2003.11.28

【専門記者の目】 トクホ第1号から10年 疾病リスク低減表示への対応など、課題が山積

 厚生労働省が食品の効果表示を許可・承認する特定保健用食品(トクホ)の第1号商品が1993年に誕生してから、丸10年がたった。

 厚労省が、トクホとして効果や機能の表示を認めた品目は399(2003年10月7日許可分まで)を数え、推定で年間6000億円超の市場規模に育った。

 確かに、世界に先駆けた日本のトクホ制度は順調に広がっているようにみえるが、一方で、消費者により役立つ制度への改革を迫られている。

■疾病リスク低減表示が近く国際標準に■

 最大の課題は、消費者がはっきりわかるように、病気を防ぐ効果を明示する「疾病リスク低減表示」への対応だろう。

 食品の国際的な規格基準を決める国連関連組織コーデックス(略称Codex、正式名称はFAO/WHO合同食品規格委員会)では、ヘルスクレーム制度の問題が熱心に討議されており、早ければ2005年にもヘルスクレームのガイドラインが決まる。現在のトクホ制度では認められていない「疾病リスク低減表示」が、このガイドラインに盛り込まれることがほぼ確実になっている。

 コーデックスでの議論は、EU(欧州連合)加盟国主導の形で進められているが、「疾病リスク低減表示」を最初に制度として実現したのは米国。1990年に成立、1994年に完全実施になった「栄養表示教育法(NLEA)」という法律に基づき、「大豆たんぱく質は冠状動脈心疾患(心臓病)のリスクを低減する」など、12種類のヘルスクレームが認められている。

 膨大なエビデンス・データ(厳密な試験によって人間で効果を検証した論文)を精査し、大豆たんぱく質の場合は、1日当たり25gを摂取すれば、心臓病のリスクを低減することが確認された。この4分の1量に相当する6.25gの大豆たんぱく質を含む食品(豆腐や豆乳など)には、低脂肪などのいくつかの条件を満たしていれば、「心臓病のリクスを低減する」と、商品パッケージなどに表示できる。

 日本では、食品には効果・効能表示が認められていない。これは、医薬品の立場から食品の範囲を定義している薬事法が高い障壁となっているためだ。このため、食品に「疾病リスク低減」を表示することは不可能。また、厳密なエビデンス・データが要求されるトクホでも、「疾病リスク低減表示」は認められていない。

 もし、コーデックスで国際的な基準が決まれば、トクホ制度も対応を迫られることになる。

 トクホは、世界に先駆け1984年から、東京大学や京都大学などの農学部系研究者らが開始したプロジェクト研究「食品機能の系統的解析と展開」の成果をもとに制度化された。栄養、おいしさ、に続く食品の第3の機能として「体調調節」機能を提唱し、「機能性食品」という新しい用語を定着させた。

 現在も日本は、食品の機能性研究のレベルは高い。しかし、試験管の実験や動物実験で効果を確認したり、効くメカニズムを解明する研究で先駆的な成果をあげているものの、人間で効果を検証するエビデンス・データの蓄積では、欧米に遅れをとっている。

 理由はいくつかある。

 例えば、せっかく人間で効果を検証しても、その効果を疾病の名称とともに食品に表示できない。お金をかけた研究の成果を、消費者に訴えられないのだ。薬事法によって「疾病リスク低減」を表示できないのはもちろん、そもそも「病名」も食品には表示できないのが日本の現状だ。

 農学部系が研究の中核になっているため、臨床現場にいる医師などの医療スタッフとの連携が十分でなかったことも、欧米に遅れをとった原因といえる。

 日本では、医師らが栄養の教育をほとんど受けていないため、食品への理解が低い。たとえ食品の機能性研究で最新成果が得られても、これを基にした人間のエビデンス・データをとるときに、医師などが積極的に協力する機運がなかったのだ。

■忘れ去られた病者用食品制度の活性化を■

 確かにここ3年ほどの間に、生活習慣病に対応する商品が多数、トクホとして認められ、ヒット商品も増えてきた。高血圧や高脂血症、糖尿病といった病名は表示できないが、血圧やコレステロール、血糖値が高めの方に適した食品という表示が可能になった。

 実は、日本にも病名を明示できる食品の制度が存在する。1973年に制度化された病者用食品(medical food)だ。

 「厚生労働省は口をつぐんでいるが、病者用食品の位置づけをどうするのかは、今後の大きな問題」。11月25日に250人を集めて都内で開催された「『特定保健用食品』申請担当者講習会」で、「特定保健用食品の10周年」と題した基調講演を行った(財)日本健康・栄養食品協会(日健栄協)理事長の細谷憲政氏は壇上でこう語った。

 日健栄協は、厚生労働省の外郭団体として発足した業界団体で、97年からトクホの申請支援体制を発足させ、許可されたトクホの大半に関わってきた。

 細谷氏は、トクホ制度化の基となった「機能性食品の制度化についての報告書」を1990年にとりまとめた機能性食品検討会の座長を務めたが、その18年前の1972年に、東京大学医学部保健栄養の教授として栄養審議会(当時)に入り、病者用食品を立ち上げた人物でもある。

 病者用食品は、病気に対する予防や悪化防止に効果があることを表示できる食品。国があらかじめ定めた評価法に沿った許可基準型のみが認められてきたが、1998年5月にトクホと同様の仕組みの個別評価型が新設され、企業が独自に評価法を開発して、効果・効能を実証することにより表示許可を取得できるようになった。

 しかし、この個別評価で表示許可を取得した病者用食品はわずか2品目だけ。キリンビールが2000年3月に表示許可を取得し、同年7月に発売した潰瘍性大腸炎用食品「発芽大麦GBF]」(プレーンとコーヒー味)だ。

 2001年4月から「保健機能食品」制度が施行され、個別評価型のトクホと、許可基準型の栄養機能食品の2本立てとなってからは、個別評価型の病者用食品は忘れ去られた存在になっている。

 「疾病者の栄養状態を評価・判定し、それに見合った食事療法や経腸栄養法、静脈栄養法を実施する栄養療法が臨床の現場で行われ、欧米では膨大なエビデンス・データが蓄積されている。日本はそれに太刀打ちできるのだろうか。日本で経腸栄養に用いられている製品は、医薬品が7社12品目、食品(濃厚流動食と呼ばれる)が15社94品目あるが、このうち食品については、病者用とか、何に効くとかを表示できない。病者用食品や疾病リスク低減表示に、もっと関心を持って欲しい。日本の保健医療はこれで大丈夫なのだろうか」。細谷氏は警鐘を打ち鳴らす。(河田孝雄)

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