2003.11.14

【ピックアップ】 AHAにみる米国学会のメディア戦略

 世界中の循環器専門医らの熱い注目を集める米国心臓協会(AHA)年次集会。毎年多数の聴衆が訪れ、今年の参加者数も2万7000人に達した。その一角を占めるのが、米国内外からやってくる記者や編集者。今年も400人を超える記者たちが、プレスルームに集結した。なぜAHAの学術集会は、これほどまでに多くのメディアを呼び寄せるのだろう。

 その最大の理由は、ニュースバリューのある新鮮な発表が行われること。しかし、素晴らしい研究成果が発表されているにも関わらず、報道につながらない学術集会は数多い。AHAは、研究成果を正確に、わかりやすく報道陣に伝え、報道をサポートする仕組みを持っているのだ。

 学術集会の取材に当たる記者には、学会プログラムに加え、膨大な量のニュースリリースが渡される。うち一部の発表については、学会期間の午前中を通して記者会見が開催され、発表者から直接、発表内容のレクチャーを受けることができる。質疑応答の時間も十分に設けられている。

 例えば最も注目度が高い「Late Breaking Clinical Trials」に関しては、毎朝1時間、記者会見を実施。発表内容の概要をまとめた紙に加え、演者によってはスライドのコピーを配り、研究成果をわかりやすい言葉で説明する。AHAで発表される医学研究には、少なくとも一部は国民の税金が使われており、臨床研究の場合は税金に加え患者の協力があってこそ実施できる。その成果を大衆に還元するのがメディアであり、メディアは患者の、大衆の代表(representative)であると位置付けられているのだ。

 もちろん、記者会見が行われるからといって、本セッションの取材が制限されるわけではない。AHAが記者会見やニュースリリースに取り上げていない発表の取材や報道も、まったく自由に行える。この公開性も、メディアにとってのAHAの大きな魅力の一つになっている。

 AHAのもう一つの魅力は、プレスセンター機能が充実していること。記者会見場に隣接して、広大なスペースと電話、パソコン、コピー機やファクスなどの設備を用意。大多数を占めるノートパソコン使用者の要望に応え、今年からはインターネットの高速回線も配備された。このプレスセンターを基地に、記者会見や取材に出かけ、戻ってきて原稿を執筆し、配信する−−。記者活動のすべてを完結できる十分な設備が用意されているわけだ。

 さらに、記者に対してはビュッフェ形式の朝食と昼食も提供される。特に海外から訪れた記者の場合、米国の言葉や習慣に精通していないため、食事に苦労することが少なくない。そうしたストレスを少しでも軽減し、取材活動を円滑にするための細かなサポートを、AHAでは受けることができる。

 こうしたAHAの姿勢は、多くの記者に好意的に受け止められており、毎年のように取材に訪れる記者も少なくない。そして、メディアとの良い関係ができあがってくると、一般にはあまり報じられることがない「学会声明」や、個別の事象に対する「学会見解」も、報道される機会が自然と増える。しかも世界的に。米国の一団体に過ぎなかったAHAが、世界的な国際学会へと成長した要因の一つとして、このメディア戦略の巧さがあると言えるのではないだろうか。

 残念ながら日本の学会の多くは、メディア対応が十分ではなく、特に海外メディアに対しては開催情報すら行き渡っていない。米国・欧州と並び、アジアを代表する国際学会を目指すのであれば、まずは海外を含めたメディアへの、積極的な働きかけと取材支援を行うのが早道かもしれない。(内山郁子)

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