2003.11.20

HIV感染患者への初回HAART療法、「CD4が200」まで延期可能−−HOMER研究より

 ヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染患者に多剤併用療法(HAART療法:Highly Active AntiRetroviral Therapy)を開始する場合、開始時のCD4陽性細胞数が末梢血1μl当たり200個を上回っており、かつきちんと服薬が行われていれば、CD4陽性細胞数が350個以上の段階からHAART療法を開始した場合と2年生存率に差がないことがわかった。転帰に大きな影響を与えたのは、開始時のCD4陽性細胞数よりも、服薬継続性(アドヒアランス)だったという。

 「CD4陽性細胞数がどの程度に落ちるまで治療開始を待てるか」は臨床上の大きな課題で、これまで数々の研究が報告されてきたが、服薬継続性も考慮に入れた研究は初めて。今回得られたデータは、今後のHIV治療戦略に大きな影響を与えそうだ。研究結果は、Annals of Internal Medicine誌11月18日号に掲載された。

 HIV感染症治療では、異なる作用機序を持つ抗HIV薬を複数(通常は3剤)組み合わせるHAART療法が、標準的な治療法になっている(関連トピックス参照)。しかし、HAART療法は服薬方法が複雑な上、大半の患者に何らかの副作用が生じ、さらにウイルスが多剤耐性化するリスクが伴う。そのため、初回のHAART療法の開始を「どこまで遅らせられるか」が議論の的となってきた。

 当初は免疫能が余り低下しないうちに(CD4陽性細胞数が500を切ったら)HAART療法を開始すべきだとされてきたが、その後の研究で、CD4が350まで減った段階から治療を開始しても、CD4が500の段階から治療を始めた人と、日和見感染などの合併症やエイズの発症率、死亡率に差がないことが判明。逆に、CD4が200を切ってから治療を開始した人では、明らかに予後が悪いこともわかった。しかし、CD4が200〜350の範囲では、治療を始める最適のタイミングに関して定まった報告はなく、また、既存の研究では患者が薬をきちんと飲んでいるか否かを考慮していなかった。

 そこで、カナダBritish Columbia大学附属St. Paul病院のEvan Wood氏らは、HIV感染者に抗HIV薬を無料給付して薬物療法の継続性や予後を観察する「HOMER」(the HAART Observational Medical Evaluation and Research)研究の参加者データを解析。一般臨床に近い条件下でHAART療法を行った場合、開始時のCD4陽性細胞数や服薬継続性が予後にどのような影響を与えるかを調べた。

 対象は、1996年8月から2000年7月までにHAART療法を開始したHIV感染者1422人。2002年3月まで追跡し、服薬率が75%を上回るか否かや、開始時のCD4陽性細胞数で層別化した上で、2年生存率を比較した。

 その結果、服薬率が75%を上回っていれば、開始時CD4陽性細胞数が200の人でも350以上の人でも、2年生存率に差がないことが判明(CD4陽性細胞数が200〜249:2年生存率93.2%、同250〜299:91.0%、同300〜349:94.7%、同350以上:92.0%)。ただし、CD4陽性細胞数が200を切る場合の2年生存率は、服薬率が75%以上でも80.4%と、明らかに悪かった。一方、服薬率が75%を下回る場合、開始時のCD4陽性細胞数が200〜350の人の方が200を切る人より生命予後は良いが、それでも2年生存率は80%前後に留まっていた。

 今回得られたデータが示すのは、2年生存率に大きな影響を与えるのが、開始時のCD4陽性細胞数よりも服薬の継続性だということ。さらに、きちんと服薬した人では、CD4が200まで治療開始を遅らせても、CD4が350の段階から治療を始めた人と生存率に差がないということだ。比較的短期の生存率という観点からのみの検討ではあるが、研究グループは「今回の結果は、CD4陽性細胞数が200に落ちるまで、HAART療法の開始を安全に延期できる可能性を示唆する」と強調している。

 この論文のタイトルは、「Effect of Medication Adherence on Survival of HIV-Infected Adults Who Start Highly Active Antiretroviral Therapy When the CD4+ Cell Count Is 0.200 to 0.350 x 109 cells/L」。現在、全文をこちらで閲読できる(リンク先の運営次第で変更になることがあります。ご了承下さい)。(内山郁子)

■ 関連トピックス ■
◆ 2003.7.16 HHSがHIV治療ガイドラインを改訂、初めて“第一選択のレジメン”を明示

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