2003.11.27

WHO/ISHが高血圧ガイドラインを事実上改訂、「コスト重視の米国」と「リスク重視の欧州」の中間的な内容に

 世界保健機関(WHO)と国際高血圧学会(ISH)はこのほど、高血圧管理に関する声明を、Journal of Hypertension誌11月号誌上で発表した。声明の形を取ってはいるが、1999年に発表されたWHO/ISH高血圧管理ガイドラインの事実上の改訂版。利尿薬を第一選択薬と位置付ける一方、血圧値と危険因子数を組み合わせたリスク評価戦略を採用するなど、今年発表された米国と欧州のガイドラインの折衷案のような形となった。

 WHO/ISHガイドラインの目的は、発展途上国から先進国まで様々な地域の国民を対象として、高血圧診療戦略の最大公約数を提示すること。このWHO/ISHガイドラインと、米国合同委員会(JNC)のガイドラインの二つが、世界の高血圧診療に多大な影響を与えてきた。

 ところが、1999年に発表されたWHO/ISHガイドラインでは、地域性や国情の違いを反映したガイドラインを各国が独自に作成するよう強調。これを受け世界各地で独自ガイドラインの作成が進み、以前から独自路線を貫いていた米国(関連トピックス参照)だけでなく、欧州でも初めて高血圧ガイドラインが策定(関連トピックス参照)されるなど、今年に入って大きな動きが続いていた。

 今回の声明では、旧ガイドラインと同様、血圧値に危険因子数を加味するリスク評価法を採用。原則として血圧値だけで治療戦略を決める米国のJNC7とは一線を画した形になった。半面、薬剤選択ではすべての降圧薬を横並びで推した旧ガイドラインの方針を転換し、「少量の利尿薬」を第一選択薬として推奨。欧州流の「リスクに基づく個別医療」と米国流の「コストに配慮した一律医療」の、どちらにも偏らない中間的な内容になった。

リスク評価は欧州流、第一選択薬は米国流

 声明で提示された降圧治療の流れは、まず血圧値と危険因子から心血管疾患の発症リスクを予測し、リスクに応じた治療を行うというもの。リスク評価に用いるチャートは、横軸に血圧値、縦軸に危険因子の数・種類や合併症の有無を取る旧来通りの形を用いた。ただし、旧ガイドラインでは心血管疾患発症の絶対リスク(今後10年間の予測発症率)を4段階に分類していたが、今回の声明では旧ガイドラインの「超高リスク」を「高リスク」にまとめ、1.低リスク(15%未満)、2.中リスク(15〜20%)、3.高リスク(20%超)−−という3段階で評価した。

 降圧目標値は、低・中リスク者(収縮期血圧を140mmHg未満)と高リスク者(130/80mmHg未満)の2段階に設定。低・中リスク者では収縮期血圧のみに着目すべきとした点と、高リスク者の目標値を引き下げた点が、旧ガイドラインからの改定点だ。女性や80歳までの高齢者にも、男性や若年者と同様の血圧管理を求めた。また、血圧分類はリスク評価のみに用いており、「診断基準としての血圧分類」をまったく提示していない点も、旧ガイドラインからの大きな変更点となっている。

 薬剤選択では、2000年に発表されたメタ分析結果に加え、「ALLHAT」(the antihypertensive and lipid-lowering treatment to prevent heart attack trial)研究(関連トピックス参照)の結果を取り上げて、主要な心血管系疾患の発症予防に関し、利尿薬、β遮断薬とカルシウム拮抗薬、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬との間に差がないことを強調。特定の薬剤に対する積極適応がない患者に対しては、有効性とコストを考慮して、少量の利尿薬を処方するよう推奨した。

 さらに、今回の声明では「費用効果」について、一章を割いて言及。高リスク者では高価な降圧薬でも費用効果面の有用性が認められるが、低リスクの患者では、降圧薬が安価でない限り、薬物療法の費用効果は高くなり得ないと明記している。

 これで、JNC7に続き世界を対象にした高血圧診療ガイドラインが、低用量利尿薬の積極活用を推奨したことになる。来年発表の日本高血圧学会のガイドラインでこの結果がどう受け止められ、どのように組み入れられるのかに注目したい。

 この声明のタイトルは、「2003 World Health Organization (WHO)/International Society of Hypertension (ISH) statement on management of hypertension」。アブストラクトは、こちらまで。(星良孝、日経メディカル

■ 関連トピックス ■
◆ 2003.5.15 米JNCが高血圧ガイドラインを改訂、血圧120〜139/80〜89mmHgを「高血圧前症」に
◆ 2003.6.16 ESH/ESCの欧州版高血圧GLが発表、「高血圧前症」を用いず旧来通りの血圧分類を採用
◆ 2002.12.18 「利尿薬はACE阻害薬、Ca拮抗薬に勝る」−−NHLBIが「ALLHAT」研究結果を発表

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