2003.11.14

【AHA2003速報】 ピロリ除菌でACS患者の予後が改善か、スペインの少数例検討が示唆

 急性冠症候群(ACS)患者92人を対象に行われたスペインの介入試験で、ヘリコバクター・ピロリ(H.ピロリ)菌の感染者に除菌療法を行うと、除菌が成功した人では冠動脈イベントの再発率が下がり、H.ピロリ菌の非感染者並みになることがわかった。研究を行ったスペインBarcelona Hospital ClinicのAlessandro Sionis氏らは、「より大規模な試験での検証は必要だが、ACS患者がH.ピロリ菌に感染している場合、除菌で再発を抑制できる可能性がある」とみている。研究結果は、11月11日の一般口演「Therapeutic Strategies in ACS」で発表された。

 冠動脈疾患の発症や再発に、種々の細菌・ウイルス感染が関与しているとの疫学報告は数多い。クラミジア(Chlamydia pneumoniae)や歯周病菌(Porphyromonas gingivalis関連トピックス参照)、サイトメガロウイルスなど、様々な病原体感染と冠動脈疾患との関連が報告されてきた。H.ピロリ菌もそうした「冠疾患原因疑い」を持たれている病原体の一つで、動物実験や人での検討により、H.ピロリ感染が血小板の活性化を通して慢性炎症を惹起するとのデータが得られている。しかし、冠動脈疾患患者で、H.ピロリ感染と血小板マーカーとの関連を調べた研究はなかった。

 そこでSionis氏らは、ACSで入院した成人患者のうち、中等症以上の心不全や消化管潰瘍、腎機能・肝機能の低下がなく、抗菌薬を服用していない92人に対し、退院後(ACS発症・再発2週間以内)にH.ピロリ菌検査を実施。陽性だった49人をプラセボ群と除菌群に1対2の割合で割り付け、除菌と血小板マーカー値の変化やACSの再発率との関連を調べた。H.ピロリ菌に感染していなかった41人は対照群として、同様にマーカーや予後を評価した。H.ピロリ菌感染の有無は尿素呼気試験で調べ、除菌にはプロトンポンプ阻害薬(PPI)のオメプラゾール(商品名:オメプラール、オメプラゾン)と抗菌薬のアモキシシリン(AMPC;商品名:パセトシン、サワシリン、アモリンなど)、トリコモナス症治療薬のメトロニダゾール(MNZ;商品名:フラジールなど)の3剤を1週間投与するPAM療法を用いた(関連トピックス参照)。

 2カ月後に再度、尿素呼気試験を行ったところ、除菌群に割り付けられたH.ピロリ菌感染者31人中21人で、除菌が成功。しかし、P-セレクチンなど血小板活性化を反映する検査値は、H.ピロリ菌感染の有無や除菌の成否によらず、ほとんど変動が認められなかった。また、今回の検討ではベースラインのマーカー値に関しても、感染者と非感染者とで有意な差は認められなかった。

 次にSionis氏らは、心イベントの再発率が、感染の有無や除菌の成否で変わるかを調べた。すると、非感染者や除菌成功者では、8割近い人で1年後もACSの再発がみられないのに対し、除菌に失敗した人やプラセボ群に割り付けられた人、つまりH.ピロリ菌の持続感染が続いている人では、ほぼ半数が1年以内にACSを再発していた。年齢や性別、高血圧などの危険因子や服用薬を含めた多変量解析では、「危険因子あり」(相対リスク比:2.58)と並び、「H.ピロリ菌の持続感染」(相対リスク比:3.07、95%信頼区間:1.35〜6.98)が、有意な予後因子であることがわかった。

 ただし、この研究は症例数が少なく、「血小板マーカー値の検討には十分だが、予後の違いをみるための検出力は十分ではない」とSionis氏は注意を促す。つまり、今回みられた予後の差は、症例数不足による偶然の産物(αエラー)の恐れがあるわけだ。実際、冠動脈疾患に対する除菌療法は、少数例の報告ではポジティブな結果が多かったが、大規模研究では否定的な結果が報告されるケースが相次いでいる(関連トピックス参照)。果たしてH.ピロリ菌除菌はACS患者の予後を改善し得るのか−−。日本のようにH.ピロリ菌感染率が高い国でこそ、検証が可能な問いなのかもしれない。(内山郁子)

■ 関連トピックス ■
◆ 2003.10.14 糖尿病合併症学会速報】歯周病菌の中でPg菌が2型糖尿病に強く関与−−血清抗体価による検討で判明
◆ 2003.10.17 DDW-Japan 2003速報】保険重視からエビデンス重視へ−−H.ピロリ菌診療ガイドライン改訂版の骨子が紹介
◆ 2003.9.19 冠動脈疾患の二次予防に「クラミジア除菌療法」は無効−−WIZARD試験より

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