2003.11.27

ARDS・ショック患者への肺動脈カテーテル、無挿入例と予後に差なし

 急性呼吸急迫症候群(ARDS)やショック状態のため、集中治療室(ICU)管理となった約700人を対象に行われたフランスの無作為化試験で、肺動脈カテーテルを挿入しても、90日までの短期予後は改善されないことがわかった。肺動脈カテーテルに生命予後改善効果がないことは、ハイリスク手術患者を対象としたカナダの試験(関連トピックス参照)でも示されており、臨床的な意義に対してさらに大きな疑問符が付いたと言えそうだ。研究結果は、Journal of the American Medical Association(JAMA)誌11月26日号に掲載された。

 肺動脈カテーテルはその形状からスワンガンツ・カテーテルとも呼ばれ、心充満圧や混合静脈血酸素飽和度など、患者管理に欠かせない様々な生理的情報を得るモニタリング手技として、ルーチンに挿入するICUも少なくない。しかし、心エコーなど非侵襲的なモニタリング手段の進歩などを受け、偶発症のリスクを伴う肺動脈カテーテルにはメリットがないとする報告もあり、議論の的となっていた。

 そこで、フランス肺動脈カテーテル研究グループ(French Pulmonary Artery Catheter Study Group)は、ハイリスク手術患者と並び、肺動脈カテーテルの良い適応と考えられているARDSやショック状態の患者を対象とした、無作為化比較試験を計画。36カ所のICUセンターに入院したARDSまたはショック患者を無作為に2群に分け、一方のみに肺動脈カテーテルを挿入して、28日後の死亡率などに差が現れるかを調べた。なお、肺動脈カテーテルは、不要と判断した時点ですぐ抜去し、挿入期間の中央値は2.3日だった。

 対象患者の平均年齢は63歳、3分の2が男性で、術後患者は1割強。ほぼ全例が人工呼吸管理下にあり、半数強がARDS、8割弱がショック状態(うち9割弱は敗血症性ショック)だった。重症度を反映する簡易急性生理スコア(SAPS 2;Simplified Acute Physology Score)の平均値は53点、臓器不全評価スコア(SOFA;Sequential Organ Failure Assessment Score)の平均点は10点。

 その結果、一次評価項目である28日後の死亡率は肺動脈カテーテル挿入群(335人)が59.4%、非挿入群(341人)が61.0%で、肺動脈カテーテル挿入群で低い傾向はあるものの有意差はないことが判明。14日死亡率(49.9%対51.3%)、90日死亡率(70.7%対72.0%)にも差はなかった。患者の病態(ARDS単独、ショック単独、ARDS・ショック合併)や割り付け時のSAPS 2スコア別の解析でも、両群間に差は認められなかった。

 肺動脈カテーテル挿入群では、合併症として動脈穿孔(17人)や不整脈(60人)などが生じたが、合併症による死亡例はなかった。また、カナダの研究では肺塞栓が肺動脈カテーテル挿入群で有意に多かったが、今回の研究では肺塞栓や深部静脈血栓症は一人も生じなかった。

 以上から研究グループは、ARDSやショック状態の患者に対し、肺動脈カテーテルの挿入は安全に行えるが、生命予後の改善効果もみられないと結論。論文に対する論説では、「肺動脈カテーテルによるモニタリングが救命につながり得る患者群」の同定と、そうした患者群を対象とした、モニタリングと治療戦略を組み合わせた臨床研究が急務だと論じている。

 この論文のタイトルは、「Early Use of the Pulmonary Artery Catheter and Outcomes in Patients With Shock and Acute Respiratory Distress Syndrome」。アブストラクトは、こちらまで。(内山郁子)

■ 関連トピックス ■
◆ 2003.1.7 ハイリスク手術患者への肺動脈カテーテルは不要、大規模無作為化試験で判明

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