2003.12.05

鼻咽頭ぬぐい液からSARSウイルスの早期高感度検出が可能に

 重症急性呼吸器症候群(SARS)の発症1〜3日後に採取した鼻咽頭ぬぐい液から、SARSウイルスを80%の確率で検出できる、新たな技術が開発された。検体からのウイルスRNA抽出法を改善、さらに逆転写ポリメラーゼ連鎖反応法(RT-PCR)でウイルスを定量することで、検出感度を高めることに成功したという。香港大学Queen Mary病院微生物学部門のLeo L. M. Poon氏らによる研究結果で、Journal of Virology誌12月号に掲載された。

 現在、SARSの検査法として推奨されているのは、急性期と回復期のペア血清を用いる抗体検査と、RT-PCR法によるウイルス検出検査。前者は確実だが結果が出るのに数週間がかかる。的確な治療や感染防護策を早期から実施するためには、感染初期からの確実な(少なくとも高感度の)診断が必要だが、通常のRT-PCR法では、感染初期のウイルス検出率は20〜50%程度と不十分だった。

 また、RT-PCR法の場合、検体の採取時期に加え、検体によりSARSウイルスの検出率に差があることも知られている。ウイルス含有量の差を反映していると考えられており、糞便や喀痰(下気道由来検体)と比べ、鼻咽頭ぬぐい液(上気道由来検体)では検出率が低いことも問題となっていた。

 Poon氏らは、SARS疑い・可能性患者から、発症1〜3日後に採取された鼻咽頭ぬぐい液のうち、後に抗体検査でSARSウイルス感染が確認された50検体と、抗体検査が陰性だった30検体(対照検体)とを用いて、3種類のRT-PCR法を比較した。一つは、従来通りにRNAを抽出し、通常のRT-PCR法でRNAを増幅する検査(従来法)。もう一つは、RNAの抽出法を改変し、通常のRT-PCR法で検査する方法で、三つ目は改変RNA抽出法にリアルタイムRT-PCR法を組み合わせた定量検査だ。

 その結果、SARS陽性の50検体では、従来法での検出率がわずか22%だったのに対し、改変RNA抽出+通常RT-PCR法では検出率が44%に向上。改変法でRNAを抽出し、さらにリアルタイムRT-PCR法で定量測定すると、検出率は80%にまで高まった。一方、SARS陰性の30検体では、三つの検査法のいずれにおいても「偽陽性」は生じなかった。

 以上からPoon氏らは、RNAの抽出法を最適化し、リアルタイムRT-PCR法による定量化を行うことで、発症早期からのSARS診断が可能になると結論付けている。検出感度はこれまでプローブ(目的遺伝子増幅用のDNA断片)の違いで論じられることが多かったが、同一のプローブを用いても、前処理や検出法を変えることで、感度にこれほどの差が出ることは驚きだ。

 わが国では研究用試薬として、SARSウイルス検出用のリアルタイムRT-PCRキットがタカラバイオ(関連トピックス参照)やロシュ・ダイアグノスティックス(関連トピックス参照)から発売されており、等温遺伝子増幅法によるキットも栄研化学(LAMP法、関連トピックス参照)やタカラバイオ(ICAN法)から発売される予定。しかし、臨床現場で「実際に役立つか否か」は、どの時期に採取されたどの検体で、どの程度の検出感度が得られるかに強く依存する。検体の採取時期と種類を揃えた、公平な比較データが待たれるところだ。

 この論文のタイトルは、「Early diagnosis of SARS Coronavirus infection by real time RT-PCR」。アブストラクトは、こちらまで。(内山郁子)

■ 関連トピックス ■
◆ 2003.4.17 SARS速報】SARS原因ウイルスの検出用キット、タカラバイオが国内で無償提供
◆ 2003.12.4 ロシュ・ダイアグノスティックス、SARSウイルス定量キットを発売
◆ 2003.12.1 栄研化学、約1時間でSARSコロナウイルスを検出できるキットを製造承認申請−1回分は4000円以下

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