2003.12.12

【専門記者の目】 食品のエビデンス発表は「より厳密に」 花粉症対策品の記者発表で気になったこと

 花粉症対策の食品として、2003年12月〜2004年1月に全国発売される有力5商品群の記者発表に出席して気づいたことが二つある。

 一つは、食品がもつ健康効果を消費者に直接、訴えてはいけないとする薬事法などの影響が記者発表の場にも及び、正しい情報が報道関係者に伝わりにくくなっていること。

 二つ目は、食品の健康効果を示す“エビデンス”の伝え方に、厳密さを欠いているものがあるということ。

 今回発表された5商品群の有効成分は、乳酸菌が2種類と、キノコ子実体抽出物、ペパーミント抽出物、トマト果皮抽出物だ。

 いずれもヒトで効果を検証した成分や商品群だが、薬事法に加えて、2003年8月29日に改正健康増進法が施行されてからは、食品の虚偽・誇大広告の禁止が強化されたため、各社は新製品の記者発表に際して、細心の注意を払っている。

 例えば、カルピスは「インターバランス L-92」の発売をプレスリリースとして発表した12月8日と同じ日に、「L-92乳酸菌と抗アレルギー作用に関する研究」と題する研究発表会を都内のホテルで開催したが、1月13日発売の新商品については、具体的な説明を一切しなかった。

 150人ほどの報道関係者からは、商品に関する質問が出たが、「言えないことになっている」とカルピスの武藤高義社長は答えた。

 食品の健康効果に関する発表を取材する機会の多い報道関係者にとって、毎回繰り返される“お決まり”のやりとり。食品の健康機能を発表する場で、同時に商品を紹介すると法規制に抵触しかねないと恐れているからだ。

 このため、奥歯にものがはさまったような対応をせざるをえない。この手の発表会では、なんともわかりにくい、このような状況が繰り返されている。

■有効性の比較は慎重に

 当然のことながら、企業が新たに商品を開発する際には、競合する商品と比較研究は重要なテーマ。しかし、食品の健康機能を発表する場で具体的に競合商品名を明示することはしないとする“紳士協定”がある。

 これは、健康機能を比較する場合、評価軸が一つではなく、しかも特にヒトで効果を調べる試験など、再現性に乏しい評価を基にしているからだ。

 ところが、カルピスは今回の発表会で、自社のL-92乳酸菌を、キリンのKW乳酸菌と比較した。

 「『L-92乳酸菌』」と抗アレルギー作用」と題した発表を行ったカルピス基盤技術研究所の藤原茂マネージャーは、まず「アレルギーに有効な乳酸菌」として、GG菌やラクトバチクス・カゼイ・シロタ株、フェカリスFK-23、プランタラムL-137とL-92乳酸菌を一覧表で示した後、キリンのKW乳酸菌とL-92乳酸菌とを多項目にわたり比較した表を示した。

 KW乳酸菌については、学会発表や記者発表などで公開されている範囲内のデータであることを説明した上で、L-92乳酸菌が“エビデンス”で先行していることを報道関係者に印象付けるプレゼンテーション内容だった。

 武藤社長も質疑応答のときに、「L-92乳酸菌は7割の人が改善した。比較するつもりはないが、KW乳酸菌は4〜5割程度」と質問に答えた。

 確かに、ヒトで効果を検証した“エビデンス”のレベルは少なくとも公表されているデータを比較する限り、カルピスのL-92乳酸菌はキリンのKW乳酸菌を一歩リードしているようだ。

 L-92乳酸菌が花粉症を緩和する効果は、2002年と2003年の2度の花粉症シーズンで確認している。さらに2002年12月〜2003年2月には、“エビデンス”度の高いヒト介入試験のデータ収集で定評のある総合医科学研究所(大阪府豊中市)に依頼して、通年性アレルギー性鼻炎の症状を一部改善できることも確認している。

 これに対して公表されているKW乳酸菌のヒト試験データは、2003年の花粉症シーズン1回だけ。

 では、L-92乳酸菌の“エビデンス”はどれほど厳密なのだろうか。

 12月8日の研究発表会で藤原マネージャーが示し、同日発表会終了後に配布された同日付けの「CALPIS Laboratory Report(1)乳酸菌と花粉症などの抗アレルギー作用」にも掲載されているデータだが、2002年の花粉症シーズンでは目の症状スコアで有意な改善効果が認められ、2003年の花粉症シーズンでは日常生活支障度スコアで有意差が認められた。

 だが実は2003年は、目の症状スコアでは有意な改善効果は見い出されなかった。質疑応答でこの事実を明らかにした。

 カルピスは、2002年に認められた目の症状スコアの改善が2003年に認められなかったのは、投与する乳酸菌の菌数を2003年は2002年に比べて5分の1に減らしたことが影響したと質問に答えた。

 カルピスに限ったことではないが、数ある情報の中から、有益な有意差を確認できた項目を選び、それだけを公表するのは当たり前のように行われている。

 しかし望ましいのは、有益な有意差が得られたか得られないかにかかわらず、解析結果をすべて公表することだ。少なくとも、効果と直結する重要な指標については、公表すべきだ。そうでないと、望ましい効果とは逆に悪化したという結果が得られているのでは、という疑念さえ生じる。

 実際の発表時間には制約があり、多くのデータが水面下にかくれたままになるのはある程度しかたがないが、発表にはさらに工夫が必要だろう。

■情報伝達には正確さを

 もう一つ、L-92乳酸菌が優れていることを印象付ける点も気になった。

 「(L-92乳酸菌は)2000を超える菌株から選んだ」と、研究発表会の冒頭で武藤社長は語った。12月8日発表のカルピスのプレスリリースにも、「カルピスが保有する2000を超える菌株から選び抜かれた」との表現がある。

 一連の発表内容からすると、抗アレルギー作用を指標にして2000以上の菌株からL-92乳酸菌を選んだとの印象を受けるが、これは事実と異なる。

 実際にマウス経口投与でIgE抑制効果の強さを比較したのは10株だけ。その前に、(1)安全性、(2)官能評価、(3)製造加工適性、(4)腸管到達性の観点から2000以上の株のうち10株を絞り込んでいた。

 このうち(4)の腸管到達性は、腸管免疫に働きかけてアレルギー体質を改善するという乳酸菌の機能性からみて、抗アレルギー作用と関係性があるが、(1)(2)(3)は健康効果とほとんど関係ない。

 薬事法という壁がある以上、研究の積み重ねをもとに取得した“エビデンス”を、商品と一緒に消費者に伝えることはできない。

 このため、報道を通じた消費者への情報伝達がより一層、重要になる。他社の商品より優れているという印象を消費者にもってもらえるような報道を期待して、発表を工夫するのは大いに結構だ。

 しかし、こと“エビデンス”に関しては、より正確を期し、慎重な発表を望みたい。粗雑な発表が積み重なると、“エビデンス”を重視する医師や薬剤師などの専門家は、食品の健康効果や疾病予防効果に興味をもたなくなるだろう。(河田孝雄)


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