2003.11.25

【救急医学会速報】 テロ、難民、NBC災害など、大規模な人為的災害への対策必要性を強調−−会長講演より 

 「複雑化する災害に対する医療対策」と題した会長講演では、災害医療の重要性、とりわけ、テロや核・生物・化学(NBC)災害、難民問題、新興・再興感染症など人為的要素が大きい災害に対する対策が必要になることを訴え、集まった救急医療専門医に対して、コーディネーション能力や緊急対応能力の重要性を強調した。19日午後、今期総会・学術集会会長で日本医科大学救急医学教授の山本保博氏が発表した。

 山本氏は、6400人以上という犠牲を出した阪神淡路大震災以降、災害医療体制が大幅に見直されたと指摘する。災害拠点病院の整備、災害医療従事者の育成、災害医療訓練の充実、災害時情報システムの整備、トリアージタッグの標準化が実施された。この震災を機に自然災害対応はかなり整備された。

 その一方で、戦争やテロとそれに伴う難民の発生など人為的な色彩が強い災害が増加しており、「災害の複雑化に注意を払う必要がある」(山本氏)と指摘
した。

 なかでも、山本氏が災害医療の重要テーマとして強調するのが、「Mass Gathering」だ。これは、1000人以上が同じ目的のために集まるスポーツイベントや祭り、花火大会、コンサートなどを指す。2001年7月に11人の死者と247人もの負傷者を出した明石花火大会における歩道橋事故はその典型例と言える。

 こうしたMass Gatheringにおける災害医療体制を組織的に全国規模で運営した試みが、2002年に開催されたワールドカップサッカー大会だった。同大会では、集団災害医療対策本部を置き、スタジアム内医療救護班のほかに集団災害対応医療班やヘリ搬送医療班を用意し、直近後方病院と災害拠点病院が支援するという体制がとられた。

 同大会に先立って集団医療体制に関するガイドラインを作成、入念な準備をして臨んだことで、ほぼ安全な大会が実現したようだ。大会中、国内の観客総数は約150万人で、1661人(観客1万人当たり12.1人)の傷病者発生にとどまったという。

 山本氏は試案として、イベントの種類別に「危険度数」を設定する方式を提案している。博覧会や演劇など通常のイベントでは、観客1万人に対して、医師一人、看護師二人、調整員一人から成る救急・災害対応医療チーム1隊を割り当てるが、花火大会では1.2倍、花見では1.5倍、けんか祭りでは2倍の医療チームを派遣するというものだ。

 すべてのイベントにワールドカップと同等の体制を組むのはコスト面からも現実的ではない。ただ、危険度を評価し、それに応じた災害医療体制を用意する方式は注目に値する。

 山本氏は、重症急性呼吸器症候群(SARS)などの新興・再興感染症についても、災害医療としての対応が必要とみる。SARSよりもはるかに感染性の高い天然痘のアウトブレークについてシミュレーションを行うと、日本でたった一人患者が出ただけで、200万人から500万人が罹患するという。感染症による被害を防ぐためには、保健、医療、行政、消防などの連携による対応体制の確立が急務とする意見は重く受け止めるべきだろう。

 一方、海外に目を向けると、国際援助の場で大きな課題になっているのが、CHE(complex humanitarian emergency)だという。これは、「宗教的対立などを背景にした内乱や戦争など民族間の武力闘争が起きて難民や国内避難民が生じ、食糧不足も加わって、多数の住民の健康が侵される比較的急性の状態」を指す。現在のイラクの状態がまさにこれに当たる。多数のイラク国民が難民として周辺諸国に脱出し、国境で出国を阻まれた人々が国内避難民になった。人口移動による病気の拡散、大量殺伐、民族浄化、周辺国の治安悪化などが発生するという。

 こうした状態では、援助者の安全確保が難しくなる。当面、日本国内ではこの問題は「他人事」でしかないのかもしれないが、近隣諸国で政権崩壊などが起こって大量の難民がボートで押し寄せるといった事態が将来にわたってないとは言い切れない。ガイドラインの作成や事前の検討は不可欠と言える。

 山本氏は、こうした様々な災害に対応する災害医療分野に求められる要件として、社会の要請から生まれた医学であることを認識し、コーディネーション能力と緊急対応能力を最大限に発揮する必要性を指摘し、「今後とも救急医療は災害医学の発展に寄与していくべきである」と締めくくった。(中沢真也)

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