2003.12.18

キノホルムがアルツハイマー病に有効、第2相試験結果が発表

 中等度〜重度のアルツハイマー病患者36人を対象とした豪のプラセボ対照第2相試験で、キノホルム(クリオキノール)に認知機能の低下を食い止める効果があることがわかった。3年前にアルツハイマー病モデルマウスに対する効果が学会発表され、大きな話題となっていたもの。研究グループは「より大規模な臨床試験を行って、この薬に対する再評価を進めるべき」と論じている。研究結果は、Archives of Neurology誌12月号に掲載された。

 キノホルムは、わが国では整腸薬として広く販売、後にスモン(SMON、亜急性脊髄視神経末梢神経障害)の原因であることが分かり、1970年に製造が中止された“いわく付き”の薬剤。アメーバ赤痢の特効薬として、今でも一部の国では市販されている。同薬は強力な銅・亜鉛キレート剤で、菌体内の金属酵素から金属を奪うことで殺菌作用を示すが、副作用としてビタミンB12欠乏症を高頻度で引き起こし、一説にはこれがSMONの発症機序ではないかと考えられている。

 アルツハイマー病では、脳にβアミロイド蛋白(Aβ)が沈着するが、このAβの沈着(不溶化)に一役買っているのが銅イオンと亜鉛イオンだ。試験管内実験で、キレート剤により銅・亜鉛イオンを除去してやると、不溶化したAβが可溶化することが判明。モデルマウスでも脳中のAβ局在が解消することが確認された(Neuron;30,665,2001)。

 様々な金属キレート剤の中でキノホルムが最も銅・亜鉛除去効果が高かったことから、オーストラリアMelbourne大学病理学部門のCraig W. Ritchie氏らは、キノホルムを用いるプラセボ対照試験を計画。既に塩酸ドネペジル(わが国での商品名:アリセプト)治療を6カ月以上受けている、中等度〜重度のアルツハイマー病患者36人を無作為に2群に分け、キノホルムまたはプラセボを36週間服用してもらった。

 キノホルムの1日服用量(分2)は、最初の12週間が250mg、次の12週間が500mg、最後の12週間が750mg。対象患者の平均年齢は72.5歳、半数強が男性で、アルツハイマー病と診断されてから平均2.4年が経過している。試験開始時のADAS-Cogスケール(アルツハイマー病の認知機能評価尺度、高スコアほど認知機能が低い)は平均26.31点だった。評価は重症患者(ADAS-Cogスケールの評点が25点以上)と中等症患者(25点未満)に分けて行った。

 その結果、重症患者では有意に、キノホルムの服用で認知機能の低下が食い止められることが判明。ADAS-Cogスケールの評点には24週目の時点で7.37点、36週目で6.36点の差が付いた(24週目のみ有意差、p=0.016)。一方、中等症患者ではプラセボ群とキノホルム群との間に有意な差はみられなかった。

 血中のAβ濃度は、中等症患者でのみ有意に低下。逆に血中亜鉛濃度は、重症の患者でのみ上昇した。銅濃度には変化が現れなかった。作用機序を考えるとややすっきりしないデータだが、これは少数例での試験ゆえの限界でもある。なお、試験期間中、ビタミンB12や葉酸の欠乏、スモンの発症などは認められなかった。

 以上から研究グループは、キノホルム、あるいは類似化合物による「アルツハイマー病のキレート療法」というコンセプトは有望であると結論。Aβの可溶化をターゲットとした次段階の臨床試験を進めるべきと論じている。

 キノホルムの有害作用がビタミンB12の欠乏によるとの説が正しければ、ビタミン剤を併用することで神経系の副作用を抑えられる可能性がある。「薬害」との関連で語られることの多いもう一つの薬剤、サリドマイドは、多発性骨髄腫に対する効果が認められ再評価が進んでいる(関連トピックス参照)が、次に再評価の光が当たる薬剤はキノホルムなのかもしれない。

 この論文のタイトルは、「Metal-Protein Attenuation With Iodochlorhydroxyquin (Clioquinol) Targeting Aβ Amyloid Deposition and Toxicity in Alzheimer Disease」。アブストラクトは、こちらまで。(内山郁子)

■ 関連トピックス ■
◆ 2003.1.9 未治療の多発性骨髄腫に対するサリドマイド療法の治療成績が論文発表、ステロイドとの併用で好成績

■ 参考トピックス ■
◆ 2003.6.20 日本老年病学会速報】アルツハイマー病ワクチン「AN-1792」、副作用で中止の前期第2相試験結果の詳細が報告

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