International Nifedipine GITS Study Intervention as a Goal in Hypertension Treatment)研究などがこれに相当する。

 次に「CAPPP」(Captopril Prevention Project)研究、「NORDIL」(Nordic Diltiazem study)研究、「STOP-Hypertension 2」研究(Swedish Trial in Old Patients with Hypertension-2)のようなオープンラベル試験は、糖尿病探索の程度によるバイアスを生じ得る。「ALLHAT」研究の問題点は、試験開始時に糖尿病を認めなかった例のうち4年後に血糖値測定を行ったのが38%に留まることで、信頼性が低い。さらに、糖尿病発症が第一評価項目として検討された試験は、現時点では報告されていない。

 これらなどよりPadwal氏らは、降圧薬の種類と糖尿病発症リスクに関し「今あるエビデンスの質は不十分であり、現時点では結論を出すことはできない」と結論、今後のエビデンスを待たなければならないとしている。

 この論文のタイトルは、「Antihypertensive Therapy and Incidence of Type 2 Diabetes」。アブストラクトは、こちらまで。(宇津貴史、医学レポーター)

■ 関連トピックス ■
◆ 2002.12.18 「利尿薬はACE阻害薬、Ca拮抗薬に勝る」−−NHLBIが「ALLHAT」研究結果を発表
◆ 2003.10.31 日本高血圧学会速報】降圧薬の第一選択、「使いやすさ」が鍵に−−DEBATEセッションより
◆ 2003.5.7 心拍数やHRVが2型糖尿病の発症予測因子に−−「ARIC」研究より
◆ 2003.9.5 ESCで発表の3臨床試験「CHARM」「EUROPA」「ESTEEM」、原著論文がLancet誌HP上で早期公開

Information PR

ログインしていません

Close UpコンテンツPR

ログインしていません

もっと見る

人気記事ランキング

  1. わいせつ容疑の外科医、初公判で無罪を主張 「乳腺科医のプライドにかけて無罪を主張します」 FBシェア数:585
  2. トイレにこそ、人間の尊厳がある Dr.西&Dr.宮森の「高齢者診療はエビデンスだけじゃいかんのです」 FBシェア数:480
  3. 原発性アルドステロン症の重症例を見逃すな トレンド◎診断のボトルネックを解消する新たな基準が決定 FBシェア数:200
  4. 下血? 血便? 赤いの? 赤くないの? 薬師寺泰匡の「だから救急はおもしろいんよ」 FBシェア数:185
  5. 繰り返す乾燥肌やマラセチアの陰に保温肌着 リポート◎保温肌着の愛用者かどうかを聞き取り適切な生活指導を FBシェア数:459
  6. 佐久の医師たちがハッとした海外研修生の一言 色平哲郎の「医のふるさと」 FBシェア数:97
  7. 「どうしてこんな急に!」急変時の家族対応は 平方眞の「看取りの技術」 FBシェア数:34
  8. 輸液の入門書 医学書ソムリエ FBシェア数:0
  9. 医療者は認知症家族との暮らしが分からない 患者と医師の認識ギャップ考 FBシェア数:211
  10. 難治性皮膚潰瘍を再生医療で治す リポート◎大リーガー田中将大投手のケガも治したPRP療法とは? FBシェア数:22