2003.11.18

AMI後左室機能低下患者の死亡率、バルサルタン単独、バルサルタン+カプトプリル併用とカプトプリル単独の3群間で有意差出ず−−VALIANT試験より

 急性心筋梗塞(AMI)後に心不全または無症候性の左室機能低下を合併した約1万5000人を対象とした無作為化二重盲検試験で、対照薬として用いたアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬のカプトプリル(わが国での商品名:カプトリルなど)単剤と、アンジオテンシン2(A2)受容体拮抗薬のバルサルタン(わが国での商品名:ディオバン)単剤、さらにカプトプリル常用量にバルサルタン半量を追加投与した3群間で、総死亡や心イベント発生率に有意差がないことが明らかになった。副作用による薬剤の減量や中止は、カプトプリル単剤とバルサルタン単剤とには有意差がなく、カプトプリル−バルサルタン併用では有意に多かった。研究結果は、New England Journal of Medicine(NEJM)誌11月13日号に掲載された。

 この臨床試験「VALIANT」(Valsartan in Acute Myocardial Infarction Trial)は、複数のプラセボ対照試験でAMI後患者の予後改善効果が示されているACE阻害薬を対照薬に、A2受容体拮抗薬の効果と安全性を調べた過去最大の臨床試験。同様の患者群を対象に、A2受容体拮抗薬のロサルタン(わが国での商品名:ニューロタン)単剤とカプトプリル単剤とを比較した「OPTIMAAL」」(Optimal Trial in Myocardial Infarction with the Angiotensin 2 Antagonist Losartan)試験(関連トピックス参照)との違いは、比較群間に「A2受容体拮抗薬とACE阻害薬の併用群」が設けられていること。より大規模・長期間の試験で、ハイリスク者比率も高い。

 対象患者の平均年齢は65歳、3割が女性で、血圧の平均値は123/72mmHg、左室駆出力(LVEF)の平均値は35.3%。患者は大半が白人で、アジア系人は約1%だった。患者の3分の2はQ波梗塞、6割が前壁梗塞で、35%は血栓溶解療法、15%はPCIを直接受けた(プライマリーPCI)。糖尿病は2割、高血圧は半数強が合併しており、3割が喫煙者。3割弱にMI、6%に脳卒中の既往があり、以前から心不全を合併していた人は15%だった。薬剤は少量から漸増し、維持量(1日量)はカプトプリル単剤群(4909人)が150mg、バルサルタン単剤群(4909人)が320mg、併用群(4885人)がカプトプリル150mg+バルサルタン160mg。追跡期間の中央値は24.7カ月だった。

 一次評価項目の総死亡は、カプトプリル単剤群が19.5%、バルサルタン単剤群が19.9%、カプトプリル−バルサルタン併用群が19.3%。3群間に有意差がなく、対照のカプトプリル単剤群と比べ、バルサルタン単剤群、カプトプリル−バルサルタン併用群は、効果の点で「勝っている」ことも「劣っている」ことも示されなかった。二次評価項目の心イベント発生率(心血管死、非致死性MI、心不全、脳卒中)も、3群間に有意差は認められなかった。

 次に研究グループは、カプトプリル単剤群とバルサルタン単剤群との間で、非劣性解析を行った。その結果、バルサルタンは一次、二次評価項目のいずれにおいても、カプトプリルに劣らないことが判明。先の「OPTIMAAL」試験ではこの“非劣性”は示されておらず、バルサルタンはA2受容体拮抗薬として初めて、AMI後ハイリスク患者に対し、効果という観点でACE阻害薬の代替薬となり得ることが明らかになった。

 副作用による薬剤の減量・中断率は、カプトプリル単剤群とバルサルタン単剤群とに有意差がなく、カプトプリル−バルサルタン併用群では有意に多かった。減量や中断につながった副作用の内訳では、カプトプリル群で咳や発赤、味覚障害が有意に多く、バルサルタン群で低血圧や腎機能障害が有意に多かった。

 以上から研究グループは、心イベントのリスクが高いAMI後患者に対し、バルサルタン単剤はカプトプリル単剤と同程度に有効だと結論。一方、カプトプリルにバルサルタンを組み合わせた場合は、生存率を改善することなく副作用を増やすと結論付けている。

 この研究で示唆深いのは、「AMI後の心機能低下者」という患者層に対し、ACE阻害薬にA2受容体拮抗薬を追加投与しても、副作用が増えるだけで予後の改善効果が認められなかったこと。軽度〜中等度の心不全患者を対象とした「Val-HeFT」(Valsartan Heart Failure Trial、NEJM;345,1667,2001)試験や「CHARM-Added」(Candesartan in Heart failure -- Assessment of Reduction in Mortality and morbidity)試験(関連トピックス参照)では、A2の追加投与により心不全の増悪などが抑制されることが示されており、まさに対照的な結果となった。

 患者層の違いには留意すべきだが、「VALIANT」試験では、A2受容体拮抗薬の追加投与が有効性と副作用とを勘案した「有用性」に結びつかなかったことは重視すべきだ。原著論文に対する論説では、今回の結果が、両薬併用によるレニン−アンジオテンシン系の「より完全なブロックがより有効なのか」という重要な問いを投げかけたと論じている。

 また、論説では、AMI後ハイリスク患者の治療に関し、今回初めてA2受容体拮抗薬がACE阻害薬の代替薬になり得ることが示されたことを受け、「どちらを第一選択薬にすべきか」に関しても言及している。

 論説を執筆した米国Houston退役軍人医療センターのDouglas L. Mann氏らは、原著論文の末尾に記されている、「どちらを選ぶかは累積的な臨床経験、忍容性、安全性、処方しやすさと価格に依存するだろう」(the choice between these alternative treatments will depend on cumulative clinical experience, tolerability, safety, convenience, and cost)との文章を引用。この基準に当てはめると、累積的な臨床経験はACE阻害薬の方が多い上、米国では設定投与量での価格(カプトプリルは後発品価格を採用)に4〜6倍(日本では先発品で2.3倍、後発品で8.2倍)の差があると指摘し、ACE阻害薬が論理的には今後もAMI後ハイリスク患者の第一選択薬になると記している。

 原著論文のタイトルは、「Valsartan, Captopril, or Both in Myocardial Infarction Complicated by Heart Failure, Left Ventricular Dysfunction, or Both」。アブストラクトは、こちらまで。論文に対する論説のタイトルは、「Angiotensin-Receptor Blockade in Acute Myocardial Infarction ? A Matter of Dose」。アブストラクトは、こちらまで。(内山郁子)

■ 関連トピックス ■
◆ 2002.9.12 AMI後ハイリスク患者の死亡率、ロサルタンとカプトプリルで有意差出ず−−OPTIMAAL試験より
◆ 2003.9.5 ESCで発表の3臨床試験「CHARM」「EUROPA」「ESTEEM」、原著論文がLancet誌HP上で早期公開

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