2004.01.15

ピロリ除菌による胃癌一次予防、初の無作為化試験結果が発表

 ヘリコバクター・ピロリ(H.ピロリ菌)を除菌すると、本当に胃癌が予防できるのか−−。この積年の疑問に答える、初のプラセボ対照無作為化試験結果が、Journal of American Medical Association(JAMA)誌1月14日号で発表された。胃癌や胃潰瘍がないH.ピロリ菌感染者1630人を、除菌群と非除菌群に無作為に分け、7.5年間追跡した中国の研究だ。

 結果は、残念ながらネガティブ。追跡期間中に除菌群(817人)からは7人、プラセボ群(813人)からは11人が胃癌を発症し、除菌群で低い傾向はあったが有意な差ではなかった(p=0.33)。ただし、萎縮性胃炎などの“前癌病変”がない人に絞ったサブ解析では、除菌群で胃癌発症率が有意に低かった(0人対6人、p=0.02)。

 とはいえ、胃癌発生者数が両群併せても18人と少なく、「必要症例数の設定が楽観的すぎた可能性がある」とは研究グループも認めるところ。統計学的な過誤(βエラー、症例数が少なすぎるため実際には差があるのに誤って差がないとしてしまう)の可能性も含め、今後も議論を呼びそうだ。

 この研究を行ったのは、中国・香港大学Queen Mary病院のBenjamin Chun-Yu Wong氏ら。中国のなかでも胃癌死亡率が高い、福建省長楽市の住民を対象にスクリーニング検査を行い、研究対象者を選定した。ちなみに、福建省の男性の胃癌年齢調整死亡率は、人口10万人当たり153人(1988年)と日本の数倍に達する(日本人男性:10万人当たり35.3人、女性:13.8人。厚生労働省2002年度「人口動態統計」による)。

 研究グループは、長楽市に住む35〜65歳の健康な男女2423人に、血液検査と上部消化管内視鏡検査を実施。胃癌や胃潰瘍がなく、H.ピロリ菌が陽性であることが確認された1630人を無作為に2群に分け、二重盲検形式で除菌による胃癌予防効果を調べた。平均年齢は42歳で、男性が半数強。除菌群は、ビスマス製剤とメトロニダゾール、クラリスロマイシン、オメプラゾールの4剤を1週間服用。この4剤併用療法での除菌率は76.4%で、除菌不成功例のうち同意が得られた85人には二次除菌を行い、うち60人で除菌に成功した。除菌群の最終的な除菌率は83.7%。

 7年半追跡したところ、胃癌発生率は除菌群が0.86%、プラセボ群が1.35%となり、有意な差はないことが判明。前癌病変がなかった6割の人に対する後付け(post hoc)解析では、除菌群でプラセボ群より有意に胃癌発生率が低くなった。最終検査時に、除菌群の82.5%、プラセボ群の8.2%がH.ピロリ菌陰性だったが、H.ピロリ菌への持続感染の有無による胃癌発生率に差はなかった(陽性者の13人、陰性者の5人が発癌、p=0.06)。

 興味深いのは、発癌の時期を時系列でみるカプランマイヤー解析で、プラセボ群と除菌群に明らかな差が認められること。プラセボ群で最初の胃癌患者が見付かったのは、試験開始から12カ月後だが、除菌群では60カ月後まで1例も胃癌発生がみられなかった。除菌に、少なくとも胃癌発生を遅らせる効果があると期待させるデータだが、逆に言えば「予防効果」の判定には少なくとも5年は追跡しないと説得力を持ち得ないことを示唆するデータでもある。

 また、今回発表された研究では、少なくとも医師側は完全に盲検性を保った状態で評価を行っている。わが国でも早期胃癌に対する内視鏡的粘膜切除術 (EMR)を受けた患者を対象に、ピロリ除菌の胃癌二次予防効果をみる無作為化試験が始まっているが(関連トピックス参照)、既に二重盲検法によるデータが発表された以上、少なくとも評価にPROBE法(Prospective Randomized Open Blinded-Endopoint)を採用しないと国際的に認められるものとはならないだろう。

 この論文のタイトルは、「Helicobacter pylori Eradication to Prevent Gastric Cancer in a High-Risk Region of China」。現在、こちらで全文を閲読できる(リンク先の運営次第で変更になることがあります。ご了承下さい)。(内山郁子)

■ 関連トピックス ■
◆ 2003.9.29 日本癌学会速報】EMR後のピロリ除菌、初の無作為化介入試験の中間解析で前向き結果

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